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\newsymbol\varnothing 203F
\def\limsup{\mathop{\overline{\hbox{lim}}}}
\def\liminf{\mathop{\underline{\hbox{lim}}}}
\NoBlackBoxes

\centerline{解析学IV 期末テスト解説}
\medskip
\rightline{1997年10月18日}
\rightline{河東泰之}

配点は1番から順に25, 25, 20, 25, 20, 30, 20点の165点満点です.最高点は
140点で得点分布は次のとおりでした.

$$\vbox{\offinterlineskip
\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit &&\omit &&\omit &&\omit
&&\omit &&\omit &\cr}
\def\t{\noalign{\hrule}}
\def\h{\hfil}

\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
\t\vsp
& 0--19 (点) && 20--39 && 40-49 && 50--59  && 60--69 && 70--79 && 80--89 &&
90--99 && 100-- & \cr
\vsp\t
& 15(人) &&  13 && 5 && 1 && 2 && 2 && 7 && 1 && 3 & \cr
\vsp\t
}}$$

平均点は41.5点,3年生だけの平均点は46.3点でした.
34点未満がD(25人),35点〜49点がC(8人),50〜79点がB(5人),
80点以上がA(11人)です.(これらのデータには期末試験を欠席した人は
入っていません.)このうちCの1人は本来Dの点ですが,演習の
小テストがよかったのでCになりました.また前に予告した演習の成績
がDだった人の1人は今回の成績がよかったのでCになりました.(その他の
人の演習の成績は夏休み前に予告したとおりです.)

どの問題もポイントは,ほぼ一つか二つに限られています.
そのため,いくらたくさん書いてあっても
重要なポイントが欠けている/間違っている答案はほとんど
0点になっています.以下,そのポイントについて説明します.

\bigskip
[1] (25点) すみません.Atomの定義に
$\mu(A) > 0$を入れるのを忘れていました.2人の人が気づいていましたが,
その他の人も含めて
解答には差し支えていないようでしたので,採点には配慮しませんでした.

誰でも考えるのは,$X\supset A_1 \supset A_2 \supset A_3 \supset\cdots$
を,$\mu(X) > \mu(A_1) > \mu(A_2) > \mu(A_3) > \cdots$
となるように取っていくと言うものです.各$A_n$がatomでないので,
$A_{n+1}$が$0 < \mu(A_{n+1}) < \mu(A_n)$となるように取れると言うわけです.
しかしこれでは一般に,$\mu(A_n)$が十分小さくなってくれません.
たとえば,区間$[0,1]$でLebesgue測度を考えた時に,$A_n=[0,1/2+1/2^n]$とし
てみれば,$\mu(A_n)$はいつでも$1/2$以上のままです.
これをどう避けるかがこの問題のポイントであり,それが書いていなければ
0点です.主なやり方は2つあるので,両方について説明します.

第一の方法は,$A_n$から$A_{n+1}$を作る時に,$\mu(A_{n+1})$と
$\mu(A_n)-\mu(A_{n+1})$を比べて前者の方が大きければ
$A_n\setminus A_{n+1}$をあらためて$A_{n+1}$とおき直す,というものです.
これをやれば毎回$\mu(A_n)$は半分以下になっていくので,
$\dsize\lim_{n\to\infty} \mu(A_n)=0$にできます.

第二の方法では,とにかくまず最初のように$A_n$たちを取ってしまいます.
$\{\mu(A_n)\}_n$は正値単調減少数列なので極限を持ちます.だから,
$\mu(A_n\setminus A_{n+1})\to0$がわかってこれでO.K.です.

この問題はこのポイントに気づくかどうかが問題なので,採点もほとんど
0点か満点かになります.

\bigskip
[2] (25点)
まず,「すべての$x\in X$で
$-\infty < f(x) < \infty$」ということと「$f(x)$が有界」というのは
まったく違うことです.この区別がつかないのは,即座に不可をつけられるに
値する重大な間違いです.それから$\e$の意味は,条件を満たすようなものが
一つ与えられた,という意味です.

