大使館のパーティー

何度か大使館のパーティーに呼ばれたことがある.最初は1993年のある日,イギリス大使館からものものしい紋章の入った封筒が来て,メージャー首相(当時)が来日するのであなたをティーパーティーに招待します,と書いてあったのだ.とても信じられなくて,何かのいたずらなのではないかと思ったほどである.そもそもメージャー首相が来日するなどという話自体聞いたことがなかったが,調べてみるとそれは本当だったので,招待状も本当のような気がしてきた.私はこの前年,イギリス人の教授と共同研究するためイギリスに行っていたのだが,その際に渡航費の援助をイギリスの公的機関であるブリティッシュ・カウンシルから受けていた.(当時は科研費を海外出張に使うことはできず,海外渡航のたびに何かに申請するか,そうでなければ自腹を切る必要があった.) 実際にパーティーに行ってみると,同じくブリティッシュ・カウンシル関連の学術関係者が何人もいたので,そういう基準で招待者を選んでいることがわかった.ティーパーティーだったので,出たものは簡単なサンドイッチやお茶が中心であった.スポーツ関係者も何人もいて,元横綱で引退したばかりの北勝海もいた.メージャー首相はスピーチで「日本にもっとイギリス製品を輸出したいが,(当時日本に移籍したばかりのサッカーの)リネカーだけは返してほしい」と言っていたのを覚えている.あとで私のイギリス人共同研究者にこの話をしたところ,とても驚いていた.

次はアメリカである.アメリカの大学院生を夏休みに日本の大学に派遣する短期プログラムがあり,私はこれまで何人も院生を受けれたことがある.日本側は日本学術振興会(学振)が担当している.このプログラムの日本人ホストをアメリカ大使館に招待したいということで呼ばれたのだ.これは夜の立食パーティーで参加者は全員このプログラムのホストで,かなりたくさんの人が来ていた.食事はかなりシンプルなものだった.少し脱線するが,このプログラムの別のパーティーで学振主催のものに行ったことがある.受付に立っただけでまだ何も言っていないのに,河東先生,こちらです,と言われたのだった.この人はどうして私の名前がわかるのだろう,と思ったところ,私の講義に出ていたことがある,と言われた.驚いて一瞬,この人は東大数学科を出たのに学振で働いているのかと思ったが,そうではなく,東大法学部出身で,教養学部で私が教えた線型代数の講義に出たということであった.学振の人に悪い成績をつけて恨みを持たれているといやだな,と思い大学に戻って来てから記録を調べたところ,この人の成績はちゃんと優であった.

私は昔パリ郊外の数学研究所の IHES に滞在していたことがあるが,この研究所のパーティーで,滞在経験者をフランス大使館に招待するという行事が2002年にあった.フランス大使館は私の通っていた麻布高校のそばにあり,前にビザを取りに行ったこともあるので場所は知っていたが,パーティーに行ったのはもちろん初めてだった.この研究所に関係している日本人数学者はかなりたくさんいるので,国内の遠くの大学からもいろいろな人が来ていた.立食パーティーだったがさすがにフランスで食事はかなり立派だった.日本との交流を深めたい,そのために寄付を募りたい,という話もあって政財界の人たちも何人か来ていたのを覚えている.

フランス大使館に行ったことはもう一度あり,2004年の広中平祐先生のレジオンドヌール勲章授章式であった.私は高校生の頃,広中先生が始めた高校生向け夏季セミナー「数理の翼」の第1回参加者で,その後もこのセミナーで何度か講演したことがあるので,広中先生は(数学の専門は全く違うものの)知り合いである.その関係で呼ばれたのだ.なぜか上の IHES のパーティーの時より派手な印象を受けた.参加者はより若めの人が多かったように思う.フランス政府は日本の様々な文化人にレジオンドヌール勲章を出しており,たとえば映画監督の北野武氏も受章している.

最新のものは2016年のメキシコ大使館である.私はメキシコ人ポスドクを受け入れていたのだが,彼が何かの書類に書く東京の現住所の欄にメキシコ大使館と書いていた.住むところが決まっていなくて仮に大使館の住所を書いているのだろうかと思って聞いたところ,本当にメキシコ大使館に住んでいるのだということだった.驚いて理由を聞いてみると,なんと彼のおじさんが駐日メキシコ大使なのだという.その関係で彼の滞在中に大使館のパーティーに呼ばれたのである.彼に紹介してもらって大使にあいさつすることができた.いろいろな国に赴任したが日本は良いところだ,と言っていた.オードブル盛り合わせのようなものがたくさんあったが,珍しいメキシコ料理でおいしかった.

あと私に関係の深い国は,イタリア,デンマークだが,この二つの国の大使館には呼ばれたことがない.イタリア大使館,デンマーク大使館の皆さん,これを読んでいたらよろしくお願いします.

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