可換環と幾何学

Shane Kelly
2020年7月

可換環と幾何学

可換環の重要なクラスは幾何学からくる. 特に, 代数多様体の代数的な関数の環が重要なクラスである.

$f_1, \dots, f_c \in \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d]$を多項式とする. $f_1, \dots, f_c$で定義される代数多様体とは $\mathbb{C}^d$の部分集合 $$ V(f_1, \dots, f_c) = \left \{ (a_1, \dots, a_d) \in \mathbb{C} \,\middle\vert\, \begin{array}{c} f_1(a_1, \dots, a_d) = 0 \\ \vdots \\ f_c(a_1, \dots, a_d) = 0 \end{array} \right \} $$ である.
  1. $\mathbb{C}^d$
  2. $GL_n(\mathbb{C}), O_n(\mathbb{C}), Sp_{2n}(\mathbb{C}), \dots$
  3. $\mathbb{C} \setminus \{0\}$
  4. 楕円曲線
  5. $\dots$
Elliptic curve

代数多様体から誘導される可換環は以下の通りである.

$\mathbb{C}^n $ の点と $ \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] $ のイデアルを混同しないために, 点 $ (a_1, \dots, a_n) \in \mathbb{C}^n $ を書くとき丸カッコを使って, イデアル $ \langle f_1, \dots, f_n \rangle \subseteq \mathbb{C}[x_1, \dots, x_n] $ を書くとき山括弧を使う.

$f_1, \dots, f_c \in \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] $ とする. 多様体 $ V = V(f_1, \dots, f_c) $ の座標環とは $$ \mathcal{O}(V) = \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] / \langle f_1, \dots, f_c \rangle $$ のことである.

$\mathcal{O}(V) $ を関数 $ V \to \mathbb{C} $ 全体の集合のなす可換環の部分環とみなせることに注目する. 実際, 多様体の点を環からすべて復元できる.

(ヒルベルトの零点定理) $f_1, \dots, f_c \in \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] $ を多項式とし, $V = V(f_1, \dots, f_c) $ とおく. この時, \[ \biggl \{ \mathcal{O}(V) \textrm{ の極大イデアル} \biggr \} \overset{\textrm{対応}}{\Leftrightarrow} \biggl \{ V \textrm{ の点 } \biggr \}. \] 対応を具体的に表せば, \[ \mathcal{O}(V) \supset \langle x_1{-}a_1, \dots, x_d{-}a_d \rangle \leftrightarrow (a_1, \dots, a_d) \in V \]

この対応で点をすべて復元できるだけでなく, 幾何学的な情報も復元できる.

Curves
既約でない多様体
多様体 $ V $ が既約とは, それが $ V $ の2つの空でない真の閉部多様体 $V_1, V_2$ の和として書けないことを言う. 環のイデアル $I$ が根基イデアルとは, $a^n \in I \implies a \in I $ が成り立つことである.

$f_1, \dots, f_c \in \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] $ を多項式とし, $ V = V(f_1, \dots, f_c) $ とおく. \begin{align*} \biggl \{ \mathcal{O}(V) \textrm{ の素イデアル} \biggr \} &\overset{\textrm{対応}}{\Leftrightarrow} \biggl \{ V \textrm{ の既約部分多様体} \biggr \} \\ & \\ \biggl \{ \mathcal{O}(V) \textrm{ の根基イデアル} \biggr \} &\overset{\textrm{対応}}{\Leftrightarrow} \biggl \{ V \textrm{ の部分多様体} \biggr \} \\ & \\ I &\rightarrow \{ a \in V\ |\ f(a) = 0\ \forall\ f \in I \} \\ & \\ \{f \in \mathcal{O}(V)\ |\ f(a) = 0\ \forall\ a \in V' \} &\leftarrow V' \\ & \\ r(I + J) &\leftrightarrow V(I) \cap V(J) \\ & \\ I \cap J &\leftrightarrow V(I) \cup V(J) \end{align*} ここで, $$V(I) = \{ (a_1, \dots, a_d) \in \mathbb{C} \ |\ f(a_1, \dots, a_d) = 0\ \forall\ f \in I \}$$ および $$r(I) = \{ a \in \mathcal{O}(V)\ |\ a^n \in I\ \exists n > 0 \}.$$

素イデアル

スキーム論では, 可換環 $ R $ から位相空間 $ Spec(R) $ を作る. 上記の対応をみれば, $ Spec(R) $ の点として極大イデアルを使えば良さそうに見える. しかし, 実際には, $ Spec(R) $ の点は素イデアル全体の集合である. なぜ?