まず,「すべての$x\in X$で$-\infty < f(x) < \infty$」ということから,
$\dsize\lim_{n\to\infty} \mu(\{x\in X\mid |f(x)|\ge n\})=0$がしたがいます.
(ここで,$\mu(X) < \infty$であることを使っています.)ですから,
$\mu(\{x\in X\mid |f(x)|\ge n\}) < \e$となるような,
$n$が取れます.この$n$に対し,
$\{x\in X\mid |f(x)|\ge n\}$上では$f(x)$は仮定により可積分となり,
また,$\{x\in X\mid |f(x)| < n\}$上では$f(x)$の有界性と$\mu(X) < \infty$
よりやはり$f(x)$は可積分となるので,結局$f(x)$は全体で可積分に
なります.

この問題のポイントは,$f(x)$の値によって集合$X$を二つに分け,
$|f(x)|$が大きいところでは仮定を使い,小さいところでは単に
$\mu(X) < \infty$を使う,ということです.この分け方に気づいていなければ
それは0点です.

\bigskip
[3] (20点)
これはFatouのlemmaを使う問題です.それ以外のものでやろうとしているのは
0点です.(たとえば,「部分列を取れば単調増大にできて単調収束定理が
使える」というのがかなりありましたが,それは誤りです.そのような
部分列は一般には取れません.)

まずFatouのlemmaによって,
$$\int_X f(x)\;d\mu =\int_X \liminf_{n\to\infty}f_n(x)\;d\mu\le
\liminf_{n\to\infty}\int_X f_n(x)\;d\mu$$
です.次に各$n$で,$\dsize\int_X f_n(x)\;d\mu\le \int_X f(x)\;d\mu$
ですから左辺で$n\to\infty$とした上極限を取って
$\dsize\limsup_{n\to\infty}\int_X f_n(x)\;d\mu\le \int_X f(x)\;d\mu$
となります.この二つを合わせれば結論が出ます.

あるいは次のようにもできます.もし,$\dsize\int_X f(x)\;d\mu < \infty$
であれば直ちにLebesgueの収束定理が使えて結論が出ます.
もし,$\dsize\int_X f(x)\;d\mu =\infty$であれば,上と同様にして
Fatouのlemmaを使って得られる不等式から,
$\dsize\infty\le\liminf_{n\to\infty}\int_X f_n(x)\;d\mu$がわかります.
これは,$\dsize\lim_{n\to\infty}\int_X f_n(x)\;d\mu=\infty$
を意味しているのでやはり結論が成り立ちます.

\bigskip
[4] (25点)
この問題のポイントは$f(x), g(x)$をもっとたちのよい関数でまず近似
する,ということです.

$\dsize\lim_{R\to\infty}\int_{|x|\ge R} |f(x)|^2\;dx=0$なので,
$g(x)$についても同様に考えて,任意に与えられた$\e > 0$に対し,
$\dsize \int_{|x|\ge R} |f(x)|^2\;dx < \e^2$,
$\dsize \int_{|x|\ge R} |g(x)|^2\;dx < \e^2$が同時に成り立つような
$R > 0$をまず選びます.
次に$t > 2R$とすると,
$$\int_\R f(x+t)g(x)\;dx=\int_{-R}^R f(x+t)g(x)\;dx+
\int_{|x|\ge R}f(x+t)g(x)\;dx$$
としたあと,右辺第1項は,
$$\left|\int_{-R}^R f(x+t)g(x)\;dx\right|\le
\left|\int_{-R}^R |f(x+t)|^2\;dx\right|^{1/2}
\left|\int_{-R}^R |g(x)|^2\;dx\right|^{1/2}\le \e \|g\|_2$$
と評価され,
右辺第2項は,
$$\left|\int_{|x|\ge R} f(x+t)g(x)\;dx\right|\le
\left|\int_{|x|\ge R} |f(x+t)|^2\;dx\right|^{1/2}
\left|\int_{|x|\ge R} |g(x)|^2\;dx\right|^{1/2}\le \e \|f\|_2$$
と評価されます.これで結論が出ます.

いきなりCauchy-Schwarzを使って
ばらしている人がけっこういましたが,
そうやったのでは全然できません.

あるいは,$L^2(\R)$の中で,ある有界区間の外では0になるような
連続関数全体がdenseになること
を使っても同様にできますが,
このdenseになることは$L^1(\R)$のときしか
授業でやっていないので,そのときの証明を
まねしてまずこれを$L^2(\R)$に対して証明しておく必要があります.

