数理人口学・数理生物学セミナー

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2016年01月27日(水)

13:30-16:30   数理科学研究科棟(駒場) 128号室
中岡慎治 氏 (東京大学大学院医学系研究科) 15:10-15:50
HIV 感染リンパ器官ネットワークモデルの数理解析 (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
バクテリアやウィルスからの感染を防御する働きを担う上で重要な T細胞は、通常リンパ節やリンパ器官に存在する。リンパ器官は免疫応答を活性化する場であると同時に、扁桃炎などウィルス感染の場になることもある。ヒト免疫不全ウィルス(HIV) は、T 細胞に感染するが、T 細胞が常駐するリンパ節に常駐している。リンパ節が HIV感染存続において重要であると示唆されているが、薬剤投与時でも HIV が消滅しない機構については、未だ明らかになっていない。
先行研究では、1000 以上あるヒト体内のリンパ器官ネットワークを計算機上で模したネットワーク数理モデルを構築し、HIV 感染伝播の数値計算を行った(Nakaoka, Satoh, Iwami, J. Math. Biol.2015)。ネットワーク数理モデルに対して定義される次世代行列から導出した基本再生産数をベースに数値解析を行い、リンパ節内で薬剤の効果が弱いことを示唆する臨床研究の理由付けを与えた。
先行研究では数値計算が主であり、ネットワーク数理モデル自体の数理解析はほとんど行ってこなかった。そこで本研究では、数理解析に主眼をおいた最近の進展について議論する。一般にN 個のリンパ器官が結合した状態において、基本再生産数をベースに感染平衡点の存在、また特殊な場合に Lyapunov関数を用いた大域的漸近安定性を示した。
解析中の課題として、基本再生産数が 1 より大きい場合に感染が定着する状況を示した一様パーシステンス (パーマネンス) 性、Inaba and Nishiura (Math. Biosci. 2008) によって定義された状態別再生産数の応用可能性と再生方程式を用いた定式化など、進行中の解析についても紹介する。本研究は、江夏洋一 (東京理科大)、國谷紀良 (神戸大)、中田行彦 (東京大)、竹内康博 (青山学院大学) 氏 (敬称略) らとの共同研究 (contributed equally) である。


佐野英樹 氏 (神戸大学大学院システム情報学研究科) 13:30-14:10
無限次元制御系に対する安定半径の近似について (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
We discuss the problem of approximating stability radius appearing
in the design procedure of finite-dimensional stabilizing controllers
for an infinite-dimensional dynamical system. The calculation of
stability radius needs the value of the H-infinity norm of a transfer
function whose realization is described by infinite-dimensional
operators in a Hilbert space. From the practical point of view, we
need to prepare a family of approximate finite-dimensional operators
and then to calculate the H-infinity norm of their transfer functions.
However, it is not assured that they converge to the value of the
H-infinity norm of the original transfer function. The purpose of
this study is to justify the convergence. In a numerical example,
we treat parabolic distributed parameter systems with distributed
control and distributed/boundary observation.

國谷紀良 氏 (神戸大学大学院システム情報学研究科) 14:10-14:50
バックステッピング法に基づく感染人口の増減予測 (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
実時間を第1変数、感染後の経過時間を第2変数とする感染齢構造モデルは、
Kermack and McKendrick (1927) から現在に至るまで長く研究されている。その
モデルは数学的には1階偏微分方程式の境界値問題と見なすことができ、その境
界条件は新規感染人口を表すものとなる。一方で、熱方程式などの偏微分方程式
の境界値問題に対し、自明平衡解の安定化のための境界フィードバック制御を導
出するバックステッピング法は近年 Smyshlyaev and Krstic (2004) によって研
究されている。本研究ではこの手法を疫学的に解釈することで、ステップ毎に計
算される条件値よりも新規感染人口が大きければ感染人口は増加し、小さければ
減少するという予測法を考案した。具体的に、日本における過去10年間のインフ
ルエンザの報告データに対してこの予測法を適用すると、その精度は8割を超え
ることが確認された。本研究は佐野英樹教授(神戸大学大学院システム情報学研
究科)との共同研究に基づく。
布野孝明 氏 (九州大学理学部生物学科) 15:50-16:30
村間の人口の流出入を考慮するマラリア感染の数理モデル
[ 講演概要 ]
マラリアは蚊によって媒介される感染症であるため、その流行を考察するにあたってヒトと蚊と両方の動態を考えることが必要である。主な流行地域の一つである南アフリカでは一つ一つの村(人口密集地)間の間隔が広く、村から村へとマラリアの感染を伝播させているのは主に車などの移動手段によるヒトの移動・交流であると考えられる。本研究では村間のヒトの往来に焦点を当て、マラリア流行の古典的なモデルであるRossモデルを下敷きとした数理モデルを構築した。また実際の村間のネットワーク構造を用いて南アフリカにおける感染報告データと比較しながら、何がマラリア感染の伝播のリスク要因となっているのかを解析してゆくために、今回は基本的なモデル解析を行った結果を報告する。