趣旨: |
リー群・リー環・等質空間に関する入門講義
リー群の構造,リー群の作用や表現論に関する基礎的な概念を解説する. |
内容: |
- リー群のいろいろな例
- リー群とリー環の対応
- リー環の構造
- リー群の作用
- 等質空間
- 古典群
- リー群の表現論入門
について,初歩的なことを解説する.
時間が許せば,
- 簡約リー群の構造
- 複素化とワイルのユニタリ・トリック
- 局所等質空間の幾何
の中からトピックを選んで紹介する. |
成績評価: |
講義中に課題を出し,レポートで成績評価を行う. |
参考書: |
小林俊行・大島利雄 『リー群と表現論』 岩波書店 2005
その他,必要に応じて授業中に挙げる. |
全13回のレジュメ
第1章 | 位相群とリー群 |
§1.1 | 位相群 |
§1.2 | リー群の例 |
第2章 | Exponential map |
§2.1 | M(n,K)のノルム |
§2.2 | 正則関数と作用素 |
§2.3 | expの一次と二次の無限小評価 |
§2.4 | 指数写像の基本的性質 |
第3章 | リー群とリー環の対応 |
§3.1 | 閉部分群の "リー環" |
§3.2 | リー環の定義 |
§3.3 | von Neumannの定理 |
第4章 | 等質空間 |
§4.1 | 位相群とその等質空間 |
§4.2 | リー群の等質空間における実解析構造 |
§4.3 | 等質空間の例 |
第5章 | 簡約リー群の構造 |
§5.1 | 指数写像の微分 |
§5.2 | 簡約リー群のCartan分解 |
§5.3 | 有界対称領域 |
§5.4 | 最短距離の方法 |
第1回(2008年10月7日(火))
第1章 | 位相群とリー群 |
§1.1 | 位相群 |
・ | 位相群の定義 |
・ | リー群の定義 |
§1.2 | リー群の例 |
・ | 実数体 |
・ | 実ベクトル空間 |
・ | 複素数体の乗法群 |
・ | 四元数体の乗法群 |
・ | 四元数体のノルム1の元のなす群=3次元球面 |
・ | 複素数体のノルム1の元のなす群=1次元球面 |
・ | 一般線型群 |
・ | 直交群 |
・ | 特殊線型群 |
・ | 不定値直交群 |
まとめ:
最初に位相群を導入し、多様体構造を持つ位相群としてリー群の定義を与えた(その際、位相多様体、可微分多様体、実解析的多様体のどれで定義しても同一の概念になることに触れた)。
リー群の例として、ベクトル空間、複素数体と四元数体の乗法群、その部分群として1次元球面と3次元球面を挙げた。また、行列からなるリー群として一般線型群を定義し、von Neumann-Cartanの定理を用いると、特殊線型群、直交群、不定値直交群などが、リー群になることを述べた。
第2回(2008年10月14日(火))
第2章 | Exponential map |
§2.1 | M(n,K)のノルム |
・ | 作用素ノルムの定義と性質 |
§2.2 | 正則関数と作用素 |
・ | M(n,K)における冪級数と収束半径 |
・ | exp,logの定義と性質 |
§2.3 | expの一次と二次の無限小評価 |
・ | exp(tX),exp(tY)の積の表示 |
まとめ:
M(n,K)における冪級数とその収束半径を調べておいて、収束冪級数としてexpやlogを定義した。
expの性質として、A=0の付近ではlogが逆関数になっていることを示し、exp(tX)とexp(tY) (X,YはM(n,K)の元) の積に関する二次までの無限小評価を行った。
第3回(2008年10月21日(火))
§2.4 | 指数写像の基本的性質 |
・ | expの基本的な計算法則 |
・ | expの値は正則行列になる事 |
・ | exp:M(n,K) -> GL(n,K)は一般に単射でない事 |
・ | exp:Symm(n,R) -> Symm(n,R)_{>0}(exp:Herm(n,C) -> Herm(n,C)_{>0})
が同相である事 |
・ | GL(n,R) = O(n)×Symm(n,R)、GL(n,C) = U(n)×Herm(n,C)
(同相の意味で) |
まとめ:
まずM(n,K)∋XならばGL(n,K)∋expX となることを示し、expの大域的性質として、一般には単射性や全射性が崩れることを見た。
exp:Symm(n,R) -> Symm(n,R)_{>0}、exp:Herm(n,C) -> Herm(n,C)_{>0}
(ただしSymm(n,R)_{>0}はSymm(n,R)の元で固有値が全て正の実数であるものの集合とする。Herm(n,C)_{>0}も同様)が同相であることを示し、それを利用して
GL(n,R) = O(n)×Symm(n,R)、GL(n,C) = U(n)×Herm(n,C)
