東京大学大学院数理科学研究科

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2016年度 ビデオゲストブック 

日時: 2016年4月8日(金)
会場: 数理科学研究科棟(駒場) ITスタジオ

話し手

François Apéry 氏 (l'IRMA à Strasbourg)


聞き手

河野 俊丈 氏 (東京大学大学院数理科学研究科)


フランス語 インタビュー和訳
和訳はこちらからダウンロードできます(pdf)

河野:本日はストラスブールのIRMAからおいでいただいたFrançois Apéry教授にお話をうかがいます。Apéry先生は幾何学がご専門でBoy曲面に関する研究でよく知られています。Apéry先生、本日はよろしくお願いします。先生は、この数年、パリのポアンカレ研究所 (IHP)に保存されている数学模型の研究にも携わっておられるとうかがっています。東京大学にも数学模型のコレクションがあり、この机に置かれている模型には、19世紀末から20世紀初頭にドイツで制作された模型や日本で制作された模型が含まれています。この時代の数学模型の制作の歴史的な側面について、フランスでの状況もこめてお話いただけますでしょうか。

Apéry:実際には、数学模型の制作の歴史は、Gaspard Mongeによる画法幾何学の概念の成立に遡ることができます。Mongeはエコール・ポリテクニクの創始者の一人であり、後に師範学校 (Ecole normale) の教授になりました。当時はまだ高等師範学校 (Ecole normale supérieure)とはよばれていませんでした。画法幾何学では、3次元の図形を、正面、横、上からの射影によって表現することができます。また、画法幾何学によって、建築家や石切工に、やや複雑な形状を作るための指示を与えることが可能になりました。このような手法は規矩術(stereotomy) ともよばれる分野となりました。エコール・ポリテクニクのLouis Bardinと彼の弟子のCharles Muretは、1860年から、石膏による幾何学模型のコレクションを始めました。これらは、比較的単純な幾何学的な形状で、多面体、球面、楕円面などの2次曲面、トーラスなどが含まれます。また、ある立体が別の立体を貫通するような図形も制作されました。例えば、半球とトーラスの交わりを表現する模型があります。もし、半球とトーラスが適当な位置関係にあると、交線は2つの円になり、これはVillarceauの円とよばれます。これらの円はトーラス上で特別な性質をもつものであり、この模型は、石切を離れて、数学者にアイデアを与えるものです。Muretのコレクションは、400点を超えるものになっていきますが、少しずつ、純粋に数学的な模型も制作されるようになってきました。例えばDupin cyclideなど、やや複雑な曲面も制作されました。その頃、同じように数学模型を制作する可能性について考察していたKleinとBrillは当時販売されていたMuretのコレクションをミュンヘン大学で入手し、さまざまな分野の数学者とともに、当時の先端的な数学を表現する模型の制作のプロジェクトに着手しました。東京大学には、Muretのコレクションはありませんが、1870年から1980年頃から制作されたドイツのSchillingのコレクションがありますね。

河野:先生は、数学模型の制作は現代における数学の研究にとっても重要であるとお考えとうかがっていますが、その理由をお聞かせ下さい。

Apéry:これまでにお話した数学模型は、19世紀末から20世紀初頭の数学を表現しているものですが、現代においてもこれらの模型は学生に概念を理解させることを助ける教育的な意味があります。しかし、同時に、数学模型には、計算のみではあまり明白ではないような性質に、直接ふれることができる利点があります。実際に数学模型によって、これまでに考えていなかった性質を発見できることがあります。例えば、これはBernard Morinによって制作されたBoy曲面の模型です。Morinは盲目の数学者でトポロジーが専門です。Morinはこの模型に触れることによって、曲面の変形のプロセス、例えば、球面の裏返しなどを研究することができたのです。数学模型は、教育的な目的のみならず、研究にも重要な役割を果たします。この針金の模型も私が研究のために制作したものです。こちらの模型は、私が紙とセロハンテープで先ほど作ったものですが、Thomas Banchoffによる1960年代の曲面の埋め込みに関する研究を表現しています。

河野:本日はどうもありがとうございました。