オペラハウスとコアラ

2019年シドニーのニューサウスウェールズ大学に行った.オーストラリアに数学の用事で行ったのは初めてだった.「数学の用事」と限定をつけたのは妻が学会に行くのについてメルボルンに2回行ったことがあるからだ.そのうちの1回では飛行機の乗り継ぎの関係でシドニーに一泊した.(メルボルンの方が南にあるので行き帰りにシドニーを通過する.) この時,貝殻が重なっているような形で有名なオペラハウスも見た.その後,オーストラリアの非可換幾何学のコンファレンスに来て欲しいと言われたこともあるのだが予定が合わず,2019年まで待たなくてはならなかった.

オーストラリアには作用素環の人はそれなりにいて,古くは私の共著者で,竹崎先生のところの兄弟子に当たる Sutherland がこのニューサウスウェールズ大学の教授だったのだが,彼が引退してから時間がたっていた.一方,Fields 賞受賞者の Jones はニュージーランド出身であったため隣国のオーストラリア数学界にも影響力があり,近年 Jones の弟子たちが何人もオーストラリアに職を得ていた.そのうち1人は Jones のところに留学していたオーストラリア人が帰国したものだが,あとはアメリカなどからオーストラリアに移ったものだ.そのうちの1人のアメリカ人はオーストラリアが大変気に入って,オーストラリア国籍まで取ったということだ.(アメリカ国籍は二重国籍で維持できると言っていた.) 2019年のコンファレンスは彼らがオーガナイズしたもので,Jones もやって来た.同じく Fields 賞の Freedman も,最近はマイクロソフトの研究所で Jones 多項式に関連したトポロジカル量子コンピュータの研究をしているのでやって来た.私の共著者のイタリアの Longo も来ていたが,ヨーロッパからだとほぼ地球の裏側なので来るのが大変だということだった.

コンファレンスは2月だったので南半球の現地では夏であった.オーストラリアの大学は2月は夏休みだそうだ.確かにキャンパスは学生が少ないような気がした.キャンパスはきれいで広い.名前のニューサウスウェールズ大学というのは,ニューサウスウェールズ州州都のシドニーにあるからだが,この名前はオーストラリアに初めてイギリスから到着したジェームズ・クックが,イギリスのウェールズにちなんでつけたということだ.いろいろとイギリスの影響が強いようで,今でもイギリスのエリザベス女王がオーストラリアの国家元首であり,その代理とされるオーストラリア総督というポストがある.なおイギリス英語ははっきり発音がアメリカ英語と違うが,私はオーストラリア英語の違いはあまり感じなかった.エイをアイと発音することなどが有名で,いろいろ単語も違うというのだが,私が鈍感なせいか,滞在が短かったせいか,それほどの違いは聞き取れなかった.

私の泊まった大学のそばのホテルはイギリス風な感じがしたが,イングリッシュブレックファーストはついていなかった.近所にカフェがたくさんあり,そちらで朝食を食べた.パンケーキで有名なオーストラリア料理の店が私のうちの近くにあり,そこではフルオージーブレックファーストという豪華な朝食を出しているのだが,私が行ったカフェにはそのようなものはなかった.なおこのレストランは本店がシドニーにあるというので行ってみたかったが,大学からはかなり遠かったので行くことができなかった.滞在中にはオーストラリア料理として特別なものは食べなかった.オーストラリアの食品としてはパンなどに塗るベジマイトという発酵食品が有名である.強烈な味ともよく言われるものだが,私は特に美味しいともまずいとも感じなかった.ほかにュージーランドのマヌカ蜂蜜が有名で高価なものだが,オーストラリアでもよく手に入る.

シドニーはオーストラリア最大の都市で,一番開けているのは海に面した部分だ.オペラハウスもそのエリアにある.大学はその近くではないが,大学のあたりからバスに乗れば海辺まで30分もかからない.上品できれいなエリアである.コンファレンスの空き時間にオペラハウスのそばにあるフェリー乗り場から船に乗って,タロンガ動物園というものに行ってみた.タロンガとはオーストラリア原住民の言葉で「美しい水の眺め」という意味だそうだ.キリン,ゾウ,シマウマ,トラ,ゴリラなどがたくさんいて,さらにコアラとカンガルーもいる.成都のジャイアントパンダ繁殖研究基地のパンダがごろごろいる迫力にはかなわないが,かなりのコアラが間近に見られる.名前の通り海の眺めがよく,すばらしいところであった.

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