成績の付け方

学生に成績をつけるのは教員の重要な仕事であり,当然のこととして私もほぼ毎年担当している.数学の場合試験で成績をつけるのが普通である.東大教養学部では優良可不可だけでなく100点満点で成績をつけることになっている.90点以上が優上,80〜89点が優,65点〜79点が良,50〜64点が可,0〜49点が不可である.優上は5〜10パーセント,優と優上を合わせて30パーセント程度とされている.優上は大学によっては秀と呼んでいるものだが,東大では数年前に導入された.

100点満点の点数をこの分布に合うようにつけることは簡単ではない.普通に100点満点の問題を作って採点して,問題ごとの点数を合計するとなかなかそうはならないであろう.これに対応する一つの方法はいったんつけた点数に何らかの変換を施すことであるが,私は点数の入った答案を返しているのでこの方法は取りにくい.私の方法はまず10〜20枚の答案を見て,適切な分布になるように問題ごとの配点を考えるというものだ.さらに,満点が100点を超えるように設定して,100点を超えた答案は100点で頭打ちにするようにしている.このようにするにはある程度難し目の問題にしておく必要がある.「あなたは半分しかできていませんが,問題が難しかったのであなたの成績は優です」と言えば誰も文句は言わないが,「あなたは9割できていますが,問題が易しかったのであなたの成績は良です」と言えば多くの人は不満を持つので,こうしておいた方がやりやすい.なお東大数学科の方では,成績は優良可不可だけをつければよいのでもっと簡単である.私はこちらは,何点以上が優,何点から何点までは良,というように基準を公開している.

アメリカでは成績 A, B, C, D にそれぞれ + や - がついて,A- とか B+ などになる.GPA (Grade Point Average)を計算するときも,A, A-, B+, B の順に 4.0, 3.7, 3.3, 3.0 などと細かく計算する.(A の上に A+ もあるが,GPA 計算の時には4.0のままで計算することが多いようだ.) これがそのまま公式の成績につくし,奨学金や大学院進学に成績が大きく影響するので学生は成績に大変敏感である.(アメリカでは高学歴化が進んでおり,エリートとして生きていくためには非常に多くの職業で大学院進学が必要に近い.) 東大教養学部の100点満点方式はこれより細かいが,公式に発行される成績証明書には優良可といった成績しかのらないので点数が後に残るわけではない.

アメリカでは一つの授業に中間テスト2回,期末テスト1回があるという形式がよくある.私が留学していた UCLA はクォーター制(1年を10週×3学期に分ける)なのでしょっちゅう試験があった.採点は教員と TA が分担するのだが,私が TA として採点した時はたいてい,この数字が合っていれば何点といった機械的な採点基準だった.一度3重積分で積分の上端と下端が合っていればそれぞれ1点と言う採点基準のことがあった.全部に0と書いてある答案があり,この採点基準だとこれでも2点入ってしまうのでこんなことでよいのかと思ったのだが,教授はよいのだということであった.まあ2点くらいどうでもいいのかもしれないが.

私はこのような方式に慣れているのでよく中間テストをやる.これがどのように最終成績に影響するかはあらかじめ公表しているが,たいてい,中間テストと期末テストの良い方の成績を3割,期末テストの成績を7割の重みで足す,といったものにしている.これも アメリカでよくやっていたもので,中間テストがよかった人はそれで少し有利になる,悪かった人でも期末テストで挽回できるというものである.また私はよく演習の時間に毎回小テストをやっている.この時は合計で成績を出すのだが,病気その他の都合による欠席をどう扱うかという問題がある.正規の期末テストでは医師の診断書を出すなどのルールがはっきり決まっているのでそれに従えばよいが,毎週の小テストでそのような対応を取るのはかなり大変である.そこで私は悪い方の1回または2回を除いた平均を使う,欠席の回は0点とするとしている.1回や2回悪い点があっても評価から除く,様々な都合による欠席もこれで吸収するということである.これもアメリカでよくあった方式をまねしているものだ.

当然のことながら成績で一番問題になるのは不可かどうかである.特に必修授業の場合大きな問題である.「これを落とすと退学になってしまいます.どうか通してください」みたいなことが答案に書いてあることが時々あるし,試験後にそのようなことを言ってくる学生もいるが,もちろん無視して答案通りに成績をつけている.東大数学科の成績は昔から厳しく,必修で7割,8割不可がつくということはよくあった.落としても追試や再履修があるので直ちに留年するわけではない.私が学生の頃は,8回目の追試で必修科目の単位が取れたという話があった.その頃,こんなに不可が多いのはおかしいと教授に直接文句を言った私の同級生がいたが,当時の教授の答えは「自分が学生の頃は一人しか通らなかった試験もあった.それに比べれば自分は優しい」というものであった.私も5割以上不可をつけたことは何度もある.一方教養学部ではさすがにそこまで厳しくしていないが,それでも若い頃はどのくらい不可をつけるのが標準なのかよくわかっていなかったので,選択科目で3割くらい不可をつけたことはある.その後教養学部の全科目では不可の割合は5%くらい,数学では10%くらいということを知った.3割不可をつけたのは厳しすぎたと反省している.

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