- Irreducible 4-manifolds can admit exotic diffeomorphisms (with David Baraglia),
arXiv:2412.14398
既約な4次元多様体上のエキゾチック微分同相の初めての例を与えた.結果的には,楕円曲面や完全交叉のそれなりに広いクラスがエキゾチック微分同相を持つと判明した.これは色々なところで言及されてきた未解決問題で,私自身もしょっちゅう挙げていたもの.5年くらいは折に触れて考えていたと思うが,アデレードに一週間出張しているうちに集中的に議論してできた.最初に上手くいく例を見付けたときは,高揚のあまり計算する手が震えた.
- The monodromy diffeomorphism of weighted singularities and Seiberg-Witten theory (with Jianfeng Lin, Anubhav Mukherjee, and Juan Muñoz-Echániz),
arXiv:2411.12202
定値でないシンプレクティック4次元多様体がSeifertファイバー3次元多様体を境界に持つとき,境界に沿ったDehnツイストが無限位数と示した.これから,weighted homogeneousな特異点のMilnorファイバーのモノドロミーの位数がいつ無限かが完全に決定できる.同じ著者達の直前の論文の続きに見えると思うが,手法は直前の論文とかなり異なる,長い背理法.基本的な結果だと思う.
- On four-dimensional Dehn twists and Milnor fibrations (with Jianfeng Lin, Anubhav Mukherjee, and Juan Muñoz-Echániz),
arXiv:2409.11961
あるクラスのSeifertファイバー空間に沿ったDehnツイストの族のSeiberg-Witten不変量を計算し,様々なことに応用した.ここでの不変量の計算の仕方は,これまでのものと本質的に異なるものだと思う.色々な分野に関係する内容で,共同研究を通して沢山の勉強ができてありがたかった.
- Exotically knotted closed surfaces from Donaldson's diagonalization for families (with Abhishek Mallick and Masaki Taniguchi),
arXiv:2409.07287
族に対するDonaldsonの対角化定理とその変種を使ってエキゾチックな曲面埋め込みをdetectしたもの.宮澤君のP^2結び目の話も前年に何回か聞いていたこともあり,向き付け不能な場合も扱った.
- On localizing groups of exotic diffeomorphisms of 4-manifolds (with Abhishek Mallick),
arXiv:2406.11773
ゲージ理論で捉えられるエキゾチック微分同相のなす群の無限性は,4次元多様体内の小さすぎるピースには局所化できないことを指摘するもの.共同研究者の大学のセミナーに呼んでもらった際に,ランチを食べながら軽い気持ちで雑談をしていたらできた.
- Exotic Dehn twists on 4-manifolds (with Abhishek Mallick and Masaki Taniguchi),
arXiv:2306.08607
エキゾチックな微分同相写像をdetectする新しい手法を導入した.オリジナリティが高いアイデアで気に入っている.Seifert 3次元多様体に沿ったDehnツイストがエキゾチックになり得ることは,様々な人が示そうとしてきたもので,ようやく上手くいって嬉しい.可縮な4次元多様体の境界に沿ったDehnツイストがエキゾチックになり得ることは中々驚きだ.4次元の闇は底知れない.
- From diffeomorphisms to exotic phenomena in small 4-manifolds (with Abhishek Mallick and Masaki Taniguchi),
arXiv:2304.05997
族のゲージ理論を,族が表だって出てこない4次元多様体論に応用した.例えば,エキゾチック4次元多様体を族のゲージ理論を使ってdetectできる初めての例を与えた.前年の秋にMSRIに滞在できたおかげで発生した共同研究だ.
- Homological instability for moduli spaces of smooth 4-manifolds (with Jianfeng Lin),
arXiv:2211.03043
任意の単連結閉4次元多様体のモジュライ空間が,Harer安定性およびその高次元版の類似を満たさないことを証明した.これにより4次元多様体のモジュライ空間の振る舞いが他の次元と本質的に異なることが明らかになった.博士論文(論文4)で構成した,ゲージ理論的な特性類の変種の構成・計算により示される.ゲージ理論的な特性類が従来の特性類を真に超えた情報を捉えていることを決定的な形で確立でき,大きな充実感を得ることができた仕事だ.
- Exotic codimension-1 submanifolds in 4-manifolds and stabilizations (with Anubhav Mukherjee and Masaki Taniguchi),
arXiv:2210.05029
4次元多様体内の余次元1部分多様体への論文11の応用.たまたま論文11がアクセプトされたばかりで,そこに意識が再び向かったのが良かった気がする.
