新着情報
- 2024/11/01-10
研究会 "Mathematical Physics for Quantum Science" にて招待講演を行います - 2024/09/30-10/04
研究会 "Focus Week on Non-equilibrium Quantum Dynamics" にて招待講演を行います - 2024/09/16-19
日本物理学会 "第79回年次大会" にて講演を行います - 2024/09/08
"第10回PATH TO SCIENCE FOR GIRLSワークショップ" にて講演を行います - 2024/09/06
論文 "Boundary dissipative spin chains with partial solvability inherited from system Hamiltonians" をarXivに投稿しました - 2024/03/19
論文 "Exact steady states of the impurity-doped XXZ spin chain coupled to dissipators" がJ. Stat. Mech. に出版されました - 2024/03/12
論文 "Exactly solvable subspaces of nonintegrable spin chains with boundaries and quasiparticle interactions" がPRBに出版されました
研究内容
概要
物質の構成要素である分子や原子など、とても小さい物理的対象は量子力学にしたがって振舞うことが知られています。
量子力学にしたがうミクロな世界の時間発展は、エネルギーに対応する演算子であるハミルトニアンによって定まります。
このため、ハミルトンの固有値および固有状態を求めることで、量子系の振舞いを理解することができます。この操作を、「量子模型を解く」と言います。
多粒子量子模型を解くことは一般に困難ですが、いくつかの模型 (特に一次元系) は厳密に解けることが知られています。解ける模型の背後には共通する数理構造があり、大まかには「多体散乱を2体の散乱に分解したとき、得られる結果は分解のしかたによらない」という性質だと解釈することができます (図1)。この数理構造を用いることで、量子模型の様々な物理的性質を厳密に調べることができます。
図1. 厳密に解ける模型の多くはヤン・バクスター方程式と呼ばれる、3体散乱に関する代数関係式を満たすことが知られている。これは、2体散乱に分解したときに得られる結果が、分解の仕方によらないことを保証している。
これまでの研究対象
これまでの研究対象は、
可積分高次スピン鎖の相関関数
電子スピンは+1/2あるいは-1/2を取りますが、鉄錯体のような化合物ではより高次のスピン値が現れることがあります。このような化合物がもつスピンを一次元に配置した系を高次スピン鎖とよびます。高次スピン鎖に特殊な形の相互作用項を入れると、可積分系となることが知られており、量子逆散乱法を適用してさまざまな物理量を計算することができます。可積分なS=1/2スピン鎖と同じ代数構造をもつ任意スピンSのスピン鎖において、相関関数をベーテ仮設法を用いて計算しました。S=1/2のときと同様、任意のスピンSに対しても相関関数が行列式表示できることを示しました。このことは、相関関数の行列式表示が代数構造に由来すると解釈することができます。
可積分格子模型における隠れた超対称性
量子場の理論における散乱過程は、光円錐を離散化することによりスピン鎖の転送行列で記述することができます (図2)。互いに対応関係にある場の理論とスピン鎖は赤外極限で同じ散乱行列をもち、また紫外極限では同じ共形場理論によって記述されることが知られています。しかしながら、場の理論で見られる超対称性が、対応するスピン鎖では陽にあらわれません。この問題に対し、無限鎖における物理的な励起状態を考えることで、格子上で超対称性が定義できること、及びそれが場の理論における超対称性と全く同じ代数関係式を満たすことを示しました。
図2. 転送行列は、ある時刻での量子系の状態を次の時刻における状態へと変化させる。可積分量子系では、ある代数関係式を満たす行列Lによって転送行列が構成される。量子場の理論では、光円錐を時間・座標ともに離散化することで、散乱を起こす多粒子状態の時間発展を転送行列で記述できる。
可解な定常状態をもつ多状態マルコフ過程
非対称単純排他過程 (ASEP) は離散空間・連続時間上で定義される一次元確率過程です。各サイトは、粒子の有無に応じた2つの状態を取ることができます。このモデルの時間発展はマルコフ行列によって決定され、マルコフ行列のもつ代数構造を通して可積分スピン鎖のハミルトニアンと対応関係にあることが示されています。
マルコフ行列の数学的性質を利用し、1つのサイトが2粒子以上占有できる多状態への拡張を行いました (図3)。多状態への拡張によって定常状態の可解性は保たれる一方、マルコフ行列そのものの可積分性は失われることを示しました。得られた模型の遷移率は、完全非対称極限では同時に遷移する粒子数のみに依存する独立パラメータへと単純化されることがわかりました。
図3. 多状態の非対称単純排他過程では、各サイトにおける粒子数が決まった値 (ここでは2個) を超えない範囲で粒子は一つ隣のサイトに遷移することができる。粒子が一方向のみに遷移する完全非対称極限では、遷移率は同時に遷移する粒子の個数のみに依存する。
可解な定常状態をもつ開放量子系
