Japan. J. Math. 16, 1--48 (2021)

情報幾何学

甘利俊一

Abstract:
情報幾何学は確率分布族のなす空間の不変構造の研究から生まれた.不変性の要請から,確率分布族のなす多様体において2階の対称テンソル$g$と3階の対称テンソル$T$が一意的に決定される.さらに,この2つのテンソル$(g,T)$によって,リーマン計量とこれを保存する双対アファイン接続が定まる.従って,情報幾何は双対接続を持つリーマン多様体の研究ということができる.このような構造は,非対称な発散函数やアファイン微分幾何学からも派生する.双対平坦なリーマン多様体では,ピタゴラスの定理の一般化や射影定理が成立し,応用面でさまざまな有用な結果を導くことを示す.一方で,ワッサースタイン計量は確率分布族のなす多様体において,不変ではないもののサンプル空間の計量の性質を反映する,別の重要な幾何学を提供する.この論文では,エントロピーによる統制を行ったワッサースタイン計量を扱い,ワッサースタイン幾何と情報幾何学の関係を明らかにするための努力の一端を示す.