科学研究費補助金 基盤研究 (B)
「無限次元リー代数によるリーマン面の位相幾何学的研究」
課題番号: 24340010, 研究期間: 平成 24 - 26 年度, 代表者: 河澄響矢 (東大数理).
本 website
の目的は、上記科研費による研究の内容を広く社会に発信することにあります。具体的には、本研究の背景、本研究によって開催された研究集会の詳しい情報お
よび得られた研究成果を随時紹介していく予定です。
この研究の目指すもの:本研究の目標を非専門家向けに書いています。
この研究によって開催/共催される研究集会:
この研究の成果(近況報告:
新しいものから並べることにしました。):
・すでに 14 年 4 月に、種数 0 境界成分数 3 曲面についてスタンダード指数的展開による Turaev
余括弧積のテンソル表示に成功していました。この website では、その先まで出来たところで(つまり柏原 Vergne
問題との解によるテンソル表示が出来たところで)ご報告しようと思っていました。しかし、そこまでの道のりはあと1年間くらいは必要であることに気付きま
した。テンソル表示は Bernoulli
数をつかってきれいに書けます。証明は二つの柱からなっていて、ひとつは連携研究者の久野氏が予想して私が証明した公式であり、もう一つは
Massuyeau-Turaev 両氏が定義したある演算に関する補題です。どちらにも自然な形で Bernoulli 数が出てきます。(H26.
9.24)
一般の n \geq 2 について、種数 0 境界成分数 n+1の曲面に一般化できました。(H26.12.3 追記)
・アナウンスのプレプリント
A regular homotopy version of the Goldman-Turaev Lie bialgebra, the
Enomoto-Satoh traces and the divergence cocycle in the Kashiwara-Vergne
problem, arXiv: 1406.0056
(2014)
を書きました。2014 年 1 月の藤井道彦氏主催の京大数理研研究集会の報告集である数理研講究録に提出しました。内容は、2014 年 1
月にえられた結果のアナウンスです。(すぐ下の記事に書いた結果です。)題名が長過ぎて、お行儀が悪かったかと思いますが、内容は、
Goldman-Turaev Lie
双代数と榎本-佐藤 trace と柏原 Vergne
問題の三者の間に密接な関連があるようだということで、言いたいことは題名に尽きていると言えなくもありません。(H26. 6.8)
・しばらくのご無沙汰でした。いろいろな試みが上手くいかず、ここでご報告できるような結果が得られなかったためです。やっと進展があったのでご報告しま
す。
さて、正則ホモトピーを考えることで Goldman-Turaev Lie
双代数の精密化ができます。この精密化の完備化にも、これまでと同様にトレリ群が埋め込めます。その上で精密化した
Turaev 余括弧積を見ると Enomoto-Satoh trace が出てきます。境界成分が一つの場合は、ジョンソン核で
Enomoto-Satoh trace が(Earle 類になる第一項を除き)0 になることの幾何学的別証ができました。Earle
類になる第一項の部分の我々の解釈は、古田幹雄氏による曲面の framing を使った Earle
類の解釈そのものです。正直なところを言えば、正則ホモトピーを考えるというアイディアは、古田氏の解釈を参考にして得られました。種数 0
の場合、つまり framed pure braid 群の場合も Enomoto-Satoh trace が考えられますが、それは柏原
Vergne 問題での発散コサイクルに Earle 類に相当する第一項を足したものになります。この和が framed pure braid
群の上で消えることの幾何学的証明も得られました。種数 0
の場合を含め、境界成分が二つ以上の場合に、古田氏の解釈を用いて Earle
類を拡張し、その詳しい挙動を調べることが喫緊の課題として浮かび上がってきました。(H26.1.16) (H26.2.5 字句修正)
・サーヴェイ・ペーパー
The Goldman-Turaev Lie bialgebra and the Johnson homomorphisms, arXiv:
1304.1885
(2013)
を連携研究者の久野氏とともに書きました。ジョンソン準同型に関する久野氏と私の一連の結果を概説しています。一連の原論文は、時間とともに発展して行く
途中経過が書かれているので、読みにくい部分もあるかと思います。したがって、おそらく今回の論文から読み始めていただくのが見通しがよいと思います。た
だし、原論文と異なる記号が幾つかありますのでご注意下さい。 (H25.4.9)
・プレプリント
Surface topology and involutive bimodules, arXiv: 1301.1398
(2013)
を書きました。これは、対合的リー双代数およびその対合的双加群の定義の条件をホモロジー代数の言葉で書き換え、書き換えたことから生じる二次元トポロ
ジーの問題を提出したものです。ジョンソン準同型については触れていませんが、それ以外に現在私が問題として考えていることを書きまし
た。(H25.1.10)
・H24.11.10
で述べた完備ゴールドマン・リー代数のテンソル表示の続きです。空でない境界をもつ向きづけられた連結コンパクト曲面の基本亜群を、対象を各境界成分に1
点づつ基点をとって作った集合に制限したものを考えます。この亜群のマグナス展開の条件で、シンプレクテシック展開と
