東大進学振り分け

東大では最初1年生は教養学部文科一〜三類,理科一〜三類のどこかに入学し,1年半たったところで希望と成績によって学部,学科に分かれる.(2年生の後半は進学内定段階であり,3年生になったところで新しい学部,学科に進学する.数学科は駒場にあるが,数学科と教養学部以外では3年生になるときに本郷に移動する.) これを進学振り分け,略して進振りと言う.「振り分け」という語感がよくないということでか最近は進学選択という名前に変わったのだが,しかし多くの人が今も進振りと言っているのでここでもこの言葉を使うことにする.

文科一類,二類,理科三類からそれぞれ法学部,経済学部,医学部医学科への進学を希望する場合は極端に成績が悪くない限り大丈夫である.(昔はこれらのケースは100%O.K.だったが今は少しだけ制限がある.) それ以外の場合は希望者が定員を上回った場合は誰が行けるかは成績によって決まる.ただし,この学部学科へはこの科類から何人まで優先で行けるといった制限もあり,なかなか複雑である.ここでいう成績は取った科目の点数(100点満点)の平均点であり.GPA よりさらに細かく点数が問題になる.またこの学部学科に行くにはこれこれの科目を取っていないといけないという制限(要求科目)がつくこともあり,さらに複雑になる.しかし点数やこれらの制限をクリアしさえすれば,どの科類からどの学部にでも今は行けるようになっているはずである.(ただし,文科各類から理学部に進学しようとした場合,要求科目の縛りがきつく,留年しないで条件を満たすのはとても難しい.これに対しなぜか,文科各類から工学部の一部の学科に進学するのはずっと制限が緩くなっている.) 一方希望者が定員に達していなかった場合は,希望者全員が進学できることになり,底割れと呼ばれる.大人気のはずの学科が底割れすることもあり,かなりばくち的である.そもそも点数の甘い先生と厳しい先生では成績の付け方に大きな差があるので,もともとばくち性はかなりあるのだが.

数学科に進学するための点数はいろいろ変動しているが,大雑把に言えば特に高くも低くもない.理学部で必要な点数が高いのは物理学科や情報学科だが,数学科はそういうことはなく,かと言って不人気で定員割れするというほどでもない.昔から,1, 2年生の数学の講義を受けた後でも数学科に行きたいなどという物好きは,定員の数くらいしかいないのだと言われてきた.私が数学科の教員になって間もない頃,毎年やっている教養学部の学生対象の進学ガイダンスについて年長の教員から,数学科は来たい人だけくればいいのだから特に人気を上げようなどと思う必要はないのだという話を聞いた.人気が下がりすぎると,本当はほかの学科に行きたかったのに数学科にしか来られなかったという人が来るようになり,それは確かに困るが現状そこまでの心配はない.一方,必要な点数が上がりすぎるとぜひ数学科に来たくて数学の能力はあるのに来られないという人が出てしまい,さらには自分の点数が高いからというだけの理由で数学科に来るという困った人が出てしまうからというのである.(世の中にはそういう馬鹿な理由で専攻を決める人というのがいるのだ.)

平均点は単純平均点ではなく,学科独自の重みをつけた平均点の計算法を使うこともできる.つまり数学科では,教養学部の数学の点数の重みは10倍で評価するといったこともできるので,やってみてもいいのでは,と私は思うのだが他の教員の皆さんは概して消極的である.その結果数学科を含む多くの学科では単純平均点を使っている.ただ前に教養学部の成績と数学科での成績の比較を見る機会があったのだが,その相関は私が何となく考えていたのよりずっと高かった.だから単純平均点でもいいのだと言えばそうなのかもしれない.

この点数を見ると,長年にわたり,点数がだんだん高くなってきている,つまり成績の付け方が甘くなっているような気がする.世界的にもこれは成績のインフレと呼ばれている傾向である.たとえば40年前の私の頃は85点あれば理科二類から医学部医学科に行けたと思う.(当時はそれ以外に医学部医学科に行けるのは理科一類からの1名だけだった.) ちゃんとデータを調べたわけではないが,全体的に5点くらい高くなっているような気がする.成績の標準化のため優(80点以上)を約3割にするようにというルールはかなり前からあるのだが,それ以外のところで点数が上がっているのではないだろうか.

この仕組みについては昔から,大学に入ってまで点数競争が続くのが良くないという意見と,大学の講義を聞いたうえで専門を選べるのは良いという意見がある.前者については数学科では,上にも書いた通り特に競争が激しいということはないのだろう.後者については昔の私のように固い数学科志望の人にとっては特に意味はないが,大学に入ってから数学科志望にしてその後世界的に数学者として大活躍しているという人はそれなりにいるので,たぶん良い点はあるのだろう.大学に入って数学の講義を聞いて,自分の思っていた数学と違うと思って志望を変える人は少なからずいるはずだ.しかし数学科の多くの人たちは特に良いとも悪いとも思っておらず,単に気にしていないだけのような気がする.

10年くらい前にうちの娘が高校生だった時,東大のオープンキャンパスのようなものに連れて行ったことがある.東大の先生が東大の仕組みについて個別に高校生に説明するというコーナーがあり,ある研究所の先生がうちの娘に進振りの説明をしていたのだが,この人は研究所所属のせいか,あまり1, 2年生のことに詳しくなく,かなり説明が頼りなかった.私の方がよほど詳しいと思ったが,そんなことを言うのも大人げないので黙って聞いていた.ところが娘が,父は大学教授だというようなことを口走ってしまい,どこの大学かと聞かれたのでやむを得ず正直に東大だと答えた.向こうの人も自分の説明があやふやなことは自覚していたようで,なんだかずいぶん気まずかったのである.

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