シンガポールのマーライオン

シンガポールには4回行ったことがある.数学の用事で2回,家族旅行で2回である.シンガポールはほぼ赤道直下にある小さな島であり,一つの市がそのまま国になった都市国家である.面積は東京23区と同レベル,人口は570万人で約3/4が中国系ということだ.1965年にマレーシアから分離独立した.英語,中国語,マレー語,タミル語が公用語であり,公式の掲示などだとこの4つが書いてあるが,店の看板などでよく見るのはまず英語で,中国語もかなり多い.

初めて行ったのは2005年のアジア数学コンファレンスである.これは東南アジア数学連合が中心になって4〜5年に一度開催しているアジア地区の大規模国際学会であり,私はこの時初めて参加した.この時の私のシンガポールに対する印象は,中国人が経営しているハワイもどきというものだった.シンガポール自体が島だが,その南にくっついている小さな島が観光地として有名なセントーサ島であり,ここに学会の遠足でみんなで行ったことを覚えている.なんだか学会本体より遠足の方が参加者がずっと多いような気がした.

2018年にはシンガポール国立大学の主任教授から数学科談話会に呼ばれたので行ってきた.シンガポール国立大学には私と専門が近い人はいないのだが,この主任の人は上に書いたアジア数学コンファレンスの別の回で会ったことがあったからだと思う.シンガポール国立大学は多くのランキングでかなり上位に来ているのだが,この主任教授(アメリカで博士を取った中国系)の人は,自分たちが東大や京大より上だとか,アメリカのトップ大学と同レベルだとかいうのは過大評価だと自分で言っていた.しかしそうは言ってもシンガポール国立大学は2014年の国際数学者会議(ICM)に4人の招待講演者を出しており,2018年,2022年にも招待講演者がいるので国際的にすぐれたレベルであることは間違いないであろう.

私がチーフエディターを務めるジャーナル,International Journal of Mathematics はシンガポールに本社がある World Scientific で出版している.私はさらに同社が出している Reviews in Mathematical Physics と Journal of Topology and Analysis のエディターもしているので同社の本も含めた出版事業について意見を求められることがよくある.2018年には本社も訪問する機会があった.そのため同社の社長の Phua 氏や編集者とも何度か会ったことがある.最初は2005年で,同社長が私と中国人エディターを高級レストランに招待してくれたのだが,そのもう一人のエディターが半ズボンだったのでレストランのドレスコードに引っかかって入店を断られてしまい,やむなく別のレストランに行ったのだった.同社長が東京に来た際は帝国ホテルのレストランでごちそうしてくれた.私がいつも連絡している同社の担当編集者はシンガポール国立大学数学科大学院出身の中国系女性であり,この人もシンガポールで2度ほど会ったことがある.

家族で旅行した際には,チャイナタウンやリトルインディアなどがよかった.出張の時よりずっと立派なホテルに泊まったので食事も立派だった.有名なラッフルズ・ホテルには泊ってはいないが店には行ってみた.出張の際には中国系の人たちがいろいろな種類の高級中華レストランに連れて行ってくれたが,家族旅行の際にはインド系住民のエリアで食べたバナナリーフカレーがいい味わいだった.

ヨーロッパで"Singapore is a fine city."と書いた T シャツを見たことがある.Fine のところがスタンプで捺された文字のようになっており,「よい」と言う意味と「罰金」の意味をかけてある.ゴミを道端に捨てたり,唾を吐いたり,電車内でものを食べたりすると何でもすぐに罰金がかかるということをからかったものだ.シンガポールは麻薬についての死刑を含む厳罰でも有名である.飛行機で入国する際には麻薬の密輸で死刑になりうるとの警告があった.私は旅行者としての短期の滞在しかしていないので別に何の問題もなかったが,住民はいろいろ大変なことであろう.

4回の滞在の中に数えなかったものとして2020年のインド・コルカタ出張の際にシンガポールに立ち寄ったものがある.東京からコルカタはノンストップでは行けないので,シンガポール航空のコルカタ行きの便を取ったのだが,シンガポールで5時間弱の待ち時間があった.シンガポールのチャンギ空港は豪華でいろいろ店がたくさんあるので空港で時間をつぶせばよいと思っていたところ,降りる際に日本人のキャビンアテンダントから5時間あれば街に行って帰って来られますよ,と言われたのだ.そこで思い立って地下鉄に乗って中心部に行ってみることにした.現金を入手して地下鉄に乗り,ラッフルズプレイス駅まで行ったらすぐにマーライオンにたどりついた.1時間くらいしかいられなかったので,カットフルーツを食べてその辺を眺めた後また地下鉄で帰って来た.マーライオンは世界三大がっかりの一つと言われるのだが,私は割と好きである.屋上のプールで名高いホテルのマリーナベイ・サンズ(3つのビルの屋上がプールでつながっている)ともどもよい眺めだった.

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