special/Artin/weak Kashiwara-Vergne
展開を包摂するものが定式化できました。この条件をみたすマグナス展開については完備ゴールドマン・リー代数のテンソル表示が可能になりました。おそらく
最も一般的な状況で、ゴールドマン括弧積のテンソル表示が出来たことになると思います。
トゥラエフ余括弧積については、まだ分からないことばかりです。今後の本研究の中心主題は、シンプレクティック展開に適切な制限を加える(=
「Kashiwara-Vergne 展開」なるものを発見する!)ことでトゥラエフ余括弧積の完全なテンソル表示を得ることです。
応用として、Putman
の意味での最大トレリ群を自然なやり方で、完備ゴールドマン・リー代数のある副ベキ零リー部分代数に埋め込むことができました。本研究の開始前に最小トレ
リ群について行っていた「幾何的ジョンソン準同型」の「最終版」と言えると思います。もちろん完備ゴールドマン・リー代数に適切なフィルトレーションを入
れて、幾何的ジョンソン準同型を切り分け、とくに Church
による各種のトレリ群の第一ジョンソン準同型との関係を明らかにすることは今後の課題です。
以上はすべて連携研究者の久野氏との共同研究です。(H24.12.26)
完備ゴールドマン・リー代数のテンソル表示については、G. Massuyeau 氏と V. Turaev 氏が quiver
理論を用いて同様の結果を得ているとのことです。(H25.1.10 追記)
・一般の、空でない境界をもつ向きづけられた連結コンパクト曲面について、その完備ゴールドマン・リー代数の中心が境界ループの冪で位相的に生成されるこ
とを証明しました。ただし、これは新しい結果ではないかもしれなくて、quiver
理論を使えば証明できるとある人が言っているのを聞いたことがあります。我々の証明は
quiver
理論ではなく、曲面のねじれホモロジーのホモロジー完全列を使います。ホモロジー完全列は非常に初等的な道具ですが、威力を発揮すると力強いものだと思い
ました。なお、空でない境界をもつ向きづけられた連結コンパクト曲面について、完備化する前の本来のゴールドマン・リー代数の中心は全く分かりません。こ
ちらはずっと難しい問題です。(H24.11.12) この事実の応用として、無限種数のリーマン面であって、すべての end
の方向に種数が無限にあるものについて、その(本来の)ゴールドマン・リー代数の中心が定数ループで張られることが証明できます。(H24.12.26
追記)
・一般の、空でない境界をもつ向きづけられた連結コンパクト曲面について、その完備ゴールドマン・リー代数のテンソル表示が得られました。曲面のホモロ
ジー群の基底の取り方に依存する記述なので、改善の余地は残っています。系としてス
ライドの p.15
で述べた予想(「無限小デーン・ニールセン定理」)が肯定的に証明できました。他の応用については模索中です。以上は連携研究者の久野氏との共同研究で
す。Massuyeau-Turaev も quiver
理論によって同様の表示を得たと聞いていますが、詳細は分かりません。(H24.11.10)
・報告を忘れていましたが、7月に連携研究者の久野雄介氏と大学院修士2年の戸田和樹氏との三人で共著
Generators of the homological Goldman Lie algebra, arXiv: 1207.4572
(2012)
を書きました。ホモロジカル・ゴールドマン・リー代数というのはゴールドマン・リー代数のうち曲線の定めるホモロジー類の情報だけ残して定義される無限次
元(非可換)リー代数です。本当はゴールドマン・リー代数について、生成元やホモロジーなどを計算したいのですが、非常に複雑で今のところ手が出ません。
そこでホモロジカル・ゴールドマン・リー代数について研究を先行させようということなのです。この論文での私の寄与は有限生成性だけです。私の評価では種
数 g の二乗のオーダーの生成元が必要でした。この評価を久野氏と戸田氏が頑張って、ホモロジー類による生成系の個数の最小数 2g+2
を求めるというところまで到達しました。この個数は写像類群の Humphries
生成系の個数に似ていますが、何か関係があるのかどうかは不明です。なお、戸田氏はホモロジカル・ゴールドマン・リー代数について既に二つ論文
(arXiv: 1112.1213,
1207.3286)を書
いています。とくに二次元コホモロジーを決定した後者の論文は特筆すべき結果です。(H24.9.10)
・Johnson 準同型の全射性の障害に森田 trace というものがあります。本研究開始直前の H24.1
に連携研究者の久野雄介氏との共同研究で、これが Turaev cobracket によって説明がつくことがわかりました。森田 trace
は「曲面の向きを保つ微分同相は、曲面上の曲線の自己交叉の状況を保つ」という基本的な事実から導かれることになります。それは Turaev
cobracket について「Laurent 展開」を行い、最初にある -2 次の項を見ることで分かります。なお、-1 次の項は 0
になっています。これらの計算には Massuyeau-Turaev によるある定理が大切な鍵になります。本研究開始後、久野氏との共同研究で、
0 次の項が 0 であることがわかりました。6月上旬の Strasbourg 訪問で Massuyeau 氏と Turaev
氏と議論を行い、Turaev cobracket の「Laurent 展開」が -2 次から 0
次まで消えることは、独立に、しかし、全く同じやり方で彼らも証明していることを知りました。彼らも我々も未公開の結果でした。我々はさらに 1
