\magnification=\magstep1
\documentstyle{amsppt}

\baselineskip 14pt
\nopagenumbers
\def\R{{\bold R}}
\def\e{{\varepsilon}}


\centerline{数学I A (理科I類17,18,27,28組)レポート・中間テスト解説}
\rightline{1995年1月23日 河東泰之}
\bigskip

・レポートについて

1問10点,合計30点でつけてあります.[1], [2]はかなりできていましたが,
[3]はほとんどの人が誤って,「正しい」と答えていました.

\bigskip
[1] 
これは前期のレポート問題だった演習の[26]に
さらに条件を付けたものです.
いくらでも例はありますが,例えば,
$$ f_n(x)=\cases
2nx,&\hbox{$0\le x\le 1/2n$の時,}\\
2-2nx,&\hbox{$1/2n \le x\le 1/n$の時,}\\
0,&\hbox{$1/2n \le x\le 1$の時.}
\endcases$$
とおけば,
すべての$x\in[0,1]$で,$\dsize\lim_{n\to\infty}f_n(x)=0$
となることは明らかで,また,すべての$n$に対し,
$\dsize\max_{0\le x\le1} f_n(x)=1$ですから,
関数列$\{f_n(x)\}_n$は,閉区間$[0,1]$で,定数関数$0$に
一様収束していません.そして,
$$\lim_{n\to\infty}\int_0^1 f_n(x)\;dx
=\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2n}=0$$
が成り立ちます.

ほかにも例はたくさんあり,場合分けのない一つの式でもかけます.

\bigskip
[2]
まず普通にやると,
$$\align
\int_{-1}^1\frac{1}{x^2+(x-1)^2}\;dx&=
\int_{-1}^1\frac{2}{4x^2-4x+2}\;dx\\
&=\int_{-1}^1\frac{2}{(2x-1)^2+1}\;dx\\
&=\left[\arctan(2x-1)\right]^1_{-1}\\
&=\arctan 1-\arctan(-3)\\
&=\frac{\pi}{4}+\arctan 3
\endalign$$
となります.
次に
$$\align
&\int_{-1}^1\frac{1}{x^2+(x-1)^2}\;dx\\
=&
\int_{-1}^1
\frac{1}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}\;dx\\
=&
\int_{-1}^0
\frac{0}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}\;dx+
\int_{0}^1
\frac{1}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}\;dx\\
=&
\lim_{\e\downarrow 0}\int_{-1}^{-\e}
\frac{0}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}\;dx+
\lim_{\e\downarrow 0}\int_{\e}^1
\frac{1}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}\;dx\\
=&\lim_{\e\downarrow 0}
\left[\arctan\left(1-\frac{1}{x}\right)\right]_{-1}^{-\e}+
\lim_{\e\downarrow 0}
\left[\arctan\left(1-\frac{1}{x}\right)\right]_{\e}^{1}\\
=&\left(\frac{\pi}{2}-\arctan 2\right)+
\left(0-\left(-\frac{\pi}{2}\right)\right)\\
=&\pi-\arctan2
\endalign$$
となって,もう一つの答を得ます.二つの目の方で,
一気に
$$\left[\arctan\left(1-\frac{1}{x}\right)\right]_{-1}^1=0-\arctan2$$
とやると間違えてしまいます.(もとの関数の値は正で,この答は
負ですからこれがおかしいことは計算しなくてもわかります.)
なぜこの後の方はダメかというと,関数
$\dsize\arctan\left(1-\frac{1}{x}\right)$は,$x=0$で定義されて
いないので,この関数の微分が
$\dsize\frac{1}{x^2\left(\left(1-\frac{1}{x}\right)^2+1\right)}$
に等しいという式を使うには$x=0$の点をよけないといけないのです.

\bigskip
[3] これはほとんどできていませんでした.「何が問題なのかわからない」,
「実解析関数の定義がそのまま書いてあるのではないか」という声も
ありましたが,問題に書いてある条件は実解析関数の定義とは違います.
(よく見比べてください!)すなわち,問題文では「$\dsize\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$の収束半径が正である」と言っているだけですが,
実解析関数になるためには,この収束したべき級数が($a$を含む
開区間で)$f(x)$に等しくなることが必要です.そして,このことが
成り立たない関数があるのです.つまり,「Taylor展開で得られる
べき級数は収束するが,もとの関数には一致しない」ということが
起こり得ます.以下,その様な具体例をあげますが,この問題は
ちょっと難しすぎたようです.できなくても別に悲観することは
ありません.(期末試験にはこのようなレベルの問題は出ません.)

このような関数は実は大量にあるのですが,具体的に書いて,
本当に条件を満たしていることを示すのは結構大変です.
一番簡単そうな例は,
$$ f(x)=\cases
0,&\hbox{$x\le 0$の時,}\\
e^{-1/x},&\hbox{$x>0$の時.}
\endcases$$
でしょう.(演習問題の[23] --- まだ解かれていない ---も
本質的に同じ関数です.)
この関数について証明すべきことは,次の3つです.