を示した。
第4回(2008年10月28日(火))
第3章 | リー群とリー環の対応 |
§3.1 | 閉部分群の "リー環" |
・ | GL(n,R)の閉部分群に対するリー環の定義と性質
|
§3.2 | リー環の定義 |
・ | 抽象的なリー環の定義 |
§3.3 | von Neumannの定理 |
・ | von Neumannの定理の証明の筋道 |
目的:
GL(n,R)の閉部分群Gに対して
- Gの "リー環" を定義し
- Gはリー群であること(von Neumannの定理)を示す
まとめ:
指数写像を用いて、GL(n,R)の閉部分群に対してその``リー環''を定義し、それが抽象的に定義されるリー環になっている事を示した。
von Neumannの定理「GL(n,R)の閉部分群Gにはリー群の構造が入る」の証明の筋道を述べた(詳しくは次回に持ち越し)。
第5回(2008年11月11日(火))
§3.3 | von Neumannの定理 |
・ | 指数写像の微分に関する性質 |
・ | von Neumannの定理の証明(前回のつづき) |
まとめ:
exp:M(n,R) -> GL(n,R)の0行列における微分を調べることにより、この写像が0行列の周りで同相を与えることを示した。
更にGL(n,R)の閉部分群Gに対して、そのリー環からの指数写像が単位元の周りの座標を与えることを示し、その左移動によってGに座標を定義すれば、Gが実解析的多様体であり、リー群になっていることを示した(von Neumannの定理)。
第6回(2008年11月18日(火))
第4章 | 等質空間 |
§4.1 | 位相群とその等質空間 |
・ | 位相群の基本的な性質 |
・ | 一般の位相群に対する等質空間の定義 |
・ | 位相群Gと閉部分群Hに対して、等質空間G/HがHausdorffであること |
§4.2 | リー群の等質空間における実解析構造
|
・ | リー群に対して、指数写像を用いて等質空間に座標を与える |
目的:
前半:位相群を閉部分群で割ると、Hausdorff空間になること
後半:特に線型リー群(線型はとりあえずの仮定)の構造があれば、
商空間には実解析的多様体の構造が入る
まとめ:
一般に位相群Gとその閉部分群Hに対して、等質空間G/HはHausdorffになることを示した。
GをGL(n,R)の閉部分群、HをGの閉部分群としたとき、Gに定義された指数写像による座標(von Neumannの定理)を、G,Hのリー環に合わせてうまく制限すると、G/Hの座標になることを途中まで示した。
第7回(2008年11月25日(火))
§4.2 | リー群の等質空間における実解析構造 |
・ | リー群の等質空間は、自然に実解析多様体の構造を持つこと(前回のつづき) |
§4.3 | 等質空間の例 |
・ | 位相群(リー群)Gが位相空間(可微分多様体)Xに推移的に作用するとき、
XはGの等質空間として書けること |
・ | SL(2,C)/SL(2,R)=S^2の円周全体 |
目的:
等質空間に実解析的構造が入る事の証明を完成させる
まとめ:
前回の証明を完成させてG/Hに座標を与え、それが自然な多様体構造を与えていることを示した。
空間XにGが推移的に作用するなら、等質空間として書けることを述べて、例として「S^2の円周全体 = SL(2,C)/SL(2,R)」となることをみた。
第8回(2008年12月2日(火))
§4.3 | 等質空間の例 |
・ | リー群Gが位相空間Xに作用するとき、各軌道は等質空間である |
・ | SO(n)/SO(n-1)=S^{n-1} |
・ | O(n)/O(n-1)=S^{n-1} |
・ | S^{n-1}は他にも、GL(n,R),O(n,1),U(n/2)(nが偶数のとき)の等質空間でもある |
・ | S^{p,q}(c)={x \in R^{p+q} | x_1^2+...+x_p^2-x_{p+1}^2-...-x_{p+q}^2=c}は、O(p,q)の等質空間として書ける |
まとめ:
直交群や特殊直交群の球面への自然な作用は作用は推移的であり、従って球面は、それらの等質空間として書ける。一般線型群も球面に推移的に作用させることができ、球面は一般線型群の等質空間としても書けるが、考えている球面の構造によって、どの群作用が自然かは異なる。
また不定値直交群はR^{p+q}に自然に作用するが、
x_1^2+・・x_p^2-x_{p+1}^2-・・-x_{p+q}^2=c (c \in R)
を考えれば、それが軌道分解を与えていて、各軌道がO(p,q)の等質空間として書けることをみた。
第9回(2008年12月9日(火))
第5章 | 簡約リー群の構造 |
§5.1 | 指数写像の微分 |
