東アジア数学博士フォーラム

東アジア数学博士フォーラム(East Asian Core Doctorial Forum on Mathematics)というものがある.日中韓台の7大学が集まって,毎年各大学の若手(主に博士課程院生)をどこかの大学に集めて集会を行ってアジアの数学の若手交流を図るというものだ.なぜか私はこのフォーラムの東大の責任者になっている.

2013年にこういう計画があるから参加してほしいと国内の人から頼まれた.その後実際に2014年1月の京都大学に始まって,国立台湾大学,復旦大学,ソウル大学,清華大学,東北大学,東京大学での7回の集会が開かれた.これで7大学すべての担当が一回りしたので,2021年1年に台湾大学で2周目が始まるはずだったのだが,コロナウイルスのためこれは2回延期されており,今のところ2023年1月に予定されている.

毎回プログラムは,各国代表のシニア数学者の1時間講演が数件あり,そのほかに各国約10人ずつの若手の30分講演が入る.若手の講演は2つのパラレルセッションに分けて行う.最近のこの集会には各国2名の学生オーガナイザーというものがいて,その人たちがプログラムを組んでいる.各国の若手が交流してそういう経験を積むのがよいのでは,という考えから始まったものだ.若手の講演プログラムは内容によって,近い分野の講演が二つのパラレルセッションに同時に分かれないように,また同じ日の同じセッションの講演にはある程度近い内容のものが並ぶように,といったことが考慮されているはずだ.発表がある期間はだいたい3日半である.東アジアなので昼にプログラムが終わればその日のうちに帰ることも可能である.

国立台湾大学の時は大学のそばのホテルに泊まった.台湾は2回目だったが,1回目は台北から1時間ほど離れた新竹の国立清華大学に行ったので,台北の滞在は初めてだった.いろいろなレストランやカフェで食べ歩いて大変良かった.台湾はグルメという観点からは大変優れている.中国語は話せないので,レストランでは英語で注文しようとすると,答えはいつも日本語で返って来た.台湾側のメインのオーガナイザーは代数幾何の Jungkai Chen だが,彼は私と同じ UCLA の Ph.D. である.彼はその後国際数学者会議(ICM)の招待講演者に選ばれ,今年からは私がチーフエディターをしている Internat. J. Math. のエディターになってもらっている.

中国は復旦大学,清華大学の2校が参加している.なぜ北京大学が入っていないのかはよくわからない.復旦大学は上海の中心大学である.Connes の弟子だった Yao がいるので前にも行ったことがあり,また上海では華東師範大学も作用素環の重要大学なのでそちらにも行ったことがあった.私の元学生に復旦大学出身の留学生がいるが,彼は華東師範大学でポスドクをしている.前に復旦大学に行ったときは,副学長をしている作用素環に近い数学者に大学付属の高級レストランに招待されて立派なごちそうを食べたのだった.上海は空港からリニアモーターカーが走っているのでこの時は乗ってみたが,距離が短いのですぐに上海中心部に着いてしまう.清華大学は北京にあって北京大学と隣接しており,中国理系のトップ大学とされている.最近はフィールズ賞の Yau が作った Yau Mathematical Sciences Center (丘成桐数学科学中心)が大きな予算を持っており,次々と大物から若手までをかき集めているようだ.生きている現役数学者の名前を研究所につけるというのもすごい話だ.作用素環では,Jones の弟子の Liu もここで教授になっている.私が清華大学に行ったのはこの1回だけで,集会は数学科の方で開かれた.

韓国はソウル大学が参加している.ソウル大学は作用素環の人たちがいるので何度か行ったことがあり,様子はわかっている.この時もキャンパスのゲストハウスに泊ったが,きれいだし,ここの韓国料理も優れているし,金浦空港から直行のリムジンバスで宿舎のすぐ前まで行けるし,大変便利なところである.韓国の冬はかなり冷え込むが,この時は1月なのに結構暖かかった.韓国側のメインのオーガナイザーは Jongil Park で,この人にも今年から Internat. J. Math. のエディターになってもらっている.

2020年1月には私の担当で東大の Kavli IPMU で開催した.駒場の数理科学研究科ではなく,柏の IPMU で開いたのは,IPMU の研究費の補助が得られること,ホテルや会場の手配に IPMU の秘書の手助けが得られることによる.駒場でやるとホテルや会場の世話は全部私一人でやらなくてはいけなくなるのだ.東アジアの学生に柏を見せて,これが東京です,というのはちょっと心苦しかったが仕方のないところだ.東大の赤門はそれなりに有名らしく,帰りに本郷キャンパスに立ち寄って赤門を見るんだと言っている台湾の参加者たちがいた.つくばエクスプレスを使うと秋葉原を経由するので,これも立ち寄れば現代の東京らしさを味わえたかもしれない.

この集会の英語名称を最初に East Asian Core Doctorial Forum on Mathematics と書いたが,このうち doctorial というのはあまり普通でない単語である.意味は「博士または博士号の」だが,同じ意味の doctoral の方がずっと普通の単語である.私のメールソフトは doctorial と書くとスペルミスの警告を出すし,Google に doctorial と入れて検索すると「もしかして: doctoral」とサジェストされる.誰がどうやって決めたのかよくわかっていないのだが,一応 doctorial の方がこの集会の正式名称になっているようだ.しかし過去のウェブサイトやメールを見ると,doctoral になっていることもあり,この二つが違う単語だということもあまり気にしていないように見える.まあどちらでもよいのかもしれないが,ちょっと気になったところである.

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