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\def\lan{\langle}
\def\ran{\rangle}
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\centerline{数学IV・固有値と対角化について}
\medskip
\rightline{1999年11月5日}
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号(電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\bigskip
・2次行列の場合.

[2A] 固有値が,相異なる2根,$\a,\be$の場合.

$\a,\be$に対応する固有ベクトルをそれぞれ
$x,y$とし,$X=(x,y)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 0  \\
0 & \be
\endmatrix \right).$$

[2B] 固有値が2重根$\a$の場合.

行列$A-\a I$の像を見る.この行列の行列式は
0なので,像は原点だけか,または直線である.

(1) $A-\a I$の像が原点だけの場合.

$$A=\left(\matrix
\a & 0  \\
0 & \a
\endmatrix \right)$$
である.

(2) $A-\a I$の像が直線の場合.

その直線上の0でないベクトルを$x$とする.
$(A-\a I)x=cx$となる数$c$があるので,$\a+c$は固有値であるが,
今固有値は$\a$しかないので,$c=0$であり,
$Ax=\a x$である.次に$x$と平行ではないベクトル$y$を取る.
$(A-\a)y=ax$となる数$a$がある.

(i) $a=0$の場合.場合(1)の方になってしまうので矛盾する.

(ii) $a\neq0$の場合.$y$を$y/a$で置き換えることにより,
$(A-\a)y=x$とできる.
$X=(x,y)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1  \\
0 & \a
\endmatrix \right)$$
になる.

\bigskip

・3次行列の場合.

[3A] 固有値が,相異なる3根,$\a,\be,\ga$の場合.

$\a,\be,\ga$に対応する固有ベクトルをそれぞれ
$x,y,z$とし,$X=(x,y,z)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \be & 0 \\
0 & 0 & \ga
\endmatrix \right).$$

[3B] 固有値が,3重根$\a$の場合.

行列$A-\a I$の像を見る.この行列の行列式は
0なので,像は原点だけか,直線か,または平面である.

(1) $A-\a I$の像が原点だけの場合.
$$A=\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right)$$
である.

(2) $A-\a I$の像が直線の場合.
まず像から0でないベクトル$x$を取る.
[2B] (2)の場合と同様にして,$Ax=\a x$である.
ベクトル$y,z$を$\det(x,y,z)\neq0$となるように取る.
この時,$(A-\a)y=ax$, $(A-\a)z=bx$となる数$a,b$がある.
ここで,$a\neq 0$または$b\neq 0$である.

(i) $a\neq 0$, $b=0$の場合.
$Ay=\a y+x$, $Az=\a z$としてよい.
$X=(x,y,z)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right).$$

(ii) $a=0$, $b\neq0$の場合.(i)と同様である.

(iii) $a\neq0$, $b\neq0$の場合.
$(A-\a)y=x$, $(A-\a)z=x$としてよい.
$X=(x,y,y-z)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right).$$

(3) $A-\a I$の像が平面の場合.

その像から,互いに平行ではない2本のベクトル$x,y$を取る.
%11/28はここまで.
その平面上で,$A$を考えればそれは$2\times2$行列
で表され,その固有値は$\a$だけなので,
上の[2B]が適用できる.

(i) [2B](1)の場合. $Ax=\a x$, $Ay=\a y$である.
この時,この平面上にないベクトル$z$を取って
$(A-\a)z$を見れば,これは0ではない.(これが0であれば,
$A=\a I$となって(3)の仮定に矛盾する.)改めて,これを
$x$とおき直して,
$X=(x,z,y)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right)$$
となるが,これは$A-\a I$の像が直線であることを意味し,
(3)の仮定に矛盾するから起こり得ない.

(ii) [2B](2)の場合.$Ax=\a x$, $Ay=\a y+x$と仮定してよい.
この像の平面上にないベクトル$z$を取って
$(A-\a)z$を見ればそれは,$ax+by$の形である.