・ | exp:M(n,R) -> GL(n,R)の微分を計算する事によって、どの点で正則かを調べる |
・ | exp:Symm(n,R) -> Symm(n,R)_{>0}が実解析微分同相であること |
・ | O(n)×Symm(n,R) -> GL(n,R)が実解析微分同相であること |
目的:
O(n)×Symm(n,R) -> GL(n,R) , (k,x) -> ke^X
U(n)×Harm(n,R) -> GL(n,C) , (k,x) -> ke^X
が実解析的微分同相であることの証明
まとめ:
exp:M(n,R)->GL(n,R)の微分を計算する事により、
「ad(X)が対角化可能で固有値が2πim(m \in Z-{0})の形をしてないとき、expはXでrgular」
であることを証明し、系としてexp:Symm(n,R) -> Symm(n,R)_{>0}が実解析微分同相である事、さらにO(n)×Symm(n,R) -> GL(n,R)が実解析的微分同相であることが分かった。
第10回(2009年1月13日(火))
§5.2 | 簡約リー群のCartan分解 |
・ | GL(n,R)の閉部分群が簡約であることの定義 |
・ | 複素の場合での定義と、実簡約リー群としての解釈 |
・ | (Cartan分解)
K × p -> G, (k,X) -> k・expX
が実解析的微分同相 |
・ | Kは極大コンパクト部分群で、GとKはホモトープ |
・ | G/Kはユークリッド空間と同相 |
§5.3 | 有界対称領域 |
・ | G/Kに自然な(G作用が双正則になるように)複素構造が入る場合がある |
・ | 典型例としてG=U(p,q)の場合 |
まとめ:
GL(n,R)のCartan分解を元に、GL(n,R)の簡約リー群に対しても、Cartan分解を作ることができる。
簡約リー群Gの極大コンパクト部分群Kに対してG/Kに自然な複素構造が入ることがあるが、L(G)∩Symm(n,R)に入る自然な複素構造からexpで誘導されるものを考えてもだめな場合がある。
第11回(2009年1月20日(火))
§5.3 | 有界対称領域 |
・ | G=U(p,q),G_C=GL(n,C),K=U(p)×U(q),K_C=GL(p,C)×GL(q,C)としたとき、
自然に定義されるψ:U_+×K_C×U_- -> G_C は、単射であり、像はopenかつdense |
・ | 複素多様体Ω:={X \in M(p,q,C):I_q-X^*X>>0}には
G=U(q,p)が自然に推移的に作用し(一次分数変換の一般化)、その固定部分群はK=U(p)×U(q)である |
まとめ:
G=U(p,q),K=U(p)×U(q)に対して、G/Kに自然な複素構造が入ることを見たい。
複素多様体Ω:={X \in M(p,q,C):I_q-X^*X>>0}を考えると、一次分数変換の一般化として、G=U(q,p)が自然に推移的に作用し、その固定部分群はK=U(p)×U(q)である。従って、G/K=Ωとして自然な複素構造が入る。
第12回(2009年1月27日(火))
§5.3 | 有界対称領域 |
・ | U(p,q)がΩ:={X \in M(p,q;C) | i_q-X^*X>>0}に推移的に作用していることの証明の続き |
・ | 作用の推移性を証明する際に、極大コンパクト群の作用で対角化できることを使った |
§5.4 | 最短距離の方法 |
・ | 線型簡約リー環の\mathfrak{p}の極大可換部分空間\mathfrak{a}と、そのルート系の定義 |
まとめ:
作用の軌道を考えるときに、あらかじめ小さな部分群の作用で簡単な元に移せることが分かれば、とても調べやすい。実際、有界対称領域や、不定値対称群の作用を調べるときにこの方法を用いた。
次回この考え方を一般化する。
第13回(2009年2月3日(火))
§5.4 | 最短距離の方法 |
・ | リー環の可換部分空間に対するルートの定義と性質 |
・ | リー環の部分空間\mathfrak{p}の極大可換部分空間の性質 |
・ | 簡約リー群において、Ad(k)\mathfrak{a}=\mathfrak{p}であること |
・ | その応用 |
まとめ:
簡約リー群において、G=K・exp(\mathfrak{p}) (Cartan分解)であるが、\mathfrak{p}の極大可換部分空間\mathfrak{a}を考えると、\mathfrak{p}=Ad(K)・\mathfrak{a}と書ける。
これをGL(n,R)やO(p,q)などに適用すると
『対称行列は直交行列で対角化可能』
『p×q行列は適当な直交行列を右と左から掛けて対角化する事ができる』
などの事が示せる。
© Toshiyuki Kobayashi