- Involutions, knots, and Floer K-theory (with Jin Miyazawa and Masaki Taniguchi),
arXiv:2110.09258
3・4次元スピン多様体上のinvolutionに対するSeiberg-Witten Floerホモトピー論・K理論を作り,結び目理論や群作用の拡張問題への応用を与えた.ゲージ理論的には,加藤佑矢君の閉スピン4次元多様体に対する仕事(involutionに関する研究だが同変理論ではない)の3次元版および境界付き4次元多様体への拡張.最初は普通の同変理論を考えていたが,途中で別グループのかなり近い研究が出てきて,この方向に急遽方針転換した.結果的には,普通の同変理論からは決して出ないタイプの強力な応用が得られて良かったと思う.しかしいきなりギアを入れなければならず大変だった.
- The homology of moduli spaces of 4-manifolds may be infinitely generated,
Forum Math. Pi 12 (2024), Paper No. e25.
[arXiv:2310.18695]
4以外の全ての次元と異なり,単連結多様体の写像類群が4次元では無限生成になり得ることを示した.4次元多様体のモジュライ空間のどの次数のホモロジーも無限生成になり得ることが主結果で,写像類群についての主張はその帰結である.スイスの写像類群の集会で,ひょんなことから Sullivan の高次元での論文に再会.4次元での類似は成立しないだろうと当を付けたら,一番分かりやすいところで差が出た.4次元以外の微分同相群で成立している定理を見たら,その4次元類似の反証を試みることにしているが,その心がけが上手くいった例だ.4次元多様体の微分同相群の特殊性を分かりやすく示すことができた仕事で気に入っている.
- Involutions, links, and Floer cohomologies (with Jin Miyazawa and Masaki Taniguchi), J. Topol. 17 (2024), no. 2, Paper No. e12340, 47 pp.
[arXiv:2304.01115]
タイトルが示唆するように(?)同じ著者の組み合わせの論文の続き.閉4次元多様体に対するNielsen実現の結果も入っているのだが,タイトルに反映させていないしあまり気づかれなさそうだと思っていたら,arXivに出して即日反応があって驚いた.書いておくものだ.
- A note on generalized Thurston-Bennequin inequalities (with Nobuo Iida and Masaki Taniguchi), Internat. J. Math. 33 (2022), no. 14, Paper No. 2250089, 8 pp. [arXiv:2207.00229]
飯田君の不変量のadjunction型不等式への応用.(少し評価を損するが)自己交叉が負の曲面のadjunction不等式の最短証明ではなかろうか.すぐできた.
- Diffeomorphisms of 4-manifolds with boundary and exotic embeddings (with Nobuo Iida, Anubhav Mukherjee, and Masaki Taniguchi),
Math. Ann. 391 (2025), no. 2, 1845-1897.
[arXiv:2203.14878]
境界付き4次元多様体のエキゾチックな微分同相写像やエキゾチックな部分多様体をdetectした.コンタクト3次元多様体を境界とするSeiberg-Witten型不変量(Kronheimer-Mrowkaによる)の族版を定義してそれを用いるのだが,境界上のアイソトピーの情報を拾うために行った非自明な工夫が気に入っている.4人での共同研究は初めてだったが,各人の経験・技術・興味が上手く活かせて良かったと思う.
- Dehn twists and the Nielsen realization problem for spin 4-manifolds, Algebr. Geom. Topol. 24 (2024), no. 3, 1739–1753.
[arXiv:2203.11631]
かなり広汎なスピン4次元多様体に対してNielsen実現問題を否定的に解いた.(これまで知られていた(単連結な)例は論文9でやっていたK3曲面だけだった.)加藤佑矢君の仕事が4次元のDehn twistに使えることに気づくことが(というよりそれだけが)必要だった.すぐにできた.
- Positive scalar curvature and homology cobordism invariants (with Masaki Taniguchi), J. Topol. 16 (2023), no. 2, 679–719.
[arXiv:2104.10860]
論文5の続き,というか極限まで行った先がこれ.論文5より遙かに強力な結果が得られた.この方面でSeiberg-Witten理論ができることとしては,期待し得る中のbest possibleだと思う.論文5の元となった某氏の仕事がこれまでいまいちよく分かった気がしなかったが,やっと透明な理解に達した.
- A note on exotic families of 4-manifolds (with Tsuyoshi Kato and Nobuhiro Nakamura), Proc. Amer. Math. Soc. 151 (2023), no. 6, 2695–2705.
