ユナイテッド・ワールド・カレッジ

ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)とは世界各国から高校生を選抜して奨学金で教育する学校である.カレッジと名前がついているが大学ではなく,日本の高校の後半2年間に当たる.1962年創立のイギリス校が1番目,1974年創立のカナダ校が2番目であり,現在では日本校を含む18の学校が世界中にある.チャールズ英皇太子が長期にわたってこの組織のトップを務めていたことがあり,日本では経団連が委員会を作って経済的にサポートしている.私自身はこの学校の出身ではないが,妻をはじめとしてここの出身者を何人も知っているのでこの学校を紹介してみたい.UWC は経済的にも学術的にも大変好条件で素晴らしい教育機関だと思うのだが,人数が少ないからか,他の留学プログラム(例えばAFS)に比べてそれほど有名ではないようである.

妻は UWC カナダ校の4期生である.これは全寮制の学校であり,渡航費,授業料,生活費すべて無料であった.この学年の日本人留学生は男子2人,女子2人だった.ほかの国からも大体各国数人ずつが来ている.日本から UWC に行く場合,高校2年生の秋から留学して2年間かけて卒業する.したがって日本に戻ってくると自動的に1学年遅れることになる.UWC 卒業後,妻はアメリカの MIT に合格したが日本に帰って来て東大に進学した.この時日本人の同期生二人は実際に MIT に進学した.そのうちの一人は現在東大経済学部で教授をしている.私の古い友人も UWC カナダ校からハーバード大学に進学した.また麻布高校の私の同期からは一人が UWC イギリス校に留学して,帰国後京大に進学した.京大には当時から帰国子女枠があり,UWC 出身者でこれを使って京大に進学した人がたくさんいる.一方当時の東大には帰国子女入試はなく,一般入試を受けなくてはいけなかった.UWC ではインターナショナルバカロレアと言われる資格を取ることができ,日本の大学の場合この資格で受験することになる.妻が合格後のクラスの名簿の出身高校の欄にインターナショナルバカロレアと書いていて,これはいったいどういう人なんだろうと思ったのを覚えている.

1988年にカナダ校の同窓会があり,私もついて行った.カナダ校はカナダ南西端のバンクーバー島南端のビクトリア郊外にある.(バンクーバーはバンクーバー島ではなく対岸の大陸側にある.) この時はアメリカ北西端のシアトルからごく小さい飛行機で行ったので,小さな島がたくさんある海の上を低く飛ぶ航路でとてもきれいであった.同窓会は数日にわたる行事で学校の寮に宿泊したが,大部屋の中に2段ベッドがいくつもあるという作りである.中央には食堂があり,毎食そこでみんなで食事した.学校は海のすぐそばにあり,ボートに乗って近くの島まで行くという行事もあった.南側が海のため,対岸はアメリカのシアトルであり,ワシントン州のオリンピック山脈が見える.その後も同窓会,家族旅行などでここには四五回行ったことがある.自然にあふれたたいへん良い学校敷地である.

私のハンガリー人の共著者の Weiner は,UWC イギリス校の出身である.イギリス校はカーディフにあり,私の共著者の Evans がカーディフ大学の教授だったため街には何度も行ったことがあるが,このイギリス校には残念ながら行ったことがない.Evans はこのイギリス校にも行ったことがあると言っていた.また別の作用素環の研究者も UWC の T シャツを着ていたので聞いてみたところ,やはりここの出身だということだった.カナダ校は特にカナダ人の枠が多いのだが,知り合いのカナダ人数学者に聞いたところでは,トロント大学でここの出身者をたくさん知っているということであった.カナダ校の名前は Pearson College だが,これはカナダの元首相でノーベル平和賞受賞者だった Pearson にちなんで名づけられたもので,彼のことはカナダでは誰でも知っているとのことだ.

もともと国際交流,国際理解を目指して作られた学校なので,卒業生も国際機関職員,政治家,起業家などがたくさん出ている.ただ日本人同窓生のリストを見ると,普通の会社勤めの人もたくさんいるようだ.UWC 日本校は軽井沢にあり,2014年に開校したということなのだが残念ながら日本校については出身者も一人も知らないし,何も情報がない.ただこういう学校が日本にもあることはたいへん立派なことだと思う.

妻はこの学校で外国語としてスペイン語を習い,さらに夏休みの短期交換留学としてウルグアイにも行っていたのでスペイン語がペラペラに話せる.一度同窓会に私がついて行ったとき,七八人のテーブルで誰かが妻に,スペイン語はまだ覚えているか,と話しかけて,テーブルの会話が一斉にスペイン語に切り替わったことがあった.スペイン語を話せないのはそのテーブルで,私と,やはり同窓生の妻について来た夫の二人だけだった.スペイン語が話せないと教養がない人と思われるようで残念である.

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