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\begin{document}
\centerline{2013年度全学自由研究ゼミナール「超準解析学」の講義内容}
\medskip
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室 (電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

この講義は,教養課程の1, 2年生を対象にした自由選択のコースです.
毎週月曜日の16:30〜18:00に,数理科学研究棟002号室で行います.
講義内容は Non-standard Analysis (超準解析)と呼ばれる理論です.

$1=0.999\cdots$や,$1/\infty=0$で本当にいいのだろうか? あるいは,
後者の分母をはらった$\infty\times0$はどうなるのだろうか? また
$\infty-\infty$ に意味はあるのだろうか?

こういうことを疑問に思った人は多いと思います.また,高校で
極限を習った時,何かごまかされているように思った人も少なくないこと
でしょう.たとえば,微分を計算する時に,「$h$は0でないから」と言って
分子と分母を$h$で割っておいて,あとから$h=0$としているように
見えます.またそもそも「限りなく近づく」とはどういうことでしょうか.
高校の教科書をよく見ると,方程式や三角関数の話
などはかなり厳密に書いてある
のに,微分積分になると「$\cdots$であることが知られている」と言って
逃げているようなところがかなりあることにも気づきます.

数学は論理に依存する学問ですから,このような「ごまかし」の上に
理論を築いていいはずがありません.実際に19世紀には多くの混乱があり,
有名な数学者の書いた教科書の「定理」がいくつも間違っていることが発覚し,
厳密な理論が切実に求められました.それに対する一つの答えとして
成立したのが1年生の
数学I Aで扱う $\varepsilon$-$\delta$ 論法です.これは大きな成功
をおさめ,だからこそ現在も世界中で教えられているわけですが,無限大
や無限小を正面から扱うことを巧みに回避しているとも言えます.

これとは別にもっと直接的に,無限大,無限小,
極限などを厳密に扱う理論として,Non-standard Analysis (超準解析)
というものが20世紀後半に Robinson によって成立していて,
この理論のもとでは,
無限大や無限小を普通の実数と同じような数学的実体としてとらえる
ことができ,四則演算を自由に行ったり,三角関数に代入したり,無限
級数を途中の無限大番目まで足した和にきちんとした意味をつけたり
することができます.この講義ではこの理論について初歩から講義します.
この講義に対する予備知識としては,数学I Aの最初で教えるような厳密な
実数の基本性質や,$\varepsilon$-$\delta$ 論法
を理解していることと,抽象数学での論理的方法に対する「慣れ」を期待します.
したがって,普通の基準で言えば主に2年生(の数学的に優秀な人)
を対象にしていますが,普通でない1年生は歓迎です.
同じ内容の講義を1998,2002, 2007年度にも行いましたが,いずれの回
も出席者の半分程度は1年生でした.
2007年度の際の学生の感想はここにあります.

{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/zen-2007-eval.pdf}

必要な予備知識は厳密な解析学の本の最初の方を20ページか30ページ読めば
得られます.計算力は全く不要です.$x^5$ の微分を知らなくても,
$\sin x \cos^2 x$ の積分ができなくても,それどころか $7\times 8$ が
計算できなくてもこの講義では全く困りません.
そういう意味では,「簡単」ですが,抽象的な論理
(集合の集合の集合などを扱う)については最高レベルの理解力が要求されます.
将来,数学またはそれに密接に関連した
理論科学の研究者になりたいという人を想定して講義します.

私の専門は無限次元行列の集まりのようなものを研究する,
作用素環論と言うものですが,この理論で1983年に
Fields 賞を取った Alain Connes
の理論では,Non-standard Analysis のアイディア,テクニックが重要な
役割を果たしています.直接その理論をここで講義することはできませんが,
そういうことにつながることをやって行きたいと思います.

参考文献は,齋藤正彦「超積と超準解析」(東京図書),
デービス「超準解析」(培風館)ですが,残念ながらいずれも
出版社在庫切れです.両方とも教養の図書館にありますが,
別にこれらの本を持っている必要はまったくありません.
また,数理科学研究棟の図書館にも英語(やフランス語)の Non-standard
Analysis の本はいろいろあります.(教養の学生証でここの数理の図書館
に入れます.)

成績は出席と感想文によってつけます.試験やレポートはありません.

\end{document}