3回目のテレビ出演

テレビに出たことは3回ある.最初に出たのは1983年,大学3年生の時である.アスキー社でパソコンの本を書いており,その本のために私が作ったフライトシミュレーターのプログラムの実演で NHK の「600 こちら情報部」という夜6時からの子供番組に出たのだ.真の目的はこの本の宣伝だったが,NHK で宣伝はさせてくれないので本のことは伏せて,大学生が作った新しいプログラムのデモということで出た.将来のテレビゲームのあり方といったようなことについて,偉そうなことを適当に話した記憶がある.この番組は生放送だったので,自分では見られなかった.当時はビデオはあまり普及しておらず,うちにもなかったので自分の出演シーンはずっと見られないままだった.夜早い時間の子供向け番組だったからか,友人,知人からは全く,見ましたよとか,出てましたね,とは言われなかった.そこから30年以上たって,誰かがこの番組のビデオをニコニコ動画にアップロードした.出演当時は旧姓の浅野だったにもかかわらず,これをアップロードした人はそれが私であることをなぜかわかっており,私の現在の名前が出演者として書かれていた.そのため30年以上して初めて,私は自分の出演番組を見ることができた.しかしこのアップロードはもちろん著作権侵害だったので,じきに消されてしまった.

2回目に出た番組は2001年の TBS の「ベストタイム」である.これは昼間のワイドショーのような番組であった.何かこの番組で大学教授の特集をすることになって,東大について調べたところ,当時の東大で私が一番若い教授だったので,私のところに取材に来たということであった.東大にカメラマンが来て,数理のコモンルームで昼ご飯のシーンなどを撮った.当時の私の学生にもインタビューして,学生たちもテレビに映ることを期待していたが,有名タレントの離婚事件が起きてそちらに時間が取られて,残念ながら彼らのシーンはカットされてしまった.このときも昼間の番組だったせいか,見たと言ってきたのは義理の姉だけだった.彼女は小学校の先生なのだが,昼休みにテレビを見ていたら私が出てきたのでびっくりしたと言っていた.反響はこれだけだったので,テレビなんか出てもどうせ誰も見ていないものなんだなと思ったものである.

3回目は2014年に日本テレビの「笑ってコラえて!」に出た.私の東大数学科時代の同級生の紹介ということで「ニッポンの天才を探す旅」という新しい企画で私を取り上げたいという話だった.私は天才でないことはよく知っているが,何事も数学の宣伝だと思って軽い気持ちで引き受けることにした.世間では数学者という存在はほとんど認知されていないので,テレビで取り上げてくれるのなら認知度を上げるのにいい話ではないかと思ったのである.前2回の経験から,どうせ私の知り合いは誰も見ないだろうと思ったこともある.テレビ局の人は何度も熱心に東大に取材に来て,作用素環セミナーで谷本君(現ローマ大学)の講演の様子も撮影していった.さらに妻と一緒に自宅のそばで,二人でパネルを使って質問に答えるシーンのかなり長い時間の撮影があった.また私の昔の友人や高校の先生のところにも取材に行ったということだった.私が大学生時代に書いたパソコンの本も取材対象になった.ディレクターの人は,うちの娘にも一緒に出ないか,といったのだが娘は断った.「笑ってコラえて!」は1時間番組でいろいろなコーナーがあるので,私の出番はどんなに長くても10分程度のはずなのになぜこんなに長い時間撮影するのだろうと思った.さらに最後の取材の際には,(私の子供時代,学生時代について)再現フィルムで行きますからね,と言われて驚いた.親戚には放映日を知らせておいたが,当日新聞のテレビ欄を見て初めて,番組は3時間のスペシャル版であることを知った.さらに朝日新聞テレビ欄のコラムでこの番組が取り上げられ,私の名前が記事中に挙げられていた.これを読んだ昔の知人から当日の朝メールで連絡があった.さて本番の番組を見ると,30分くらいに渡って大々的に派手に取り上げられておりびっくりした.東大のウェブサーバー管理者の人に後で聞いたところでは,この番組中に私のホームページが取り上げられて,サーバーへのアクセスが一気に急増したとのことであった.まさか私のプロポーズシーンが俳優による再現フィルムで全国放送されるとは思わなかった.さらに所ジョージがテレビで私について話しているというのもとても現実とは思えない経験であった.このコーナーはその後もしばらく続けたいということだったが,続かなかったようだ.

その後大学でとても多くの人から,見ましたよ,と言われた.前の2回とは大違いである.当時家を建て替えるため,住宅建設会社を回っていたのだが,そこの人からも見ました,と言われた.また近所のよくいくケーキ屋の人からも見てましたと言われた.妻も出演したので,会社の人からだいぶ見たと言われたということである.一番驚いたのは,電車の中で大声で「あっ,テレビに出ていた人だ」と指さされたことである.直後にうちの娘の大学の卒業式があったので出席したところ,娘の友人たちの間でテレビ放映中に連絡が回ったそうで,すっかり芸能人ですね,と娘の友人から言われた.ずっとたってからも次の年の年賀状の何通かに,テレビで見ましたと書いてあった.

この番組の後でテレビに出た数学者ということで何かのデータベースに登録されたのか,テレビ局からの問い合わせが何度かあったのだが,どれもみんな変なものだった.たとえば芸能人のスポーツ大会で,スポーツ選手と芸能人が競走するのだが,スポーツ選手の方にどれだけハンディをつけたら一番盛り上がるか数学的に計算してほしい,といったものである.ずっと断り続けていたので最近はさすがにこの種の依頼はなくなった.

こんな経験はもう二度とないであろう.まあ一度くらいならやってみて面白かったかな,と思う.

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