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\centerline{2005年度解析学VII・関数解析学期末テスト・略解・解説}
\rightline{2005年10月3日}
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室(電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

配点は,[1] 10点$\times 5$, [2] 25点,[3] 25点,[4] 25点,[5] 25点の
150点満点です.
[0] 番は,正しく書いてあって 0点,間違ってているものは $-30$ 点です.
最高点は 125点(1人),平均点は45.2点,その得点の
分布は次のとおりです.

$$\vbox{\offinterlineskip
\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit
&& \omit &&\omit &&\omit
&\cr}
\def\t{\noalign{\hrule}}
\def\h{\hfil}

\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
\t\vsp
& 0--49 (点) && 50--59 && 60--69
&& 70--79  && 80--89 && 90--99 && 100-- & \cr
\vsp\t
& 13  (人) && 1 && 2 && 1 && 2 && 1  && 2 & \cr
\vsp\t
}}$$

成績は,80点以上をA, 50〜79点をB, 25〜49点をC, 24点以下を
D としました.

\bigskip [1] 例はもちろんたくさんありますが,
ここでは簡単な例をあげておきます.

(1) $f(x,y)$ を台が半径1の円板に含まれる連続関数で,
恒等的には0でないものとします.$f_n(x,y)=f(x-n,y)$ とおけば大丈夫
です.証明には,台が有界な連続関数たちが $L^2({\bold R}^2)$ で
稠密であることを使うか,Fourier 変換を使うかすればできます.
最初から,$f$ は $0$ でない $L^2({\bold R}^2)$ の元としても大丈夫です.

(2) $f_n=n\chi_{(n,n+1)}$ とすればO.K.です.ここで $\chi$ は特性
関数を表します.

(3) $H=\ell^2$ 上で,
$$T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(x_1,x_2/2,x_3/3,x_4/4,\dots)$$ とすればO.K.です.

(4) $H=\ell^2$ 上で,
$$T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(x_1,0,x_2,0,x_4,0,x_6,0,x_8,0,\dots)$$
とすれば O.K.です.

(5) $H=\ell^2$ 上で,
$$T(x_1,x_2,x_3,\dots)=(x_1,0,x_2,0,x_3,0,x_4,0,x_5,0,\dots)$$
とすれば O.K.です.

\bigskip 
[2] $x$ を固定して,$y\mapsto (y, T_n x)$ という写像の族に対して
一様有界性原理を使うと,$\{\|T_n x\|\}_n$ の有界性がわかります.
今度は $x\mapsto T_n x$ という写像の族に対して
一様有界性原理を使うと定数 $C$ がとれて,$\|T_n\| < C$ とできます.
$B(x,y)=\lim_n (T_nx, y)$ とおくと,$B$ は $H$ 上の sesqui-linear
form で $|B(x,y)|\le C\|x\| \|y\|$ となるので,$H$ 上の有界線形
作用素 $T$ で,$B(x,y)=(Tx,y)$ となるものがあります.

\bigskip 
[3] (1) いくつか書き方がありますがたとえば
$$\text{ess.}\sup_x |f(x)|=
\inf \{C \ge 0\mid |f(x)| \le C \;\;\text{a.e.}\}$$ です.
(空集合の $\inf$ は $\infty$ です.)

(2) 十分性は明らかなので,必要性を示します.
Lebesgue 測度を $\mu$ と書きます.$\text{ess.}\sup_x |f(x)|=\infty$
と仮定すると,可測集合 $A_n$ で,$0 < \mu(A_n) < \infty$,
$n\neq m$ のとき $\mu(A_n \cap A_m)=0$,
各 $A_n$ 上で $n \le |f(x)|$ と
なるものが取れます.
$$g=\sum_{n=1}^\infty \frac{\chi_{A_n}}{n \mu(A_n)^{1/2}}$$
とおけば,これは $L^2({\bold R)}$ の元で,
$$\|fg\|_2^2\ge\sum_{n=1}^\infty 1=\infty$$ となるので $fg$ は
$L^2({\bold R)}$ の元ではありません.

(3) 有界線形作用素になることと,$\|T\|\le \text{ess.}\sup_x |f(x)|$
は明らかです.任意の正の $\varepsilon $ に対し,
$$A_\varepsilon=
\{x\mid |f(x)| \ge \text{ess.}\sup_x |f(x)|-\varepsilon\}$$ の
測度が正なので,その可測部分集合 $B_\varepsilon$ で,
$0 < \mu(B_\varepsilon) < \infty$ となるものが取れます.
$g \in L^2({\bold R)}$ として $\chi_{B_\varepsilon}$ を取ることにより
$\|T\|\ge\text{ess.}\sup_x |f(x)|-\varepsilon$ がわかり,
$\varepsilon$ が任意であったことより,
$\|T\|=\text{ess.}\sup_x |f(x)|$ がわかります.

\bigskip 
[4] $L^p({\bold R})^*=L^q({\bold R})$ の同一視より,必要性は明らかです.
十分性の対偶を示すため,$\{f_n\}_n$ の
有限線形結合たちの $L^p({\bold R})$ における閉包を $X$ とし,これが
$L^p({\bold R})$ 全体には等しくないとします.
すると,Hahn-Banach の定理より $X$ 上では 0 だが,$L^p({\bold R})$
全体では0に等しくない,$L^p({\bold R})^*$ の元が得られます.
上の同一視より,これは $\bigcap_n K_{f_n}$ に 0 でない元が入っている
ことを意味します.

\bigskip 
[5] $g\in L^2({\bold R})$ を任意に取って $g_n(x)=g(x-n)$ とおくと,
$\{g_n\}_n$ は $L^2({\bold R})$ において 0 に弱収束しています.
よって $T$ がコンパクトならば, $\|T g_n\|\to 0$ とならなくては
いけませんが, $\|T g_n\|=\|f*g\|$ なので $f*g=0$ が任意の
$g$ について成り立たなくてはなりません.これは $f=0$ を導きます.
(たとえば Fourier 変換すればすぐにわかります.) $f=0$ のとき,
$T=0$でこれがコンパクトであることは自明なので,答えは $f=0$ です.

最初から Fourier 変換して,「有界連続関数 $F$ による $L^2({\bold R})$
上の掛け算作用素がコンパクトになるのは $F=0$ の時に限る」ことを
示してもできます.

\bye