平衡系と比べ、非平衡系を解析的に調べることは、例え厳密手法でなくてもかなり困難です。一方で近年、Lindblad方程式にしたがって時間発展する開放量子系 (図4) について、厳密に求まる固有モードの存在が注目を集めています。その中でも、バルク部分のハミルトニアンの可解性に起因する部分的に可解なLiouvillianを構成しました。これは、後述する部分的に可解な孤立系を開放系へ拡張したものと解釈できると期待しています。
図4. 両端でスピン流の散逸が起こる開放量子系の一例。システムのハミルトニアンと散逸をうまく選ぶと定常状態が厳密に解ける。これは、部分可解な開放量子系の一つと考えられる。
部分的に可解な量子系
量子可積分系では、高い対称性に由来する多くの保存量によって緩和プロセスが強く制限されることにより、熱平衡化しないことが知られています。一方で、系全体が非可積分であっても、特定の部分空間の中の状態が熱平衡化しないような場合が注目を集めています (図5)。この現象を説明するために様々なメカニズムが提唱されていますが、非可積分な模型の中に可積分模型を埋め込むことでその一例が構成できることを示しました。今後は、保存量に着目することで、部分可解性が生じるメカニズムを解明することを目標としています。
図5. 小さな不変部分空間をもつハミルトニアンでは、マクロに見て熱平衡状態とは異なるエネルギー固有状態がしばしば出現する。この不変部分空間で可解性をもつハミルトニアンが多く見つかっている。
雑誌論文 · 会議録 · 学会発表
雑誌論文 |
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会議録,その他 |
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学会発表 |
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授業担当科目
2024年度 | Aセメスター | 微分積分学演習 現象数理III / 数理解析学概論 応用数学XC / 数物先端科学VIII / 数理解析学概論 |
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Sセメスター | 学術フロンティア講義 数理科学基礎演習 / 数学基礎理論演習 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 |
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2023年度 | Aセメスター | 線型代数学② 現象数理III / 数理解析学概論 応用数学XC / 数物先端科学VIII / 数理解析学概論 数学特別講究 |
Sセメスター | 数理科学基礎 / 線型代数学① 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 数学講究XB |
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2022年度 | Aセメスター | 線型代数学演習 微分積分学演習 現象数理III / 数理解析学概論 応用数学XC / 数物先端科学VIII / 数理解析学概論 数学特別講究 |
Sセメスター | 数理科学基礎演習 / 数学基礎理論演習 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 数学講究XB |
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2020年度 | Aセメスター | 線型代数学演習 線型代数学② 現象数理III / 数理解析学概論 数理情報学 |
Sセメスター | 数理科学基礎演習 / 数学基礎理論演習 数理科学基礎 / 線型代数学① 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 学術フロンティア講義 |
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2019年度 | Aセメスター | 線型代数学② 現象数理III / 数理解析学概論 数理情報学 |
Sセメスター | 数理科学基礎 / 線型代数学① 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 |
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2018年度 | Aセメスター | 線型代数学演習 現象数理III / 数理解析学概論 数理情報学 |
Sセメスター | 数理科学基礎演習 / 数学基礎理論演習 数理科学セミナーI / 物質科学セミナーI 現象数理II / 現象数理学 / 非線型数理 |
職歴 · 学歴 · 実績
松井 千尋 - Chihiro MATSUI -
東京大学大学院 数理科学研究科 准教授
- 2017.04 - 現在
東京大学大学院数理科学研究科 准教授 - 2013.10 - 2017.03
東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻 助教 - 2012.04 - 2013.09
JST FIRST合原最先端数理モデルプロジェクト 研究員
- 2012.03
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程修了 (指導教官: 宮下精二 教授) - 2009.03
