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\centerline{1998年度理科II, III類1年生 数学IA演習・小テスト(1)の解説}
\rightline{1998年4月21日・河東泰之}
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答案用紙の1番上に,学生証番号と氏名を書いてください!!

4/14の演習の時間の小テストの解説です.これは成績にはありません.
だから点数もつけてありません.次回からはちゃんと点数をつけて返します.
全体の小テストのうち,悪い方から2回分を除いた点数の平均によって,
演習の成績をつけます.欠席の回は0点として扱います.それから,
毎回ノート持ち込み可で行います.

今回の問題は,いずれも「正解」がはっきりあって客観的に
採点できるような試験問題ではありません.
[1]で,面積比較に持ち込んだり,[2]で,平均値の定理からすぐ導いたり
するのは,
教科書にそう書いてあるという意味では「正解」かも知れませんが,論理的に
はいろいろ
問題があるのは,下に説明してある通りです.一方,[1]で微分したり,
[3]で,指数・対数関数の微分を使うのは,普通に考えれば循環論法ですが,
三角関数,指数・対数関数を先に厳密に定義してしまう方法もあり,
そのような方法の下では,きちんと正当化できる方法です.重要なのは
全体的な論理の展開,流れであって,一部だけを取り出したとき,
「正しい証明」というのが一つだけあるわけではない,ということも
理解してほしいと思います.よく見られたパターンについて下で解説します.

なお,これらの問題は
高校で習ったことはけっこう論理的にいいかげんであった,ということを
自覚してもらうだけのためのもので,このような問題がこれから
演習や試験に出るというわけではありませんから,誤解しないでください.

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[1] (1) 微分を使う方法(ロピタルの定理に持ち込むものを含む)
がたくさんありましたが,
通常,$\sin\theta$の微分が$\cos\theta$であることを示すのに,この極限の
式を使いますから,これでは微分の式を何らかの方法で
別に示さない限り,循環論法になってしまいます.

(2) $\theta>0$の時,
面積の比較で,扇型に内接する三角形$<$扇型$<$直角三角形,の式から
$\cos\theta<\dfrac{\sin\theta}{\theta}<1$がでます.ここで
$\theta\to0$として,はさみうちで答えが出ます.($\theta<0$でも同様.)
これは,教科書に書いてあるのですが,「扇型の面積とは何か?」と考えると,
最終的には積分を持ち出すことになり,上と同様に循環論法の問題があります.

(3) 円弧や弦の長さの比較に持ち込んでも,
$\cos\theta<\dfrac{\sin\theta}{\theta}<1$が出ます.
もともと三角関数における角度は,円弧の長さをもとにしているので,
これのほうが,より「良心的」と言えるでしょう.しかし,それでも
曲線の長さとは何か,と考え始めるとまた積分の話になって
いろいろ微妙になって来ます.
そこまで戻ると,そもそも円周率$\pi$だって怪しい,ということになります.
この様な問題点を避ける方法もこれから授業で説明します.

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[2] (1)
「$f(x)$は,単調増大だから」と書いた人が結構いましたが,それは結論と
同じ事を言い直しているだけで,問題はその単調増大性を「証明」することです.

(2) もっともちゃんとした証明は,平均値の定理から,
$c0$から,$f(c)0$から,$f(x+h)-f(x)>0$を導き,
これを繰り返して使えば,単調増大性が示せる,というものでした.
これは,一見もっともらしいですが,かなりの飛躍があります.問題は,
ここでの$h$が,各$x$に応じて定まる数だ,ということです.たとえば,
まず$x=a$に対して,$h_1$が存在して,$f(a)0$とする方法も
ありました.これももっともらしいのですが,
積分自体いろいろとごまかしているので,また問題があります.
たとえば,$f'(x)$は連続とは限らないので,そのような関数の
積分とはそもそも何か,といったことが問題です.
(区分求積法では一般にできません.)

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[3] (1)もちろん,答は自然対数の底$e$に収束するのですが,その収束先の存在を
証明するというのが問題です.
「この極限は存在することが知られており,
それを$e$という文字で表す.」などと書いてある高校教科書もありますが,
これは見るからに論理的にごまかしています.

答案では,[1]と同様に対数関数の微分などを使っている人がかなりいましたが,通常の
方法では,この極限の存在を示したあとで初めて,自然対数や
$e^x$が定義されるのですから,先にそのような関数の性質を
使ってしまうのは循環論法です.

高校の範囲内で最もきちんとした方法はたぶん次のものでしょう.

まず,$\dsize\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$を二項展開して,
$$1+\cdot\frac{1}{n}+\frac{n(n-1)}{2\cdot1}\frac{1}{n^2}+
\frac{n(n-1)(n-2)}{3\cdot2\cdot1}\frac{1}{n^3}+\cdots+
\frac{n(n-1)(n-2)\cdots1}{n\cdots3\cdot2\cdot1}\frac{1}{n^n}$$
と表します.すると,これは,
$$1+1+\frac{1}{2\cdot1}+\frac{1}{3\cdot2\cdot1}+
\frac{1}{4\cdot3\cdot2\cdot1}+\cdots++
\frac{1}{n\cdots3\cdot2\cdot1}$$
より小さく,さらに
$$1+1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\cdots+
\frac{1}{2^{n-1}}+\cdots=3$$
より,小さくなります.
一方,上の
$\dsize\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$の表示と
$\dsize\left(1+\frac{1}{n+1}\right)^{n+1}$に対する同様の式
$$1+(n+1)\cdot\frac{1}{n+1}+\frac{(n+1)n}{2\cdot1}\frac{1}{(n+1)^2}+
%\frac{(n+1)n(n-1)}{3\cdot2\cdot1}\frac{1}{(n+1)^3}+
\cdots+
\frac{(n+1)n(n-1)(n-2)\cdots1}{(n+1)n\cdots3\cdot2\cdot1}
\frac{1}{(n+1)^{n+1}}$$
を比べると,後者の各項の方が,前者の各項より大きい上に,後者の方が
項の数が一つ多いことがわかります.すべての項は正ですから,
これで,数列$\left\{\dsize\left(1+\frac{1}{n}
\right)^n\right\}_{n=1,2,3,\dots}$
は単調増大で上に有界であることがわかり,収束先の存在がわかります.
これだと,証明しないで使っていることは,「上に有界な単調増大実数列は
収束先を持つ」ということだけになります.これも高校では当たり前のように
使っていますが,厳密な実数の定義に基づく証明はこれから講義で行います.

\bye