数論の視点から, ディオファントス方程式($x^n + y^n = z^n $ 等)の整数の解を見つけるためには, 任意の体($\mathbb{Z} / p\mathbb{Z}, \mathbb{Q}, \mathbb{Q}_p, \overline{\mathbb{Q}}, \dots $ 等)における解を考えるのが便利であり, 面白い. 一般に環 $ R $ の素イデアルは体への準同型 $ R \to F $ の同値類が対応する($\phi_1: R \to F_1$, $\phi_2: R \to F_2 $ が同値であるとは $\iota_1\phi_1 = \iota_2 \phi_2 $ をみたす体への準同型 $ \iota_1: F_1 \subseteq F_3$, $\iota_2: F_2 \subseteq F_3 $ が存在する). つまり素イデアルは多様体 $ V $ 定義する方程式 $f_1, \dots, f_c$ の「ある」体における解に対応する. (具体的には素イデアル $\mathfrak{p} \subseteq R = \mathbb{Z}[x_1, \dots, x_d] / \langle f_1, \dots, f_c \rangle$ は剰余体 $\phi: R \to R_\mathfrak{p} / \mathfrak{p} R_\mathfrak{p} = k(\mathfrak{p})$ における解 $(\phi(x_1), \dots, \phi(x_d)) \in k(\mathfrak{p})^d$ が対応する).

素イデアルは, 幾何学の視点からは, 「一般な点」の役割を演じている. 代数多様体の上のほとんどすべての点がみたす性質がある時, 古典的には「生成点」がこの性質をみたすという.

例えば, 2×2型の行列全体の集合として $\mathbb{C}^4$ を考えることができる. 行列が可逆であることと行列式が可逆であることが同値である. 同等に, 行列 $[^{a_1}_{a_2}\ ^{a_3}_{a_4}]$ が可逆であることと関数 $x_1x_4{-}x_2x_3$$\in \mathbb{C}[x_1, x_2, x_3, x_4]$ が行列 $[^{a_1}_{a_2}\ ^{a_3}_{a_4}]$ を対する極大イデアル $\langle x_1{-}a_1, x_2{-}a_2, x_3{-}a_3, x_4{-}a_4 \rangle$ の剰余体 $\mathbb{C} \cong \mathbb{C}[x_1, x_2, x_3, x_4] / \langle x_1{-}a_1, x_2{-}a_2, x_3{-}a_3, x_4{-}a_4 \rangle$ において可逆になることは同値である. 多様体 $\mathbb{C}^4$ の生成点は可換環 $ \mathbb{C}[x_1, x_2, x_3, x_4] $ の極小素イデアル $ \langle 0 \rangle $ である. ゆえに, ほとんどすべて行列が可逆であることは $x_1x_4{-}x_2x_3$ が $ \langle 0 \rangle$ の剰余体 $\mathbb{C}(x_1, x_2, x_3, x_4)$ において可逆になることとして定式化される.

局所化

工事中

ベキ零元

一般に, イデアル $I \subseteq \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d]$ に対応する代数多様体 $V(I)$ と, 根基イデアルに対応する代数多様体 $V(r(I))$ は集合として同じいである. しかし, そうはいっても, $I$ と $r(I)$ が同じ情報を含むわけではない.

ベキ零元の含む情報の一つは重複度である. $a \neq 0 \in \mathbb{C} $ をとって, 2つの点 $ \{0, a\} \in \mathbb{C} $ がなす $ \mathbb{C} $ の部分多様体 $ V(x^2-ax) $ を考えよう. この多様体のイデアルは $ \langle x^2-ax \rangle \subset \mathbb{C}[x] $ である. $a$ がゼロに収束すれば, 点 $a \in \mathbb{C}$ が点 $0 \in \mathbb{C}$ の上に移動する. 代数的にイデアル $\langle x^2\rangle$ を得る. $\langle x^2 \rangle$ に対応する代数多様体と $\langle x \rangle$ に対応する代数多様体は同じである. しかし, 商環 $\mathbb{C}[x] / \langle x^2 \rangle$ が $\dim_\mathbb{C} = 2$ をみたすことで $0$ に「2つ」の互いに重なり合った点があることがわかる.

もう一つのベキ零元の含む情報は接線方向である. 2つの部分多様体 \[ V_1 = \{(0,0), (a, 0)\} \subseteq \mathbb{C}^2 \qquad \textrm{ と } \qquad V_2 = \{(0,0), (0, a)\} \subseteq \mathbb{C}^2. \] を考えよう. この部分多様体のイデアルは \[ I_1 = \langle x(x-a), y \rangle \subseteq \mathbb{C}[x, y] \qquad \textrm{ と } \qquad I_2 = \langle x, y(y-a)\rangle \subseteq \mathbb{C}[x, y] \] である. 今, 上のように, $a$ がゼロに収束すれば, どちらの場合でも部分多様体 $\{(0,0)\} \subseteq \mathbb{C}^2$ を得るが, 2つのイデアル \[ \langle x^2, y \rangle \qquad \textrm{ と } \qquad \langle x, y^2 \rangle \] は異なる. 2番目の点の到着方向を覚えている.

