解析学紹介

 

 解析学は,古典的には極限や微分積分の問題を扱う分野を指すが,時代の移り変わりとともに解析学が扱うテーマは大きく広がっている. 本研究科における解析学関係の教員の研究分野は,微分方程式論,作用素環論,実関数論,表現論,複素解析,確率論と多岐にわたる.この中で微分方程式論はさらに,線型偏微分方程式論,非線型偏微分方程式論,可積分系,逆問題などに分けられる.微分方程式一つを取ってもその研究手法は様々であり,例えば,複素解析的手法,実解析的手法,加藤敏夫・吉田耕作の流れを汲む関数解析的手法,変分法や不動点定理を含む非線型解析の手法,力学系の手法,佐藤幹夫の代数解析的手法を含む超局所解析の手法,確率論的手法,可積分系や表現論で用いられる代数的手法などがある.このような多様性は他の解析学分野においても同様に見られ,時には解析学の垣根を越えることさえある.

 具体的な研究テーマを挙げてみよう.複素解析の分野では,ベルグマン核やCR多様体を題材にした多変数複素解析に加え,代数幾何学の対象でもある複素代数多様体の研究が行われている.常微分方程式分野では,代数的手法や完全WKB解析の手法によって,特殊関数の研究を起源とするパンルヴェ方程式の研究が行われている.偏微分方程式分野では,シュレディンガー方程式をはじめとする分散型方程式やナヴィエ・ストークス方程式の他,数理生物学に現れる反応拡散方程式,最適制御理論のハミルトン・ヤコビ方程式,特異拡散現象を記述する非整数階偏微分方程式など,応用上重要な方程式が研究されている.また,解から方程式の構造を決定する逆問題の研究も行われている.作用素環論を用いた数理物理学の研究も充実している.確率論の分野では,確率微分方程式や確率過程論に加え,無限次元空間上の確率解析, 確率論的統計力学モデルの研究が行われている.数学にとどまらず,物理学,材料科学,生命科学等の諸科学,並びに,産業技術分野への応用を意識した研究も見られる.その他,表現論の課題である無限次元表現およびペンローズ変換の研究,離散群とエルゴード理論に関連する研究など,その研究範囲は広い.

                                       
(文責 宮本 安人)
(更新日:2023年4月14日)