幾何学

 数学の歴史を振り返ると、代数学においては空間を捨象し変換法則のみに注目して「群」という概念が取り出され、一方、幾何学においては空間自体が抽象化され「位相空間」あるいは「多様体」として実体化されたことにより、幾何学の世界が大きく拡がった。特に「群」と「多様体」の構造を併せ持つ「リー群」、また「多様体」の最大の対称性を記述する「微分同相群」が、さらに豊かな研究対象を与えた。幾何学の魅力の一つは数学の多岐多様にわたる分野の思いがけない出会いと、手法の深化である。
 幾何学者が注目してきた(1)「対象としての空間・多様体」および(2)「舞台としての空間・多様体」を当研究科教員の研究を中心に概観してみよう。
 (1)には多様体の分類論が含まれる。高次元は20世紀半ばに一段落し、現在3,4次元が活発な分野である。幾何構造の視点から見ると、2次元ではすべての点のまわりで均質構造をもつような計量が存在する。3次元多様体の研究においても、サーストンの幾何学化の考え方は重要で、近年、リッチ流などの解析的手法が加わり新たな進展を遂げている。
 (2)の「舞台」の上の構造には、(擬)リーマン構造、ケーラー計量等の、局所的なねじれの構造をもつ空間から、シンプレクティック構造、接触構造、葉層構造など大域的な位相的構造と近い性格をもつものまで様々な幅がある。また、局所均質性に着目すると、リー群や等質空間との結びつきが深くなり、不連続群が局所と大域を結ぶ主役として、近年、リーマン幾何を超えた枠組みで盛んに研究されている。
 幾何構造の入れ方が一意的であるときを剛性といい、その逆の場合は、自由度そのものも研究対象になる(変形理論)。後者の典型例としては、曲面の変形のあらゆる可能性を一挙にみると、曲面の写像類群、その分類空間が現れるが、これがリーマン面のモジュライ空間として複素幾何的扱いを許す対象である。
 (1)(2)に加えて、(3)表現論、とりわけ、種々の幾何構造に立脚した表現の理論は、対称性を線形化したものであり、(無限次元の)表現空間を通じて、複素幾何、幾何的量子化、偏微分方程式から、非可換幾何、大域解析、整数論、積分幾何学など多くの分野を巻き込みながら活発に研究されている。

(文責 小林 俊行)