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士課程修了 (指導教官: 宮下精二 教授) - 2007.03
東京大学理学部物理学科 卒業
- 2023-2026 (予定) 基盤研究C (研究代表者)
非平衡定常状態近傍での量子可積分系の応答および揺らぎに現れる普遍性クラスの解明 (課題番号 23K03244) - 2018-2022 若手研究(研究代表者)
非エルミート保存量を用いた可積分系スピン鎖のダイナミクスの解明 (課題番号 18K13465) - 2015-2019 若手研究(B) (研究代表者)
スピン鎖が持つ自由度とその有効場理論に現れる超対称性との関係の解明 (課題番号 15K20939) - 2011-2013 特別研究員奨励費(B) (研究代表者)
境界付き量子一次元系における臨界現象の研究築 (課題番号 11J10068)
- 2019/07/08-12
Topic 1 Poster Award (Chihiro Matsui)
Statphys27 (Buenos Aires, Argentina) - 2014/04/23
NTTコム オンライン賞 (株田達矢, 藤山俊文, 松井千尋, 竹村彰通)
第一回データビジネス創造コンテスト - 2013/11/12-15
Best Poster Award Bronze Prize; (Chihiro Matsui)
The 3rd International Symposium on Innovative Mathematical Modelling
The University of Tokyo (Tokyo, Japan);
- 2023.11/18
東京大学公開講座「科学と美」にて講演 - 2023.07/14
「数理ランチタイム\UTF{FF5E}私と数学」にて講演 - 2023.03
理学部ニュース「理学の研究者図鑑; 第6回」に掲載 - 2023.02/24
「UTokyo Women+ 研究者ネットワークを作ろう!」にて講演 - 2023.02/01
リガクル「理学のフロンティア」に掲載 - 2019.11/23
数理科学研究科公開講座 「数理科学の広がり」にて講演 - 2018.07
理学部ニュース「1 + 1 から∞の理学」に掲載 - 2017.04-2020.03
日本物理学会誌編集委員 - 2013-2016
計数工学科オープンキャンパスにて講演 - 2008.03/11
「数学の魅力 #07」にて講演
リンク集
研究機関 | 東京大学 | https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/index.html |
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東京大学大学院数理科学研究科 | https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/index-j.html | |
東京大学芸術創造連携研究機構 | https://www.art.c.u-tokyo.ac.jp | |
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 | http://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ | |
東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻 | https://www.i.u-tokyo.ac.jp/edu/course/mi/index.shtml | |
セミナー | 数理談話会 | https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/seminar/colloquium/index.html |
統計力学セミナー | https://sites.google.com/view/statphys-seminar | |
Kavli IPMU Seminars | https://research.ipmu.jp/seminar/?mode=seminar_recent | |
物理学教室コロキウム · 談話会 | https://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/colloquium/ | |
アウトリーチ等 | #WeChange UTokyo | https://wechange.adm.u-tokyo.ac.jp/ja/ |
東京大学男女共同参画室 | https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/index.html | |
数理女子 | http://www.suri-joshi.jp | |
Path to Science for Girls | https://psgproject.wixsite.com/empower | |
数理なんでも相談コーナー (学内専用) | https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/soudan/ |
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住所
〒153-8914
東京都目黒区駒場3-8-1
東京大学大学院 数理科学研究科棟