\magnification=\magstep1
\documentstyle{amsppt}
\def\a{\alpha}
\def\be{\beta}
\def\ga{\gamma}
\def\e{\varepsilon}
\def\Q{\bold Q}
\def\R{\bold R}

\nopagenumbers

\centerline{1998年度理科II, III類1年生 数学IA演習・小テスト(4)解説}
\rightline{1998年5月19日・河東泰之}
\rightline{数理科学研究科棟310号室 (電話 5465-7024)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{homepage http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}
\bigskip

配点は[1]から順に$10\times 4$, $15\times 2$, 30点です.[1]は
言葉の定義が分かっているかどうかだけの問題です.間違えた
人はよく復習しておいてください.
平均は61.3点,最高は100点(9人)でした.
下に略解をつけます.

\bigskip
[1] それぞれ簡単な例$\{\a_n\}_n$を一つずつあげます.実際の
答案ではもっと説明が必要です.

(1) $\a_1=0$, $\a_n=1, (n \ge 2)$.

(2) $\a_1=\a+1$, $\a_2=\a-1$, $\a_n=\a, (n \ge 3)$.
(この問題の文章は,$\a$が1つ与えられているのかどうか曖昧でした.
だから,特定の$\a=0$等で作ったものでも正解です.どちらにしろ
問題の本質は同じです.)

(3) $\a_n=1/n$.

(4) $1,0,-1$の3つを無限に繰り返した数列.

\bigskip[2]
(1) Cauchy列の定義どおりにやってもできるし,
単調増大なので,「上に有界(たとえば1が上界) $\Rightarrow$ 収束する 
$\Rightarrow$ Cauchy列だ」とやってもできます.

(2) $\a_n=1-1/10^n$だから,簡単にできます.(収束の
証明にはまだ厳密に扱っていない$\log$などは使わないでやってほしかったんですが,
使ってあっても減点はしていません.$10^n > n$を
使えば$\log$はいりません.)

\bigskip [3] 0以上の整数$k$に対し,
$\be_k=\dsize\sup_n \a_{k+n}$とおく.仮定より
$\be_0=\a$であり,また$\{\be_k\}_{k\ge0}$は下に有界な
単調減少数列である.背理法で
$\dsize\limsup_{n\to\infty} \a_n =\a$を示すため,
この等式が成り立たないと仮定しよう.すると,どこかの
$k$で,$\be_k < \a$となっていなくてはならない.
このとき,
$\a=\dsize\sup \a_n=\sup\{\a_1,\a_2,\dots,\a_k,\be_k\}$
だが,$\a_n=\a$となる番号$n$は存在しないと言う仮定と,
$\be_k < \a$により,$k+1$個の数$\a_1,\a_2,\dots,\a_k,\be_k$
は,すべて$\a$より小さいので,これは矛盾である.
よって,$\dsize\limsup_{n\to\infty} \a_n =\a$が証明された.

\bigskip
\bigskip
5月12日の演習の時間にも言いましたが,
参考書で有名なものとしては,高木貞治「解析概論」(岩波書店)
と小平邦彦「解析入門」(岩波書店)があります.実数の切断に
ついてはこの2つが詳しく,他の本では切断のことをあまり書いて
いないこともよくありますが,それ以降の話題(極限/微分/積分など)
については,
どの解析学の本でも,ほぼ同様の内容が書いてあります.

よくわからない,ということを何人かの学生に言われましたが,
最大の理由は,抽象的な厳密理論というものに慣れていないと言うこと
でしょう.実数,極限などと言うものについて当然すでに
かなりのイメージを持っているわけで,そういうイメージは当然重要
ですが,何かを証明する時には,定義とすでに証明したことしか
使ってはいけないわけです.それから,背理法や,対偶を証明する
ということをたびたび使っていますが,そういう否定の取り方に
慣れていないと言うこともあると思います.たとえば,
$\dsize\lim_{x\to a}f(x)=\a$の否定は,
$$\exists \e > 0 \;\;\forall \delta > 0\;\;
\exists x \;\;[\; 0< |x-a| < \delta \hbox{\ and\ }
|f(x)-\a|\ge \e\;]$$
ですが,こういうのに慣れることも必要です.

演習の点のつけ方は,前にも言ったとおり,
全体の小テストのうち,悪い方から2回分を除いた点数の平均によって,
演習の成績をつけます.(欠席の回は0点として扱います.)
その平均そのものでは多分点数として低すぎるので,プラスアルファを
考慮しますが,それについては,講義の方の期末試験の成績も加味します.
小テストの点数が低いのは,難しめの問題も出しているからですが,
そういう問題を出す理由は次のとおりです.(今回のはそんなに難しく
ない方ですが.)

演習の形態としては,問題を配って,それを学生が黒板で解いて
説明すると言うのが伝統的な方法で,私も前に数学IAを理科I類で
教えた時はそうしていました.しかし,学生が50〜100人と言った
人数でいると,そういうやり方では全然順番がまわらなくて
効果があがりません.そこで,今年のように毎回テストと言う方式に
しています.ですが,やはり基本は自分でゆっくり考えるということ
なので,試験時間中にわからなかったことは,あとでゆっくり自分で
考えてもらって,それで身につけばいいというつもりで問題を
出しています.もちろん,その場で全部わかる人はそれでいいんですが,
そういう人がたくさんいるつもりではやっていません.だから,
別にその場ですぐにできなくても,試験のあとで,または答案・
解説を返してもらった後で理解してくれれば,それでけっこうです.

\bye