「対称性の数学」
全学共通科目講義「現代の数学と数理解析 — 基礎概念とその諸科学への広がり」,京都大学数理解析研究所
野山に咲く花や,京都に古くからある建物など,我々が美しいと感じるものの背後には「対称性」が潜んでいたり,あるいは逆に,「対称性がくずれている」ことによってほっとするような落ち着きを感じることもあるでしょう.そもそも対称性とはなんでしょうか?
「球面が丸い」とか「直線はまっすぐである」など,漠然と認識していることをどうしたら数学的にきちんと説明できるでしょうか?
こういった対称性を理解する一つの方法は「動かしてみる」ことです.「球を回転させる」とか「直線を平行移動する」ことによって,球面や直線の対称性を理解するわけです.
動かしているのに不動である,あるいは,動いているつもりでもお釈迦様の手のひらを駆け回る孫悟空のように外に飛び出ない,といった性質に着目することによって
などさまざまな対称性を数学的にとらえることができます.
- タイル張りなどに見られる離散的な対称性(不連続群),
- 曲がった空間における連続な対称性(リー群),
- 無限次元の空間における対称性(表現論・調和解析)
この考え方をおしすすめると「群による作用」という概念になります.これは,「動かす⇔対称性」を理解する鍵であり,現代数学や数理物理において欠かすことのできない基礎概念になっています.
この講義では,数学における抽象的な対称性の雰囲気を伝え,時間があればこの分野の未解決問題にも触れたいと思います.
参考書:
- 小林俊行・大島利雄著『リー群と表現論』岩波書店,2005
- Enguist-Schmid編『数学の最先端・21世紀への挑戦』第1巻,シュプリンガー
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© Toshiyuki Kobayashi