(A) 何回でも微分できる.

(B) すべての実数$a$に対して,べき級数
$\dsize\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$
の収束半径が正である.

(C) 実解析的ではない.

まず,(A)からいきます.$x=0$だけが問題で,ほかの点で
何回でも微分できることは明らかです.それには,数学的帰納法で,
「$x>0$の時,$f^{(n)}(x)$は,$P_n$を適当な多項式として
$P_n(1/x)e^{-1/x}$の形になる」ということを示して,
$f^{(n)}(0)=0$を導きます.(詳しくは省略します.
この種のことをきちんとやるのが演習の[23]です.)

次に(B)ですが,$a<0$の時は明らかです.$a>0$の時は,
$e^{-1/x}$が$(0,\infty)$で実解析的であることが示せるので
大丈夫です.(収束半径は$a$になります.
もっとも「$e^{-1/x}$が$(0,\infty)$で実解析的である」
こともちゃんと証明を書くとかなり大変です.ここでは省略します.
演習問題[76]も関連しています.)そして$a=0$の時は,上のことより
$f^{(n)}(0)=0$なのでべき級数の係数はすべて0になり,明らかに
収束半径無限大となります.

そして最後に,(C)ですが,もし実解析的ならば,
0を含むある開
区間で
$$f(x)=\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n=0$$
とならなければなりませんが,
$x>0$では$f(x)>0$ですから,このようなことはありえません.
以上で,反例の構成ができました.

誤答で多かったのは次のような論法でした.

$x=a$の回りでのTaylor展開を有限項でとめて,剰余項
$\dsize\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n$を調べます.これが
$n\to\infty$の時,0に収束することを示そうとするのですが,
$\dsize\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$の
収束半径が正であることから,十分$a$に近い$c$に対して
$\dsize\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(x-a)^n\to0$と結論するものです.

しかし,これは誤りで,このような論法で言えていることは
十分$a$に近い$b$に対し,
$\dsize\frac{f^{(n)}(c)}{n!}(b-a)^n\to0$ということだけです.

\vfill\eject
・中間テスト

配点は,1番から順に30点(各小問10点),40点,30点です.
%平均点は,??.?点,得点分布は次のとおりでした.

%$$\vbox{\offinterlineskip
%\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit &&\omit &&\omit
%&\cr}
%\def\t{\noalign{\hrule}}
%\def\h{\hfil}

%\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
%\t\vsp
%& 0--19 (点) && 20--39  && 40--59 && 60--79 && 80--99 && 100 & \cr
%\vsp\t
%& ?(人) &&  ? &&  ? && ? && ? && ? & \cr
%\vsp\t
%}}$$

\bigskip [1] $c=1$の場合が授業でやったものです.

(1)は計算するだけで,答は
$$\log c+\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}{n c^n}
(x-c)^n$$
です.

(2) Cauchy-Hadamardの公式より収束半径は$c$です.
あるいは,$\dsize\lim_{n\to\infty}\frac{(n+1) c^{n+1}}{n c^n}=c$
というほうの公式を使ってもできます.

(3) $\log x$は実解析的で,またべき級数も
収束半径内で実解析関数を定めるので,授業でやった
定理より,等式は$(0,2c)$で成り立ちます.収束半径が
$c$であることより,これより広い開区間ではダメなので
これが答です.

\bigskip [2]
授業でやった
$$I_n=\int\frac{1}{(x^2+1)^n}\;dx$$
とおいたときの漸化式は
$$I_n=\frac{1}{2n-2}\frac{x}{(x^2+1)^{n-1}}+
\frac{2n-3}{2n-2}I_{n-1}$$
でした.これより答は,
$$\frac{x}{4(x^2+1)^2}+
\frac{3x}{8(x^2+1)}+\frac{3}{8}\arctan x+C$$
($C$は積分定数)です.

また,$x=\tan t$と置換してもできます.

\bigskip [3]
$0\le c<1$となる任意の実数$c$に対し,
閉区間$[0,c]$で,べき級数$1-x^2+x^4-x^6+x^8-\cdots$
は,$\dfrac{1}{1+x^2}$に一様収束しています.
よってこの区間で項別積分して,
$$\arctan c=c-\frac{c^3}{3}+\frac{c^5}{5}
-\frac{c^7}{7}+\frac{c^9}{9}-\cdots$$
を得ます.$-1<c\le 0$の場合も同様です.

単に「べき級数だから項別積分してよい」という説明でもO.K.ですが,
その場合収束半径のことも一言触れてください.(そうしないと,
なぜ問題で$-1<x<1$という制限がついているのかわからなくなって
しまいます.)

何の根拠も書かずにいきなり項別積分したものはかなりの
減点を免れません.

\bye