当該研究グループの研究業績および preprints
本研究課題では, 拡散方程式を中心とした発展方程式やその系における形状解析や漸近解析の理論の精密化や新しい展開を行う.この中において, 例えば
等を目指し研究を展開・発展させる. 以下では, 本研究課題遂行の中で得られた研究成果の一部を述べる.
1976年の Herm Jan Brascamp, Elliott H. Lieb の両氏, 1983年の Nicholas J. Korevaar 氏は凸領域における熱流は Dirichlet 境界条件の下, 非負値な初期関数の対数が凹ならばすべての正の時刻において解の対数は凹となる性質をもつこと, 即ち, 凸領域上の Dirichlet heat flow による対数凹 (零凹) 性の保存性を証明した. 彼らの開発した研究手法は冪凹性概念の階層構造 (冪凹性概念の強弱) に基づき発展し, 様々な楕円型方程式・放物型方程式に対して優れた結果を多く生み出してきた.これらの背景の下, 本研究課題では以下の研究を行ってきた.
放物型方程式の解には空間変数と時間変数があるが, 時空間両変数に関する解の冪凹性の研究は近年までほとんど為されていなかった. 2014年に石毛は Paolo Salani 氏と共に時空間両変数に関する解の冪凹性概念である放物型冪凹性を導入し, 放物型方程式の解が放物型冪凹性を有するための十分条件を古典解を対象とした粘性解理論を用いて与えた (Math. Ann. 358). この結果は2016年に放物型 Minkowski convolution の導入を伴って, Brunn--Minkowski の不等式の放物型方程式版とも呼べる理論に発展した (Adv. Math. 287). 本研究課題の一環として, 2020年には Qing Liu 氏の協力によって弱い意味の解を対象とした粘性解理論に基づき理論を構成することに成功し, 我々の放物型冪凹性理論の汎用性は大きく改善された (研究業績2020 (13) を参照).
2010年頃までに発展してきた解の冪凹性の解析手法は, その性質上, 楕円型方程式系や放物型方程式系といった方程式系には適応し難い. 一方, (1)で行われた解析手法は解の放物型冪包が粘性劣解であることを示すことが鍵であり, 方程式系にも理論展開が可能である. 石毛は Paolo Salani, 中川和重の両氏と共に方程式系の解の冪凹性の研究を行い, 2016年に非線形楕円型方程式系の解の冪凹性の研究 (Nonlinear Anal. 131), 2020年に非線形放物型方程式系の解の冪凹性の研究を行った (研究業績2020 (12) を参照).
石毛は Paolo Salani, 高津飛鳥の両氏と共に, 対数凹性を一般化したα-対数凹性という凹性概念を導入することによって, 凸領域上の Dirichlet heat flow が対数凹より強い凹性概念を保存することを示した. さらに凸領域上の Dirichlet heat flow が保存する最も強い凹性概念を特定した (研究業績2020 (14) を参照).この研究成果は幾つかの研究課題を生み preprint を含めた現在進行中の研究へと続いている.
拡散方程式の解の時間大域的漸近挙動は初期関数, 境界条件, 方程式の係数や非線形構造および方程式を考える領域らの情報が複雑に絡み合い, 一般にその解析は簡単ではない. 有界領域においてはラプラス作用素等の固有関数が一つの指標を与えることしばしばであるが, 非有界領域においては一般に固有関数の存在も期待できないため, さらにその困難さは増す.
拡散方程式において, 解の(空間変数に関する)最大点といった特徴点の挙動は解の形状解析に基本的な情報を与える. また, この特徴点挙動の解析には解の第一次漸近形だけでなく高次の漸近形の解析が必要であり, 各拡散方程式に応じた高次漸近展開理論が必要となる. 石毛は2005年頃から熱方程式の解の最大点挙動の研究を始め, 新しい漸近解析手法の開発によって球の外部領域における熱方程式の解の最大点挙動を解明した. その研究の発展として2008年頃から壁谷喜継氏と共にポテンシャル項付き熱方程式の解の最大点挙動の解析を始めた. この研究は向井晨人氏の参入を待って劣臨界型および零臨界型二次減衰ポテンシャル項をもつ熱方程式に対する解の時間大域的漸近挙動 (Discrete Contin. Dyn. Syst. 38), 解の最大点挙動 (研究業績2019 (2) を参照) の2つの論文として纏められた. その後, これらの研究は石毛・川上によるポテンシャル項付き半線形熱方程式の藤田臨界指数 (研究業績2020 (9) を参照), 石毛および立石優二郎氏によるポテンシャル項付き熱方程式の解の微分に関する減衰評価 (研究業績2022 (13), (14) を参照)の研究へと続いている.
