授業評価アンケート

授業評価アンケートというものが大学で行われるようになってかなりたつ.私は UCLA での TA 時代に初めて受けた.そのころはいつも,よい点はどんな問題を質問しても即座に解いてくれる,悪い点は英語が下手だ,であった.東大では2000年代半ばに始まったが,私は初期の一部を除いてすべてに結果をこちらで公開している.初期の一部の結果がないのは単にデータをなくしてしまったもので,悪い結果を隠しているわけではない.なお新しいアンケートがないが,最近の授業については2年,3年たったのになぜかまだ,事務から結果をもらっていないのである.事務ではなくしたというわけではなく,処理が遅れているということらしい.

アメリカでは授業評価アンケートはとても重要である.テニュアのない研究者や TA の場合,これが悪ければ本当に職を失う危険がある.就職,昇進,テニュアの審査などの際にこの記録を出すこともよくある.特にテニュア審査の場合は,実際にその大学で何年も教えているのでその結果は厳しく審査される.また,私が見たヨーロッパの教授公募応募書類やオーストラリアの内部昇進書類にも感想コメント入りの授業評価アンケートの結果が入っていたので,この流れはいろいろな国に広がっているのであろう.アメリカの学生がどんなコメントを書くかは,Rate My Professors というサイトを見るとよくわかる.ここに知り合いのアメリカの大学教員の名前を入れると,その人の授業についてのコメントが見られる.強くポジティブなものもあるが,私の知り合いでもぼろくそに書かれている人が何人もいる.一方日本では授業評価アンケートは就職,昇進,昇給などにはそこまで影響がないのでは,と思うのだが私も日本全体の事情について詳しいわけではない.私がよく知っているのは東大,しかも数理だけだが,東大数理では今のところこれが悪くても全く何の影響もないはずだ.

私の授業評価アンケートはよい方であると思う.「河東先生は神様です」と書かれたこともある.ほかにも,東大で受けた中で最高の講義だと言われたことも何度もある.もちろんすべての学生が完全に満足しているわけではないのでネガティブなコメントもあるが,全然ダメというようなことは書かれていないと思う.なお他の先生からは「死ね」と書かれたという話も聞いたことがある.私が授業で気をつけていることは黒板に文章をフルに書くということである.たとえば「○○と仮定しても一般性を失わないのでそのように仮定する」と言った文章はそのまま黒板に書く.数学なので式は誰でも黒板に書くのだが,そのつながりを日本語であまり書かない人が多い.たとえば○○=××と書いても,それを定義したのか,仮定したのか,これから示すのか,ここまでで示されたのか,などが黒板を見てもよくわからないことが多い.ちゃんと聞いていればそんなことは当然わかるはずだというのは,聞いている人の理解力や集中力を過大評価していると思う.もう一つは数式をできるだけ声に出して読むということである.読むのが困難な記号もあるが,英文字やギリシャ文字はできるだけ毎回読むのがいいと思う.α(アルファ)なのかaなのか,ν(ニュー)なのかuなのかvなのかといったことは手書きでは判別が難しいからである.花文字とかドイツ文字とかの場合は特にそうである.また内容以前に,字が小さいとか声が聞こえないとかいった問題がある人も多い.私は,自分の書いた黒板を教室の一番後ろまで行って自分で見てみることを推奨している.隅の狭いところにちょこちょこっと書いたり,ちょっと消すときに手で雑に消すなどもよくある問題点である.また声については,私は基本的には黒板の方を向いた状態で話すべきではなく,学生の方を向いて話すべきだと思うが,まあマイクを使えばこの問題はかなり改善されるであろう.

私はアメリカでの TA 経験に基づき,試験答案はすべて解答解説付きで返している.解答解説,成績分布などはネットで公開している.大学では答案を返さないのが普通なので驚かれることが多い.答案は改竄できないようにすべてコピーを取ってある.コピーがあると,採点に疑問があるという質問,抗議にもメールや電話で回答できるので便利である.答案を返すと,成績を上げてくれと言った依頼がたくさん来て大変なのではないかとよく言われるのだが,そもそも何か言ってくる人は100〜200人に1人であり,その大半は単位を落とすと困るので何とかしてくださいというものなので,何ともなりませんと答えればそれでおしまいである.約30年やってきて,何とかしてくれとしつこく言ってきて手間がかかったことは2回,私の採点が間違っていたので修正したことは3回である.

演習の時間に小テストをやって,私は行かずに TA に監督させていたことがあった.私はいろいろな出張や会議と重なっていたのだ.それに対し,一部の学生がカンニングしているのに TA がきちんと取り締まっていないという苦情があった.厳しく監督するようにと言ったのだが改善されず,さらには学生の親から抗議の手紙が来た.うちの子供はまじめに勉強しているのにほかの学生がカンニングしているのはけしからんというのである.カンニングを放置できないのはその通りなので,結局小テストでも期末試験と同様に学生証番号で座席を指定してある程度離れて座るということにして苦情はなくなった.前に別の授業の小テストでも,一部の学生がカンニングしているという抗議の電話がかかってきたことがあり,カンニングの防御はいろいろ手を焼くところである.東大ではカンニング実行者を証拠とともに特定できればその学生のその学期の全成績が無効になるのだが,証拠がつかめなければ対応は容易ではないのだ.

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