次の項が、ある条件のもとで消えることまで証明しました。以上の結果の概略は下記のスライド(H 24. 6. 25-27)の part II
で述べました。一日も早く Turaev cobracket の「Laurent 展開」の全貌を解明できればと思っています。(H24.7.1)
この研究に関連する講演スライド:
河澄響矢. Turaev cobracket について,
slides
(written in Japanese) for a talk at
大阪大学低次元トポロジーセミナー
大阪大学大学院理学研究科, January 29, 2015
河澄響矢. Goldman-Turaev Lie 双代数のテンソル表示について,
slides
and abstract
(written in Japanese) for a talk at
研究集会「多
様体のトポロジーの展望」
東京大学大学院数理科学研究科, November 28, 2014
河澄響矢. Goldman-Turaev
Lie
双代数のテンソル表示について,
slides (written in Japanese) for a talk at
東工大複素解析セミナー
東京工業大学, November 20, 2014
河澄響矢. Turaev
余括弧積、榎本-佐藤 traces そして柏原 Vergne 問題における発散 cocycle,
slides (written in Japanese) for a short communication at
日本数学会秋季総合分科会, トポロジー分科会
広島大学, September 26, 2014
河澄響矢, 曲
面上の曲線たちのつくる代数系について (written in Japanese)
slides (written in Japanese) for a talk at
岐阜数理科学セミナー
岐阜大学教育学部, August 18, 2014.
N. Kawazumi, The
Goldman-Turaev
Lie
bialgebra
and
the
mapping
class
group,
(written in
English except the cover page) slides for a talk at
第9回代数解析幾何セミナー,
鹿児島大学理学部, February 20, 2014.
N. Kawazumi, The
Goldman-Turaev Lie bialgebra and the mapping class group,
(written in
English)
slides for a talk at
Caltech
Geometry
and
Topology
Seminar,
California Institute of Technology(米国), September 18, 2013.
N. Kawazumi, An infinitesimal version of
the Dehn-Nielsen theorem,
(written in
English)
slides for a talk in the conference
`Teichmueller
Theory: quantization and relations with physics',
Erwin Schroedinger Institute, Universitaet Wien(オーストリア), April 17,
2013.
N. Kawazumi, The
Goldman-Turaev
Lie
bialgebra
and
the largest Torelli group,
(written in
English)
slides for a talk in the conference
`Advances in
Teichmueller Theory',
Erwin Schroedinger Institute, Universitaet Wien(オーストリア), February 5,
2013.
N. Kawazumi, The
completed
Goldman-Turaev
Lie
bialgebra
and
mapping
class
groups,
(written in
English)
slides for a talk in the JSPS/CNRS joint seminar
`Aspects of representation theory in low-dimensional topology and
3-dimensional invariants',
Club vacanciel, Carry-le-Rouet(フランス), November 6, 2012.
N. Kawazumi, Mapping
class
groups
and
the
Goldman-Turaev
Lie
bialgebra, (written in
English)
silides for a talk in the conference `GAAGTA',
Kunming University of Science and Technology(中国), July 26, 2012.
N. Kawazumi, Johnson-Morita theory and the Goldman-Turaev Lie
bialgebras
(part
I), (part
II), (written in English)
slides for a mini-course in the workshop
`Mapping
class
groups
and
quantum
topology',
IRMA, University of Strasbourg(フランス), June 25 - 27, 2012.
