|
形状の変動を数学的に解明するには、いわゆる「特異構造」がどのようにして形成されていくかを把握することが重要な鍵になります。特異構造の例として、ちぎれる液滴や、結晶表面に現れる衝突する渦、また結晶の強い異方性を反映したファセットと呼ばれる平らな面などが挙げられます。それらがどのように形成され変化し消滅するかを、現象を記述する非線形偏微分方程式を考察することにより解明していくことが、本研究の形態変動解析の目的です。
特異構造を含む場合、接線や曲率を古典的な意味で定義できないことが多いので、偏微分方程式の古典解だけを用いるのでは不十分です。このため解概念の拡張が必要になります。
幸い、この30年間の非線形解析学の進展により、必ずしも滑らかでない図形の変動を、偏微分方程式の解と捉える方法による成功例が蓄積されてきました。例えば、平均曲率流方程式に対して、等高面法を構築することで、動く曲面がちぎれて特異点が発生した後も、その追跡が可能になりました。また、変分法的な捉え方も明らかになってきました。これらは我々の典型的な成功例の一つです。
本研究では、特異構造が支配する非線形性の強い拡散型方程式に対して、微分可能とは限らない解「弱解」の概念を導入し、問題の数学的適切性や、解の特性を調べ、形態の変動を解析します。方程式自体に特異点があるような全変動流方程式や、クリスタライン平均曲率流方程式までも研究対象とします。また高次元や高階方程式の問題にも取り組みます。諸モデル間の関係を明らかにするとともに、結晶成長分野、画像処理分野、流体力学分野等への応用を目指します。このために、最先端の粘性解析、変分解析、関数解析、漸近解析、実解析をさらに深化させます。
|
|
・Y. Giga, Surface evolution equations: A level set approach. Monographs in Mathematics, 99. Birkhäuser Verlag, Basel (2006), xii+264 pp.
・M.-H. Giga, Y. Giga and J. Saal, Nonlinear partial differential equations: Asymptotic behavior of solutions and self-similar solutions. Progress in Nonlinear Differential Equations and their Applications, 79. Birkhäuser Verlag, Boston (2010), xviii+294 pp.
|