N次元ユークリッド空間上の非線形拡散方程式の解が時間大域的に Gauss 核 (熱核) の定数倍のように振舞う場合, その解挙動の高次漸近解析を行うことが可能である. 石毛・川上は長年に渡り, これらの理論の構築および展開を行ってきた. この高次漸近展開理論の応用として, 石毛は Junyong Eom 氏と共に, ある準線形拡散方程式に対して, 解の時間大域的第一次漸近形が常微分方程式の解となる ODE 型解が現れる際, その第二次漸近形が線形拡散方程式の解となる様を明らかにした (研究業績2020 (3) を参照). さらに, 石毛と Junyong Eom 氏は同様の解析を非線形拡散方程式系にも展開し, ODE 型解の第二次漸近形に現れる単独方程式と方程式系との差を明らかにした (研究業績2020 (4) を参照).
半線形拡散方程式が可解であるための十分条件の研究は, 藤田・加藤の原理, 藤田臨界指数, 爆発現象, 方程式の相似変換やエネルギー構造とも絡み非常に多くの研究がある. 一方, 可解であるための必要条件の研究は1985年の Pierre Baras, Michel Piere の両氏らによるの研究以後, あまり進展していなかったように思われる. 2018年に石毛は比佐幸太郎氏と共に, Pierre Baras, Michel Piere の両氏の理論を発展させ, 半線形熱方程式を含む半線形分数冪熱方程式が可解であるための初期関数に関する必要条件を与えた. さらに, 2013年の James C.Robinson, Mikolaj Sierzega の両氏による議論を応用・発展させ, 半線形分数冪熱方程式が正値解の存在を許す初期関数の最も強い特異性を特定した (Nonlinear Anal, 175). 本研究課題では, これらの理論を発展させ, 以下の研究を行った.
比佐幸太郎氏と共に, 半空間における非線形境界条件付き熱方程式が可解である必要条件および十分条件について研究を行った. 結果として, 正値解の存在を許す初期関数の特異性の強さがその特異性が発現する場所の境界からの距離にどのように影響するのか, 拡散効果と絡み, その様を明らかにした (研究業績2019 (1) を参照).
高橋仁, 比佐幸太郎の両氏と共に, 非斉次項をもつ半線形分数冪熱方程式が可解であるための必要条件および十分条件について研究を行った. その結果, 正値解の存在を許す非斉次項の最も強い特異性を特定した. この研究では十分条件の証明の鍵である優解の構成に繊細な議論が必要であった (研究業績2020 (8) を参照).
弱連立半線形熱方程式系の可解性等の研究は1990年初頭における Miguel Escobedo, Miguel A. Hererro の両氏らの一連の研究より本格的に始まる. その後, 2001年におけるPavol Quittner, Philippe Soupletの両氏らの研究, 2016年における石毛・川上およびMikolaj Sierzega氏らによる研究によって可解であるための十分条件の研究が為されたものの必要条件の研究がなく, 単独方程式の場合と比べそれは十分でなかった.石毛は藤嶋陽平氏と共に, 拡散係数が異なった場合を含む弱連立半線形熱方程式系に対して, 可解であるための必要条件および十分条件を考察し, 正値解の存在を許す初期関数の最も強い特異性を特定した. 結果, 正値解の存在を許す初期関数の特異性の強さは単独方程式の場合と比べて格段に複雑なメカニズムによって決定されていることが明らかになった. 特に臨界の場合のそれは単独方程式の結果からでは推察し難い (研究業績2021 (5), 2022 (3) を参照).
半線形拡散方程式における優解の構成による可解性の研究は近年めざましく発展している. これには対応する積分核の正値性およびそれが作る積分作用素の半群性が重要な役割を果たしている. しかし, 多重ラプラシアンを含む線形高階熱方程式の積分核(基本解)は正値とは限らず, 半線形熱方程式と比べ, 半線形高階熱方程式における可解性の研究が十分であったとは言い難い. 我々は多重ラプラシアンを含む高階線形熱方程式の積分核(基本解)に対する優核を分数冪線形熱方程式の積分核(基本解)を用いて構築し, その優核が作る積分作用素が半群性の類似物を有すること示した. この優核によって, 半線形高階熱方程式が可解であるための十分条件の詳細な研究が可能になった. また, 可解であるための必要条件の研究も行い, 半線形高階熱方程式が解が存在を許す非負な初期関数の最も強い特異性を特定した (研究業績2020 (10) を参照). さらにこの理論を発展させ, 勾配非線形項等をもつ広汎な非線形高階拡散方程式に対して可解であるための十分条件を与えることにも成功した (研究業績2022 (9) を参照).
研究課題 (C)「半線形拡散方程式の可解性」の研究は爆発の増大度の下からの評価を与える等爆発現象の解析にとっても有益な情報を与え得るが, それとは別に以下のような研究を行った.