[arXiv:2101.00367]
紆余曲折あって大変短い論文を書くことになった.これ以上短いものを書くことはなさそうな気がしていたが,v2でもう少し普通の長さになった.
- The groups of diffeomorphisms and homeomorphisms of 4-manifolds with boundary (with Masaki Taniguchi), Adv. Math. 409 (2022), Paper No. 108627, 58 pp.
[arXiv:2010.00340]
境界付き4次元多様体の族に対する制約を与えた.境界付き4次元多様体のDiffとHomeoの比較に強力な応用がある.ゲージ理論のこの方向への応用としては最初のもの.2020年5月に谷口君から,これまでの閉4次元多様体に対する族のゲージ理論の結果は境界付きでできないのかと聞かれ,以前からできそうな気がしていたものを一緒に実行してみた.ManolescuのSW Floer安定ホモトピー型に体を慣らすための訓練論文という側面も大きい.
- Constraints on families of smooth 4-manifolds from $\mathrm{Pin}^{-}(2)$-monopole (with Nobuhiro Nakamura), Algebr. Geom. Topol. 23 (2023), no. 1, 419–438.
[arXiv:2003.12517]
4次元多様体の同相群と微分同相群のホモトピカルな比較に関する当時最も広汎な結果.局所系にまつわる話を関西ゲージ理論セミナーで何時間も聞いていたとき,講演と直接は関係ないFrøyshovと中村さんの局所系係数の交叉形式に関する結果を思い出した.その瞬間,中村さんの$\mathrm{Pin}^{-}(2)$-モノポールに某氏の議論を当てはめると,その議論の適用範囲をかなり広げられるのではないか,という考えが降ってきた.講演後の懇親会の会場への移動中に中村さんに質問してみると,あ,それはできますね!と即答だった.後は中村さんの$\mathrm{Pin}^{-}(2)$-モノポールに関する蓄積のおかげで何の苦もなく進んだ.
- A note on the Nielsen realization problem for K3 surfaces (with David Baraglia), Proc. Amer. Math. Soc. 151 (2023), no. 9, 4079–4087.
[arXiv:1908.03970]
4次元におけるNielsen実現問題(写像類群の任意の有限部分群は微分同相群に持ち上がるか,という問題)に,K3曲面が反例を与えることを示した.また,π1(Diff(K3))からπ1(Homeo(K3))への自然な写像は全射ではないことを示した.特に,π1(Homeo(K3))は非自明なことが分かる.この論文の1カ月ほど前にarXivに出たGiansiracusa-Kupers-Tshishikuの結果を受けて議論した.必要なゲージ理論は論文7で既にできていたため,この論文自身はこれまでに書いた中では断トツで短い.
- Rigidity of the mod 2 families Seiberg-Witten invariants and topology of families of spin 4-manifolds (with Tsuyoshi Kato and Nobuhiro Nakamura), Compos. Math. 157 (2021), no. 4, 770–808.
[arXiv:1906.02943]
族のSeiberg-Witten不変量に対するある種の剛性定理を示した.応用は新しく面白いもので,「滑らかになれない位相的4次元ファイバー束」を与えるというものである.しかもそのファイバー・底空間・全空間は滑らかな多様体の構造を持つことが分かる.(全空間を滑らかにするのにはKirby-Siebenmann理論を使う.)さらに,「滑らかになれない位相的ファイバー束」の存在の帰結として,微分同相群と同相群が弱ホモトピー同値にならないような4次元多様体の例を数多く与えることができる.この論文後しばらくは,そういった方向の研究がかなりはかどった.古典的な高次元微分トポロジーを共著者に沢山教えてもらえたのも楽しかった.
- On the Bauer-Furuta and Seiberg-Witten invariants of families of 4-manifolds (with David Baraglia), J. Topol. 15 (2022), no. 2, 505–586. [arXiv:1903.01649]
族のBauer-Furuta不変量と族のSeiberg-Witten不変量の間の関係を調べた.その議論の副産物として,「K3曲面の滑らかになれない族」の新しい例を構成し,その結果K3曲面の微分同相群と同相群の間のあるホモトピカルな差を見いだした.証明は,Seiberg-Witten方程式の族の有限次元近似とSteenrod平方作用素の組合わせ.ゲージ理論の研究においてSteenrod平方作用素が有効に用いられたのは,これが初めてだと思われる.共同研究者の猛烈な計算と,論文8を書く際に培った幾何学的議論が上手く合わさった.論文8の議論が使えることに気付いたのはこの論文をarXivにupした後だったので,論文8を引用しつつv2に結果を加えた.とても長くなった.