\bigskip
[5] (20点) まず,$\|f\|_p=0$のときは求めるsupは明らかに0ですから,
$\|f\|_p > 0$の場合だけ考えます.

まず,H\"olderの不等式から直ちに,$\|g\|_q=1$のときに
$$\left|\int_\R f(x)g(x)\;dx\right|\le \|f\|_p$$
となるので,求めるsupは$\|f\|_p$で押さえられます.一方,
$|g(x)|^q=|f(x)|^p/\|f\|^p_p$,
$f(x)g(x)\ge 0$となるように$g(x)$を決めると$\|g\|_q=1$
であり,また
$\dsize\int_\R f(x)g(x)\;dx=\|f\|_p$となるので,
求めるsupは$\|f\|_p$そのものであることがわかります.
(これは$\|f\|_p=0$のときも正しい結論です.)

ポイントはH\"olderの不等式を正しく使うことと,その等号成立条件を
チェックすることです.前半だけだと10点です.

\bigskip [6] (30点)
配点は,単調増加と連続に15点ずつです.

まず,$p < p'$とします.このとき,$p/p'+1/q=1$となる
$q > 1$が選べます.すると,$|f|^p=|f|^p\times 1$と思って
H\"olderの不等式を使うと,
$$\int_0^1 |f(x)|^p\;dx\le
\left(\int_0^1 |f(x)|^p\;dx\right)^{p/p'}\times 1$$
を得ます.両辺$1/p$乗すれば,求める単調増加性がわかります.

次に連続性は,$\dsize\int_0^1 |f(x)|^p\;dx$が$p$の連続関数である
ことを示せば十分です.$f(x)$を$|f(x)| < 1$の部分と
$|f(x)| \ge 1$の部分に分けてそれぞれ$f_1(x), f_2(x)$と
します.すると$p_n\to p$のとき,すべての$n$について
$p_n \le p'$となる$p'$を選べば,
$$\int_0^1 |f(x)|^{p_n}\;dx=\int_0^1 |f_1(x)|^{p_n}\;dx +
\int_0^1 |f_2(x)|^{p_n}\;dx$$
で,右辺の第1項は$|f_1(x)|\le 1$, 第2項は
$|f_2(x)|^{p_n} \le |f_2(x)|^{p'}$という評価かできるので,
いずれについてもLebsegueの収束定理が使えて,
$\dsize\int_0^1 |f(x)|^{p}\;dx$に収束します.

\bigskip [7] (20点)
まず,形式的な変形は
$$\align
\int_\R \left(\int_\R f(x-y)g(y)\;dy\right)e^{-ixt}\;dx
&=\int_\R \int_\R f(x-y)g(y)e^{-i(x-y)t} e^{-iyt}\;dydx\\
&=\int_\R \int_\R f(x-y)g(y)e^{-i(x-y)t} e^{-iyt}\;dxdy\\
&=\int_\R f(x-y)e^{-i(x-y)t}\;dx \int_\R g(y) e^{-iyt}\;dy\\
&=\int_\R f(x) e^{-ixt}\;dx
\int_\R g(x) e^{-ixt}\;dx\endalign$$
です.
このうち最後の等式は単にLebesgue積分が平行移動で不変だということ
を使っているだけなので,問題は積分順序を交換している2番目の
等号です.これはFubiniの定理を使っているわけですが,使える理由は,
$|f(x-y)g(y)e^{-i(x-y)t} e^{-iyt}|=|f(x-y)g(y)|$に対し,
$$\int_\R \int_\R |f(x-y)g(y)|\;dxdy
=\int_\R |f(x-y)|\;dx \int_\R |g(y)| \;dx
=\int_\R |f(x)|\;dx \int_\R |g(y)| \;dx < \infty$$
であるからです.

計算の部分は簡単なんですから,なぜFubiniの定理が使えるのかと
いうことがきちんと説明されていなければ大幅な減点です.

\bigskip\bigskip
講義の単位を落とした人には12月頃に追試があります.
また,今回,または追試で講義の単位を取った人が
演習の単位だけ落としている場合はあとで
レポート提出を課す予定です.
いずれも掲示に注意してください.

\bye