劣臨界半線形熱方程式の爆発集合の研究において, 1990年前後に開発された儀我美一, Robert V. Kohn の両氏による方程式のもつ相似性およびそれに付随するエネルギー構造に着目した解析手法が有名である. この解析手法は半線形熱方程式における爆発現象の解析に多大な貢献を為したが, 劣臨界性や方程式を考える領域の凸性等の幾何的制約が必要であった. その一方, 2004年に柳下浩紀氏は Neumann 条件下の半線形熱方程式に対して, 解やその微分の爆発の増大度に関する適当な仮定の下, エネルギー構造とは無関係に, 比較原理のみに基づく爆発現象の解析手法を開発した. 2010年頃から石毛は藤嶋陽平氏と共に, この柳下浩紀氏の開発した解析手法を精査・発展させ, 爆発集合の位置が拡散係数や初期関数の形状とどのように関係するのかについて様々な研究を行った. この研究では爆発時刻直前での解の形状解析が重要であった. さらに, 2017年にはこれらの理論を藤嶋陽平, 前川弘樹の両氏と共に半線形拡散不等式系にも適応可能なものにまで発展させた (Math. Ann. 2017). この研究成果では半線形拡散不等式系の拡散係数がそれぞれ等しいという制約条件があったが, 研究業績2020 (6) をもってこの制約条件は除かれた.
結晶成長の基礎理論であるBCF理論に基づき, 結晶のスパイラル成長モデル, 特に外力付きクリスタライン曲率流方程式について石渡 (哲) は大塚岳氏 (群馬大) と共に共同研究を行い, 解の時間発展に伴い中心が動く状況においても解が時間大域的に一意に存在すること, さらにその解の時間大域漸近挙動を得た. また, このクリスタライン法による提案モデルと等高面方程式による従来モデルとの解の挙動の変化を数値計算で比較し, 解の挙動に大きな差はないことを確認した. この議論は, 次元が提案モデルの方が低いために数値計算負荷が小さく, 詳細な解の挙動解析等において従来モデルに対する優位性を確認できる.
2013年から始まる石毛・川上および Marek Fila 氏による動的境界条件付き非線形楕円型方程式の可解性および最小解の漸近挙動の研究は2016年の研究成果 (J. Math. Pures Appl., 105) および2017年の研究成果 (Rev. Mat. Complut., 30) をもって一定の完成を見た. 本研究課題では, それら先行研究を発展させ, 動的境界条件付き熱方程式または動的境界条件付き半線形熱方程式の可解性やそれらの解の漸近挙動の解析を目指す. その一環として, 我々は Marek Fila, Johannes Lankeit の両氏と共に動的境界条件付き熱方程式の可解性の研究を行い, さらに動的境界条件付き熱方程式のある種の極限として動的境界条件付き楕円型方程式を回復できることを示した(研究業績2019 (4), 研究業績2020 (5) を参照).
非線形楕円型方程式の解の構造, 特に分岐構造は発展方程式の解のダイナミクスを知る上で基本的な情報を与える. 本研究課題では以下のような研究成果を得ている.
石毛・岡部は佐藤得志氏と共に, 冪乗型非線形項をもつ非線形楕円型方程式の一つである強制項付き scalar filed 方程式における正値解の存在・非存在について, 強制項の大きさに関する臨界値の存在を示した. さらに, 臨界の場合, 非線形項の冪の度数が Joseph-Lundgren 指数より小さいならば正値解がただ一つ存在することを示した. この結果の証明は, Joseph-Lundgren 指数と楕円型方程式の正則性理論との深い関連性を示唆する (研究業績2019 (3) を参照).
宮本は, ソボレフ優臨の増大度を持つ楕円型方程式の正値球対称解の構造を研究した. 解の構造は特異解の性質と密接な関係があることが知られている. そこで, 非線形項が 冪や指数関数に摂動を加えた形の場合に, 特異解の性質について研究した. 具体的には, 正値球対称な特異解が一意的に存在し, 古典解のノルムが大きいときに, この特異解に適当な意味で収束することを示した.
多くの意味のある偏微分方程式の背後には, 例えば方程式のもつ変分構造や臨界構造を制御する形で, 函数不等式が隠れている. 例えば非線型楕円型方程式の解の存在と多重性の解析や, 非線型放物型方程式の時間局所解の存在と時間的な挙動を解析する際には, このような函数不等式の内包する数理構造が本質的な役割を果たすことが多い. 石渡(通)は特に, 臨界型函数不等式の包含する「非コンパクト性」の数理構造に着目してこれまで研究を展開してきた. 石渡(通)によって発見された, 函数不等式に対する変分問題における非コンパクト性の新たなモードである「消滅現象」について, 和田出秀光氏との共同研究により, これが Trudinger--Moser 不等式, Sobolev 型不等式, BV--Sobolev 不等式などに横断的にみられる現象であることを示した. また, Bernhard Ruf 氏, Elide Terraneo 氏, Federica Sani 氏との共同研究により, Trudinger--Moser 不等式を背景に持つ半線型放物型方程式の漸近挙動の研究を行い, 安定集合, 不安定集合の存在を得た. 現在は, 臨界型函数不等式に対する最小化列の挙動をプロファイル分解の手法により解析し, より詳細な知見を得る方向の研究を行っている.
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