(a) $a=0$, $b\neq0$の時.$b=1$としてよいので,
$X=(x,y,z)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1 & 0 \\
0 & \a & 1 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right).$$

(b) $a=0, b=0$の時.これは$A-\a I$の像が直線であることを意味し,
(3)の仮定に矛盾するから起こり得ない.

(c) $a\neq0$の時.$z$を$z-ay$で置き換えれば,
上の$a=0$の場合に帰着できる.

[3C] 固有値が,2重根$\a$と他の根$\be$の場合.($\a\neq \be$.)

$\a,\be$に対応する固有ベクトル$x,y$を取る.
行列$A-\a I$の像を見る.この行列の行列式は
0であり,また$y$は像に入るので,像は直線か,
または平面である.

(1) $A-\a I$の像が直線の場合.

原点と$x,y$の乗っている平面上にないベクトル$z$を取る.
$(A-\a)z=a y$となる数$a$がある.

(i) $a=0$の時.
$X=(x,z,y)$とすれば,$\det X\neq 0$であり,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \be
\endmatrix \right).$$

(ii) $a\neq0$の時.
$Az=\a z+y$としてよい.$z$を$z+y/(\a-\be)$で
置き換えれば,(i)に帰着.

(2) $A-\a I$の像が平面の場合.

この平面から,$y$に平行でないベクトル$z$を取る.
$Az=\a z+ay+bz$となる数$a,b$がある.

(i) $a=0$の時.$Az=(\a+b)z$となり,$\a+b$は固有値である.
固有値$\be$に対応する固有ベクトルは$y$に平行なものだけ
だから,この固有値$\a+b$は$\a$に等しい.つまり$b=0$である.
$\det(x,y,z)\neq0$とすると,$X^{-1}AX$を
$$\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \be & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right)$$
の形にできて$A-\a I$の像が平面であることに
矛盾する.つまり,$\det(x,y,z)=0$であり,$z$の取りかたから,
$z=cx+dy$の形に書けて,$c\neq0$である.よって,
像の平面に$x$が含まれる.

(ii) $a\neq0$の時.$a=1$としてよく,
$(A-\a-b)z=y$となる.
$\det(x,y,z)\neq0$とすると,$X^{-1}AX$を
$$\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \be & 1 \\
0 & 0 & \a+b
\endmatrix \right)$$
の形にできるが,この行列の固有値は
$\a,\be,\a+b$だから$b=0$となる.これは$A-\a I$の像が
平面という(2)の仮定に矛盾する.
だから$\det(x,y,z)=0$であり,これより
$z=cx+dy$の形に書けて,$c\neq0$である.よって,
やはり像の平面に$x$が含まれる.

以上より,次の場合を考えればよい.

$(2)'$ $A-\a I$の像が平面でその平面に$x$も含まれる場合.

新たにベクトル$z$を平面の外に取る.$\det(x,y,z)\neq0$
であり,
$Az=\a z+ax+by$となる数$a,b$がある.

(a) $a=0, b=0$の時.
$X^{-1}AX$を
$$\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \be & 0 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right)$$
の形にできて,
$A-\a I$の像が像が平面であることに矛盾する.

(b) $a=0, b\neq 0$の時.$b=1$としてよいので,$X^{-1}AX$を
$$\left(\matrix
\a & 0 & 0 \\
0 & \be & 1 \\
0 & 0 & \a
\endmatrix \right)$$
の形にできて,
$A-\a I$の像が平面であることに矛盾する.

(c) $a\neq 0$の時.$z$を,$z+by/(\a-\be)$で置き換えれば,
$Az=\a z+ax$とできる.$a=1$としてよいので,
$X=(x,z,y)$とすれば,
$$X^{-1}AX=\left(\matrix
\a & 1 & 0 \\
0 & \a & 0 \\
0 & 0 & \be
\endmatrix \right)$$
となる.
\bye