接線方向の情報を見るもう一つの方法を以下に示す. 2つの関数 $f, g \in \mathbb{C}[x, y]$ が $\mathbb{C}[x, y]/\langle x, y \rangle$ の元として等しいのことと $(0,0)$ でこれらの値 $f(0,0), g(0,0)$ が等しいことは同値である. 一方, それらが $\mathbb{C}[x, y]/\langle x^2, y \rangle$ の元として等しいことと $(0,0)$ でこれらの値 $f(0,0), g(0,0)$ が等しくかつそれらの $x$ に関する偏微分 $(\partial_x f)(0,0), (\partial_x g)(0,0)$ が等しいことは同値である. 他の $ \langle x, y\rangle $ ベキ零近傍, 例えば $ \langle x^5, x^2y, y^7\rangle$, が他の接線方向の組み合わせの情報を含む.

より一般に, $V$ が滑らかな多様体で, $Z \subseteq V$が滑らかな部分多様体であれば, $\mathcal{O}(Z)$-加群 $ I(Z) / I(Z)^2 $ から誘導されたベクトル束(下を見る)と法線束は標準的に同一視される. つまり, 被約でない環 $\mathcal{O}(V) / I(Z)^2 $ は $ Z $ の情報および法線方向の情報を含む.

準素分解

Moving Point

重複度の視点から準素分解がわかる. イデアル $\langle x^2-ax, xy \rangle$ に対する $\mathbb{C}^2$ の部分多様体を考えよう. これは $a\neq 0$ のとき, $y$ 軸 $\{(0, b)\ |\ b \in \mathbb{C}\} $ と $ x $ 軸の点 $ (a, 0) $ の合併である. $ a $ がゼロに収束すれば, イデアル $\langle x^2, xy \rangle$ を得る. このイデアルは準素分解 $\langle x^2, y \rangle \cap \langle x \rangle$ をもつ. 準素イデアル $\langle x^2, y\rangle$ は $y$ 軸に加わる余分の点を表示する. $\langle x^2, y\rangle$ の代わりに任意の $c \in \mathbb{C}$ のイデアル $\langle x^2, xy, y-cx \rangle$ を使うこともできた. それらのイデアルを余分の点が $x$ 軸の代わりに直線 $y = cx$ に沿って進むときに生じる. ゆえに, 大きな幾何学的な形 $V(\langle x \rangle)$ が小さいな幾何学な形 $V(\langle x^2, xy, y-cx \rangle)$ の情報を隠すことは準素分解の非一意性の説明となる.

Diagonal Point

加群

環 $ R $ の剰余体全体の集合 $ \{ \kappa(\mathfrak{p}) := R_\mathfrak{p}/\mathfrak{p} R_\mathfrak{p}\ |\ \mathfrak{p} \subseteq R $ 素イデアル $ \} $ を幾何学な方法で集めた構造として $ Spec(R) $ を考えれば, $R$-加群 $M$ はベクトル空間を連続的に集めたものとして考えられる.

具体的には任意の $ \mathfrak{p} \in Spec(R) $ から $ k(\mathfrak{p})$-ベクトル空間 $ k(\mathfrak{p}) \otimes_R M $ を得る.

より具体的に $ R $ をアフィン多様体 $ V \subseteq \mathbb{C}^d $ の環 $ \mathbb{C}[x_1, \dots, x_d] / \langle f_1, \dots, f_c \rangle $ として, $ M $ をランク$r$の射影$R$-加群とする. 多様体$E$と, 次の性質をみたす写像 $\pi: E \to V$ を作ることができる.

  1. 任意の点$v \in V$にの逆像 $\pi^{-1}(v) \subseteq E$が$\mathbb{C}^r$に同型となり,
  2. $M \cong \{ \sigma: V \to E\ |\ \pi(\sigma(v)) = v\ \forall\ v \in V \}$
このような $E \to V$ はベクトル束と呼ばれ, 自然に現れる. 例えば, $Z \subseteq V$が滑らかな多様体の滑らかな部分多様体であれば, 接束と法線束はベクトル束になる.

Vector Bundle
2次元ベクトル束

深さ

工事中

冪等元

工事中

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