東大数理の授業負担とポイント制

東大数理教員の授業負担はポイントによって管理されている.1セメスターの1つの講義が1ポイントである.多くの大学では90分×15週ということだが,現在東大の標準は105分×13週である.駒場の教養学部では長い間,90分×13週で1セメスターだったのだが,それではだめだということで,しかし15週入れるのは他の試験等の日程から厳しいというのでこうなっている.

東大数理の教授,准教授の年間授業負担は年によっての変動はあるが,だいたい5.5ポイントくらいである.アメリカの研究大学では1セメスターに1コース,もう1セメスターに2コースというのが前から広く行われていてこれを 1+2 と略称するのだが,最近は両方のセメスターで1コースずつの 1+1 というのがよくあるようだ.これと比べると一見東大数理の授業負担は多いようだが,簡単にそうとも言えない.まずアメリカの大学の1コースとは通常,150分/週のセメスターの講義を指す.150分/週は50分×3回または75分×2回である.したがって,日本の講義一つというのはアメリカの0.6コースとなり,東大数理の負担は3.3コースとなる.さらにアメリカの場合は通常教員が実際に講義するものだけを数えるが,東大数理は演習や4年生セミナーも数えているし,院生ポイントというものもある.このうち演習というのはアメリカでは TA がやるものなので,教員の授業負担にはカウントされないが,東大数理では TA がいろいろ手伝っていても1ポイントになる.演習は前で問題を解かせるにしろ,小テストをやるにしろ,通常講義よりはかなり楽である.また4年生セミナーも多くの場合講義より楽だが,2人以上学生がいれば1ポイント,1人しかいない場合は0.7ポイントである.1人しかいなくても別に教員の手間は減らないが,学生1人だけのセミナーが乱立するのは望ましくないということなのか,こういう規則になっている.さらに院生は1人につき0.2ポイントである.このほかにも(副)研究科長とか主任とかには別のポイントがつく.

東大数理の院生の数を准教授以上の教員の数で割ると平均は3人くらいなので,これで0.6ポイントとすると残りの平均はは4.9ポイントであり,演習や4年生セミナーが適度にあれば実際にはアメリカの1+1より負担が減ることは十分起こりうる.私の今年度(2021年度)の計算は,教養学部のオムニバス講義の世話係が1ポイント,大学院のスペクトル理論の講義が1ポイント,複数で担当するアカデミックライティングの講義が0.5ポイント,4年生セミナーが1人×2セメスターで1.4ポイント,院生が13人で2.6ポイント,合計で6.5ポイントである.13人というのはとても多い方の数字だ.これでノルマより約1ポイントやり過ぎているのでその分が来年度以降に持ち越しになるが,この私のやり過ぎている状態をアメリカ式に数えれば1+0くらいだと思う.これまでの通算でも私は4ポイント強のプラス(ノルマより多くやっている)である.日本式の学生セミナーというものはアメリカにはほぼないので日本の学生指導をアメリカ式で数えるのはいろいろ無理があるところではあるが.

ポイントとは直接関係ないが,東大数理の数学科,大学院の講義の場合,基礎的なものだと演習がついているので,コンファレンスなどで出張する際,いない週に TA 担当で演習を2回やり,いる週に講義を自分で2回やるということができる.また大学院などの講義なら人が少ないので,休講にしても補講の設定はやりやすい.このためコンファレンスなどの出張は比較的容易である.アメリカだと一つの講義は週2〜3回あるので,休講して補講するのも誰かに代講を頼むのもそれほど容易ではない.学期中に行われるコンファレンスだと,こういう事情のためアメリカの人は来られないことがけっこうある.この点ヨーロッパの方が融通が利くようだ.

東大数理にはサバティカルという制度はない.しかしポイントを長期的に維持していれば長期海外出張はたいてい希望通り認められる.ある年に授業負担がゼロでもその前後で埋め合わせればよいのである.そのため実質的にはサバティカルと同様のことができる.サバティカル制度でも結局は,その大学にいる間にいないときの分の授業もやっているのだ.東大数理では極端な話,1セメスターに授業を固めれば,毎年もう一つのセメスターに長期海外出張することも可能である.一時的にはこれに近いことをしていた人もいる.

私の講義の量が少なくて済んでいるのは院生,4年生が多いからである.今ほど学生がいなかった頃はもっと多く講義をしていたこともある.1セメスターにやった講義の量でこれまでで一番多かったのは週4コマである.この時は出張も多かったので,全部月曜に固めていた.もっとたくさん講義をしている大学教員もいることは知っているが,日本のメジャーな国立大学の基準では一日4コマというのは異例に多い.(この頃は1コマは105分ではなく90分だった.) この学期にヨーロッパに出張し,土曜日にヨーロッパを出て日曜に帰国し,月曜に4コマ講義をして火曜の朝にまたヨーロッパに向かったことがあった.向こうで会った人に,お前昨日も一昨日もいなかったんじゃないの,と言われて,東京に帰って4つ講義してからまた来たんだよ,と答えるとみんな冗談だと思って笑っていたが,冗談ではないのだった.

どうでもよい記事に戻る. 河東のホームページに戻る.