- A gluing formula for families Seiberg-Witten invariants (with David Baraglia), Geom. Topol. 24 (2020), no. 3, 1381–1456.
[arXiv:1812.11691]
Rubermanや自分が使っていた族のSeiberg-Witten不変量に対する貼り合わせ公式を,より一般的な状況で証明した.この後の論文の重要な例の計算で何回も使った.folklore的なものをキチンと一般的な定理として定式化してみると,何となく必要な気がしていた仮定がいらないことに気づくものだ.
- Positive scalar curvature and 10/8-type inequalities on 4-manifolds with periodic ends (with Masaki Taniguchi), Invent. Math. 222 (2020), no. 3, 833–880.
[arXiv:1809.00528]
正スカラー曲率計量と10/8不等式という,元来全く異なる背景の話題が結びつく,という論文.単に関係が付くだけではなく,正スカラー曲率計量の存在問題に強力な応用がある.主要な道具は周期的な端を持つ4次元多様体上のSeiberg-Witten方程式.弟弟子の
谷口正樹くんと夕飯後に院生室で雑談をしていたら,あっという間に証明されるべき結論が何なのか判明した.技術的な山場である倉西モデルと同変摂動の議論の両立は,谷口くんとドイツのレーゲンスブルグに出張に行った際に連日議論して完成.朝から始まる集会に参加しつつ深夜までその辺の広場で議論するという生活を二週間送る.谷口くんは黒い企業で働いている気分だと言っていた.
- Characteristic classes via 4-dimensional gauge theory, Geom. Topol. 25 (2021), no. 2, 711–773.
[arXiv:1803.09833]
博士論文.族に対するゲージ理論を用いて,4次元多様体束の特性類を構成した.2015年のトポロジーシンポジウムにおいて森田茂之先生が提起された,
「Euler類を真に超える特性類は存在するだろうか?」という問いに対する自分なりの解答.MMM類に代表されるような従来の特性類の構成におけるEuler類の役割をゲージ理論の偏微分方程式に担わせる,つまり無限次元化するというのがアイデア.
- Positive scalar curvature and higher-dimensional families of Seiberg-Witten equations,
J. Topol. 12 (2019), no. 4, 1246–1265.
[arXiv:1707.08974]
正スカラー曲率計量のなす空間のトポロジーを調べた.Rubermanによる,4次元におけるこの方面の最初の結果の一般化になっている.可換な微分同相の組に対してSeiberg-Witten的な不変量を導入し,その非自明性を示すことが証明の中心になる.Rubermanの論文はもちろんだが,兄弟子の中村信裕さんの仕事を勉強していたのが役に立った.中村さんとはこの問題に関して随分長いこと議論をさせていただいた.
- A cohomological Seiberg-Witten invariant emerging from the adjunction inequality,
J. Topol. 15 (2022), no. 1, 108–167.
[arXiv:1704.05859]
論文1で仄見えていた,Seiberg-Witten方程式の高次元の族とadjunction不等式を破る曲面たちの配位との関係をシステマティックに調べた.元々のアイデアは幾何学的で明快だがそれを実現するのは大変.主要部を考えているときにインフルエンザに罹り,高熱で技術的詳細を忘れないかハラハラした記憶がある.2番目に書いた論文だがアクセプトされるまで大分かかった.今思うともう少し上手く書けそうな気がする.
- Bounds on genus and configurations of embedded surfaces in 4-manifolds,
J. Topol. 9 (2016), no. 4, 1130–1152.
[arXiv:1507.00139]
修士論文.Seiberg-Witten方程式の高次元の族に対してwall-crossingが発生するための十分条件を,4次元多様体に埋め込まれた曲面たちの言葉で記述した.応用として,4次元多様体内の曲面配位に対して制約を与えることができる.きっかけはM1のとき読んでいたKronheimer-MrowkaのThom予想の論文.初めて真面目に読んだ論文だった.M1の2月ごろに最初にできたと思ったことは,既に出ていた諸結果と被っていることが判明.(その内のひとつはたった一月程前にarXivに出ていたのだが,M1当時arXivをチェックする習慣が自分に無かったため気づかなかったのだ.)それらから抜け出すために上に書いたような方向に進むことになり,結果的にこれが族のゲージ理論を考えるきっかけになった.