数理人口学・数理生物学セミナー

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2013年07月18日(木)

16:30-18:00   数理科学研究科棟(駒場) 118号室
大泉 嶺 氏 (北海道大学環境科学院)
齢-サイズ構造モデルにおける経路積分表示とEuler-Lotka方程式 (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
地球規模の環境変動は現代の人類が直面する喫緊かつ未解決問題の一つである.それは我々人間社会の経済活動に大きな影響を及ぼすだけではなく,生態系や生物多様性などの維持にとっても深刻な問題をもたらすことが懸念されている.その一つに生活史の不確実性がある.生物の生活史は様々な不確実性に影響されている.例えば、気温、天候、採餌、遺伝的な個体差などがある.これら不確実性を構成する要素は二種類の不確実性に大別できる.気温、天候など生物集団全体に影響を及ぼす不確実性と遺伝的形質の差異や生活史における採餌成功率の差異など個体差が持つ不確実性である.前者を外的不確実性、後者を内的不確実性とよぶ.これまで、多くの生態学者は外的不確実性の生物集団への影響に目を向けてきた.なぜなら、外的不確実性が個体群の内的自然増加率を減少させる事が一般に示されており、その影響は種の保全に負に働くからである.しかし、内的不確実性の集団への影響は外的不確実性の持つそれと比べて体系的に研究されていない.また、野外における研究ではこれら二つの不確実性の効果を区別する事は難しい.つまり、自然界での生活史を取り巻く不確実性の個体群への影響を解析するには外的不確実性だけでなく、内的不確実性の影響をも考慮しなければならない.

そこで本研究では、内的不確実性の影響を受ける個体群を仮定し、その個体群動態と生活史進化について理論的な研究を行った.本研究ではサイズ(Xa)成長に内的不確実性を持つ線形人口モデル(齢‐サイズ構造モデル)を用い、内的不確実性影響下での個体群動態と生活史進化を解析する一般理論を構築した.この理論では新しい線形人口モデルとして経路積分モデルを導入する.

この経路積分モデルは生活史におけるサイズ成長率と死亡率を作用積分の量として表現する事が特徴である.この表現を用いると、内的不確実性の存在下では一般にサイズ成長曲線は死亡率の影響を受ける事を示す事が出来る.また、このモデルにより、具体的にEuler-Lotka方程式を導くことによってその生活史が個体群動態に与える影響の解析を可能にした.そのEuler-Lotka方程式を構成する関数(目的関数)はその種の繁殖齢のcumulant母関数、繁殖齢分布、基本再生産数などの統計量を与える事ができる.本講演ではこれら経路積分表示とEuler-Lotka方程式の導出を主として紹介する.