\magnification=\magstep1
\documentstyle{amsppt}
\def\a{\alpha}
\def\be{\beta}
\def\ga{\gamma}
\def\e{\varepsilon}
\def\Q{\bold Q}
\def\R{\bold R}

\nopagenumbers

\centerline{1998年度理科II, III類1年生 数学IA演習・小テスト(3)解説}
\rightline{1998年5月12日・河東泰之}
\rightline{数理科学研究科棟310号室 (電話 5465-7024)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{homepage http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki}

\bigskip
配点は[1]から順に40, 30, 30点です.[1]は一番簡単なんですが,
点数を上げるために配点を多くしました.
[1]は授業でやった通りの基本問題です.これができなかった人は
よく復習してください.($n\ge2$と書いておくべきでした.)
[2]は$\sqrt2$に収束するわけで,
「$\sqrt2$に収束する事を示せ」と言う問題なら高校生でも
できるでしょうが,ここでは平方根などを使わないで,有理数の
性質だけで,Cauchy列である事を示せ,と言う問題です.
[3]は,下の解答例のように,有理数の範囲内でやってほしかった
んですが,これは少し問題のポイントが[1], [2]とは違うので,
$\a_n=\sqrt{n+1}-\sqrt{n}$や,$\a_n=\log n$と言ったものでも
(ちゃんと書いてあれば)減点はしていません.

平均は49.9点,最高は100点(2人)でした.
下に略解をつけます.

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[1] 
任意の$\e>0$に対し,$0 < r < \e$となる有理数$r$を取る.
$N^2 > 1+3/r$となる自然数$N$を取れば,$n > N$のときに,
$$\left|\frac{n^2+2}{n^2-1}-1\right|=
\left|\frac{3}{n^2-1}\right| < r < \e$$
となるので,
$\dsize\lim_{n\to\infty} \frac{n^2+2}{n^2-1}=1$
が証明された.

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[2] まず,$\a_n$はすべて正の有理数である事が
(数学的帰納法で)わかる.次に
$\a_{n+1}^2-2=\left(\dfrac{\a_n}{2}-\dfrac{1}{\a_n}\right)^2\ge0$
なので,$\a_{n+1}^2\ge2$である.(等号は実際は成立しないが
今はそれは問題ではない.)
また,
$$\a_{n+1}-\a_n=\frac{1}{\a_n}-\frac{\a_n}{2}=
\frac{2-\a_n^2}{2\a_n}\le 0$$
でもある.(ここで「下に有界な単調減少数列は収束するから
Cauchy列だ」としたいところだが,それはまだ証明していない
ので,別の工夫をする.)
まず有理数$t$が,$t^2 \ge 2$を満たす時,
$\dfrac{t^2-2}{4t}\ge
\dfrac{\dfrac{t^2}{4}+\dfrac{1}{t^2}-1}{t+\dfrac{2}{t}}$
である事に注意する.(分母をはらえば簡単にわかる.)
これより,
$$\a_n-\a_{n+1}=\frac{\a_n^2-2}{2\a_n}=
\dfrac{-2+\left(\dfrac{\a_{n-1}}{2}+\dfrac{1}{\a_{n-1}}\right)^2}
{2\left(\dfrac{\a_{n-1}}{2}+\dfrac{1}{\a_{n-1}}\right)}
\le \frac{1}{2}\frac{\a_{n-1}^2-2}{2\a_{n-1}}$$
であるから,$\a_2=\dfrac{3}{2}$, $\a_3=\dfrac{17}{12}$
を用いて,$n\ge2$のとき
$$0 \le \a_n-a_{n+1}\le
\frac{1}{2^{n-2}}(\a_2-\a_3)=\frac{1}{3\cdot 2^n}$$
を得る.
これより,$N < n \le m$のとき,
$$0\le \a_n-\a_m\le \frac{1}{3}\left(\frac{1}{2^n}+\cdots+
\frac{1}{2^{m-1}}\right) < \frac{1}{3\cdot 2^{n-1}}\le
\frac{1}{3\cdot 2^N}$$
なので,任意に$\e > 0$が与えられたときに,これが
$\e$より小さくなるように,自然数$N$を選ぶ事ができる.
つまり,$\{\a_n\}_n$はCauchy列である.

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[3] たとえば一つの例は次のとおり.

$n=1,2,3,\dots$に対して,$1/2^n$を$2^n$回並べてできる数列
$$1/2,1/2,1/4,1/4,1/4,1/4, 1/8,\dots$$
を$\{\be_n\}_n$とする.$\a_n=\sum_{k=1}^n \be_k$
と定めるとこれが,以下のように条件を満たす.

任意の$\e > 0$に対し,$0< r <\e$となる有理数$r$を取る.
$r < 2^k$となる自然数$k$を取り,$\be_N=1/2^k$となる
自然数$N$を取る.$n > N$であれば,
$$|\a_n-\a_{n+1}|=|\be_{n+1}|\le 1/2^k < r < \e$$
だから,問題の条件は確かに満たされている.

一方,数列$\{\a_n\}_n$は単調増大で,
$n=2+4+\dots+2^k$に対し,$\a_n=k$だから,$\{\a_n\}_n$は
Cauchy列ではない.

\bye