N. Kawazumi, A
geometric approach to the higher Johnson homomorphisms, (written in
English)
slides for a talk in the workshop
`Analysis and Geometry of Discrete
Groups and Hyperbolic Spaces',
RIMS, Kyoto University, December 13,
2011.
この研究に関連する講義ノート:
数学講究 XB 「2次元トポロジーと余括弧積」(東京大学理学部数学科,
平成
26 年 5 月 28 日, 手書きノート)
(H24, 25年度と少しだけ違っています。)
数学講究 XB 「曲線を曲線で微分する」(東京大学理学部数学科, 平成
25 年 5 月 15 日, 手書きノート)
(H24 年度と少しだけ違っています。)
数学講究 XB 「曲線を曲線で微分する」(東京大学理学部数学科, 平成
24 年 5 月 9 日, 手書きノート)
大阪大学集中講義「2次元トポロ
ジー、その定量的アプローチ」(平成 22 年 12 月)
この研究によって開催/共催された研究集会:
「リーマン面に関連する位相幾何学」
期日: 2012 年 9 月 1 日(土)から 4 日(火)まで
場所: 東京大学大学院数理科学研究科
世話人(敬称略): 久野雄介 (津田塾大), 田所勇樹 (木更津高専), 佐藤正寿 (岐阜大).
詳細については、こちらを
ご覧下さい。
Workshop: Johnson homomorphisms
期日: 2013 年 6 月 3 日(月)- 6 月 7 日(金)
場所: 東京大学大学院数理科学研究科大講義室
世話人(敬称略): 中村博昭 (岡山大理), 逆井卓也 (東大数理), 河澄響矢(東大数理).
詳細は website (英
語)
(日
本語) をご覧下さい。
研究集会「複素解析的ベクトル場・葉層構造とその周辺」
期日:2013 年 6 月 7 日(金)〜9日(日)に含まれる2日あるいは3日間
場所:龍谷大学セミナーハウスともいき荘
住所:〒602-8019 京都市上京区室町通下長者町下ル近衛町38
世話人:足助太郎 (東大数理)
詳細は website
をご覧下さい。
「リーマン面に関連する位相幾何学」
期日: 2013 年 8 月 26 日(月)- 8 月 29 日(木)(確定しました。)
場所: 東京大学大学院数理科学研究科大講義室
世話人(敬称略): 久野雄介 (津田塾大), 佐藤正寿 (岐阜大), 田所勇樹 (木更津高専), 河澄響矢(東大数理).
詳細は website
をご覧下さい。
「2013年度ホモトピー論シンポジウム」
期日: 2013 年 11 月 2 日(土)- 11 月 4 日(月)
場所: 岡山大学
世話人(敬称略): 井上雅照 (岡山理科大学), 中井洋史 (東京都市大学), 中川征樹 (岡山大学), 山口俊博 (高知大学).
詳細は website
をご覧下さい。
第61回 Encounter with
Mathematics
「代数曲面とその位相的不変量をめぐって ー代数曲面の地誌学ー」
期日: 2014 年 6 月 20 日(金)- 6 月 21 日(土)
場所: 中央大学理工学部数学教室
詳細はこちらをご覧下
さい。
「リーマン面に関連する位相幾何学」
期日: 2014 年 8 月 25 日(月)- 8 月 28 日(木)
場所: 東京大学大学院数理科学研究科大講義室
世話人(敬称略): 田所勇樹 (木更津高専), 佐藤正寿 (岐阜大), 久野雄介 (津田塾大),
河澄響矢(東大数理).
詳細はこ
ちらをご覧下さい。
第62回 Encounter with
Mathematics
「波動方程式 --古典物理から相対論まで--」
期日: 2014 年 9 月 15 日(月・祝)- 9 月 16 日(火)
場所: 中央大学理工学部数学教室
詳細はこちらをご覧下
さい。
第63回 Encounter with
Mathematics
「最適輸送理論とリッチ曲率 --物を運ぶと曲率がわかる--」
期日: 2015 年 2 月 20 日(金)- 2 月 21 日(土)
場所: 中央大学理工学部数学教室
詳細はこちらをご覧下
さい。
最終更新日: H27.2.24.
連絡先:
河澄響矢 (Nariya KAWAZUMI )
東京大学大学院数理科学研究科
(Dept. of Math. Sci., Univ. of Tokyo)
〒153─8914
東京都目黒区駒場3─8─1
kawazumi_AT_ms.u-tokyo.ac.jp