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\centerline{解析学特別演習II・小テスト解説 (1)}
\rightline{2006年10月16日}
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室(電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

採点はTeaching Assistantの石谷君です.
平均は53点,最高は100点(1人)でした.
簡単な解説をつけます.

\bigskip
[1] (20点) $(X, \mu)$ を測度空間とし,$\{f_n(x)\}_n$ をその上の,
非負可測関数列とすると,
$$\liminf_{n\to\infty} \int_X f_n(x)\;d\mu\ge
\int_X \liminf_{n\to\infty} f_n(x)\;d\mu.$$

「可測」などは書いてなくてもいいことにしました.また $\R$ や $\R^n$ で
書いてあってもいいことにしました.「非負」(あるいは,
可積分関数で下からおさえられる)がないものは0点です.不等式が逆向き
なのももちろん0点です.

思ったよりかなり悪いできでした.講義でも言ったように,Lebesgue 積分
がよくわかっていないとたいへん苦しいことになります.よく復習しておいて
ください.

\medskip
[2] (20点) たとえば,$f_n=\chi_{[n,n+1]}$ とおけば,
(1), (2), (3) は明らかで,
$\int_{-\infty}^\infty f_n(x)\;dx=1$ なのでもちろん 0 には
収束しません.

ほかにももちろん簡単な例はたくさんあります.

\medskip
[3] (20点) (3) は,「$f(x)$ に $\R$ 上ほとんどいたるところ一致
する連続関数は
存在しない」と書くべきところでした.問題の形だと,
$f_n(x)=0$, $f(x)=\chi_{\{0\}}(x)$ というような自明な例で O.K. に
なってしまいます.(問題をこの形で書いてしまったので,
もちろんこのような例でも採点は満点にしてあります.)

(3) を上のように書き直すと,たとえば
$$f_n(x)=\cases nx,&0\le x\le 1/n\hbox{の時,}\\
1, & 1/n \le x\le 1-1/n\hbox{の時,}\\
n-nx, & 1-1/n\le x\le 1\hbox{の時,}\\
0, & {その他の時,}
\endcases$$
として,$f=\chi_{[0,1]}$ としたものが答えになります.
(1), (2) は明らかで,
(3) ですが,もし$f(x)$ に $\R$ 上ほとんどいたるところ一致する連続関数
$g(x)$ があったとすると,
$$g(x)=\cases 1,& 0 < x < 1\hbox{の時,}\\
0, & x < 0\hbox{の時,}\endcases$$
でなくてはなりませんが,これでは $x=0$ で連続になりません.

\medskip
[4] (20点)
半開区間 $[-n,n[$ を $n^2$ 等分した,おのおの長さ $2/n$ の半開区間
たちを左から $E^{(n)}_1, E^{(n)}_2, \dots, E^{(n)}_{n^2}$ とします.
$$E^{(1)}_1, E^{(2)}_1, \dots, E^{(2)}_4, E^{(3)}_1, \dots,
E^{(3)}_9, E^{(4)}_1, \dots$$
と並べたものの特性関数を順に $f_1(x), f_2(x), f_3(x),\dots$ とします.
すると,(1) は明らかで,$E^{(n)}_k$ の長さが $2/n$ であることより,
(2) もわかります.ついで (3) ですが,どの $x\in\R$ についても,
数列 $\{f_n(x)\}_n$ は 1 を無限個含むことからわかります.

これはあまりできていませんでした.「$L^1$-収束していれば,
ある部分列はほとんどいたるところ各点収束」ですが,この例は部分列に
移る必要が本当にあることを示しています.

\medskip
[5] (5点$\times4$) 

(1) 誤り.$(0,1)$ 区間の有理数に番号を振ったものを
$\{a_n\}_{n=1}^\infty$
とします.
$$E=(0,1)\cap \bigcup_{n=1}^\infty (a_n-\frac{1}{2\cdot3^n},
a_n+\frac{1}{2\cdot3^n})$$
とおくと,
$$\mu (E)\le \sum_{n=1}^\infty\frac{1}{3^n}=\frac{1}{2}$$ となりますが,
もちろん $E$ は開集合であり,すべての有理数を含むので稠密でもあります.

たいへん多くの人が「正しい」と間違えていました.

(2) 正しい. $E=\{ x\in (0,1)\mid f(x) > 0\}$,
$E_n=\{ x\in (0,1)\mid f(x)\ge 1/n\}$ とおくと,
$$0\le \frac{1}{n}\mu(E_n)\le \int_0^1 f(x)\;dx=0$$ より,
$\mu(E_n)=0$ となります.よって $E=\bigcup_{n=1}^\infty E_n$ より,
$\mu(E)=0$ もわかります.

これは基本的な事項ですが,証明はあまりよくはできていませんでした.

(3) 誤り.Cantor 集合を考えます.すなわち,$(0,1)$ 区間内で
3進小数展開したときに,$0,2$ だけしか現れない実数たちの集合を
$E$ とします.(3進小数展開が二通りできる数は可算個しかないので,
以下の議論に気にしなくてかまいません.) これらは,$0,2$ を
可算個並べてできる数たちなので,連続濃度だけあります.しかし,
Lebesgue 測度を考えると,$(0,1)$ 区間から,真ん中の長さ $1/3$ 
の区間を抜いて,次に残りの長さ $1/3$ の $2$区間から,それぞれ
その真ん中の長さ $1/3^2$ の区間を抜いて,さらに,
残りの長さ $1/3^2$ の $4$区間から,それぞれ
その真ん中の長さ $1/3^3$ の区間を抜いて・・・と続けていけば
$E$ との違いはたかだか可算集合です.この集合 $E$ は可測で,
その測度は $2^n/3^n$ で抑えられるので,結局 0 となります.

(4) 誤り.$\chi_{(0,\infty)}-\chi_{(-\infty,0)}$ を考えれば
簡単な反例になります.$(\sin x)/x$ でもできますが,極限の
存在がそれほど自明ではなくなります.

\bye