メキシコゲテモノ紀行

メキシコに行ったのは2回だけである.1回目は2016年のオアハカで,これはカナダのバンフにあるバンフ国際研究ステーションのメキシコ支部のようなものだ.Casa Matemática Oaxaca という名前があって毎週国際研究集会をやっているが,実態はただのホテルである.ここに私が講演した時のビデオがあって最初にちょっとだけ黒板が映っているが,これがこのホテルの研究集会場の唯一の黒板であって,数学講演には全く適していない小ささである.だから私はプロジェクターで講演した.ホテルでメキシコ料理を堪能して,近所のモンテ・アルバン遺跡にも連れて行ってもらったが,朝から晩まで研究集会に出ていたのであまりメキシコを味わったという気はしなかった.ホテルは中心部からは外れており,ホテルのすぐ外には何もなかったのである.またオアハカ行きの飛行機は接続がよくなく,ヒューストンで一泊しないと乗り継げなかった.

2015〜2016年にメキシコ人ポスドクの Orendain を受け入れていたが,彼はメキシコに帰ってメキシコ国立自治大学(UNAM)に勤めていた.2019年に彼から連絡があり,誰か若い人にメキシコに来て,作用素環と共形場理論について解説的な連続講演をしてもらえないか,ということだった.「誰か若い人」の候補も二三人挙げてあった.その人たちを含む何人かに聞いてみたのだが,誰も行きたくないということであったので,それなら自分で行く,と返事して私が行くことになった.

メキシコ国立自治大学はメキシコシティにある中南米最高レベルの大学である,とウィキペディアに書いてあったので何の疑いもなく,ヒューストン経由メキシコシティ行きの切符を買った.その後,空港から大学までどうやって行くのか,と問い合わせたところなんと,うちの大学があるのはメキシコシティではありません,モレリアなのでこちらが手配する飛行機に乗ってメキシコシティからモレリアまで移動してください,と言うのだ.メキシコ自治大学はメキシコシティの本校のほか各地に分校があり,彼が働いているのはモレリア分校だということだったのだ.あとで調べるとヒューストンから直接モレリアに飛べる飛行機もあったのだが,こうなっては仕方なく,行き帰りとも飛行機の時間の関係でメキシコシティ空港に隣接したホテルに一泊することになった.メキシコシティとモレリアの間の飛行機はローカル便で1時間弱だった.メキシコシティ着の飛行機は行きも帰りも夜で,発は朝だったので,メキシコシティは何も見られなかった.

ローカル便に乗ってやっとモレリアに着いた.中心部のモレリア歴史地区は世界遺産ということで,スペイン風の街並みがとてもきれいだった.大聖堂が中心にそびえており,私のホテルはそのすぐ向かいだった.朝食はいろいろな果物や卵料理が選べるようになっていてかなり豪華だった.メニューは当然スペイン語しかないのでいくつか基本的な単語を調べて覚えた.今はスマホをかざせばアプリで簡単に翻訳できるのだが,せっかくなので新しい言葉にもできるだけなじむようにしている.私の妻はスペイン語もペラペラだが,私は全然話せない.しかしフランス語やイタリア語と似た単語がたくさんあるのでそれなりに推測はできるものがけっこうある.モレリア歴史地区は端から端まで簡単に歩けるサイズで小さなカフェなどがいい雰囲気だった.大学は街の中心部からかなり外れていてバスは不便なので Uber に乗れということだった.

私はカリフォルニアに通算5年住んでいたのでそれなりにメキシコ料理は食べたことがある.しかしホストのメキシコ人たちは,それは本当のメキシコ料理ではない,本当のメキシコ料理を味わわせてやる,ということで連日いろいろなレストランに連れて行ってくれた.その中でかなりゲテモノ料理を食べた.メキシコ料理に特にゲテモノが多いということはないはずなので,これは私のホストの趣味だったのであろう.まずコオロギの入ったタコスを食べた.これはメキシコの伝統料理ということだった.パリパリして,特に変わった味はしなかった.最近は日本でも昆虫食が時々話題になっており,コオロギスナックなども売っている.次はカエル料理である.中国でもカエルは食べたことがあるが,その時は切り身の肉だけで鶏とほとんど区別がつかなかったが,こちらではかなり原形をとどめていて,足の形がはっきりわかった.味はやはり鶏のようなものであった.その次はイグアナの煮込みである.これはメニューにはない特別料理で,特に頼むと出してくれるのだということであった.こちらも味は鶏のような感じのものだが,あまり強い味はなく,辛いソースの味の方がよほど強力だった.その後アリ料理も店にあったのだが,これはホストの趣味に合わなかったのか,我々は食べなかった.あとは特にゲテモノというほどのものではないが,サボテン料理もちょっと珍しく,良い味だった.

最後の週末には少し離れたパツクアロという街に1時間ほどかけて車で連れて行ってもらった.中心部は古い街並みがよく保存されていてとてもきれいだった.そばにあるパツクアロ湖という湖を見たが,先住民がそのあたりに多く暮らしているということだった.先住民の博物館や古い教会が印象的な街である.この湖にあるハニツィオ島は死者の日のお祭りというもので世界的に有名ということだったが,残念ながらこの島までは行けなかった.

メキシコで食べたものの中で一番良かったのはゲテモノではなく,チョコレートソースのステーキである.これはメキシコ料理のソースとして有名なもののようだ.鶏肉にかけるのがよくあるものだが,私が食べたのは牛だった.地元でもこの料理で有名なレストランということだった.色はかなり濃く味も濃厚だがチョコレートという感じの味ではない.このソースの肉料理はそれなりに日本でも食べられるもののようであるが,現地のものはさすがに立派だった.

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