鳥海光弘 氏 (東京大学・大学院新領域創成科学研究科)

内容:
地球科学における興味ある現象2題‐巨大固液混合体はどのように振舞うか。
最近の固体地球科学の大きな関心はプレート境界付近における固体・流体混合物質の挙動と境界型地震破壊やすべり運動、火山活動などとの関係である。プレート境界は地球上でもっとも活動的な部分であり、地球表層部分と地球内部とのエネルギー交換や物質交換が最も多く行われる部分でもある。とくに日本海溝や伊豆マリアナ海溝、南海トラフ、琉球海溝などの沈み込み境界部付近の地震波探査、電磁気探査、ボーリング掘削、などの研究がんたくさんの新しい事実を描き出している。
今回興味ある話として紹介するのは、プレート沈み込み境界では、海溝底で堆積した砂泥層が海洋プレートに乗ってプレート境界に引きずり込まれ、排水する過程で砂と泥に分離し、巨大な砂の塊が泥の層の中に分散する現象である。この現象の数理は砂が水を保持して流動化する過程と、プレート境界に持ち込まれた含水地質体が長期にわたりせん断変形を受ける過程で、砂の部分が次第に雪だるま状に衝突・合体する過程で示され、歪により巨大化する砂の塊は数キロに達することもありえる。こうして出来るプレート境界の構造は、大きさ分布がべき的になる砂の塊が境界に沿って拡がった泥の層内にクラスター上に分布するパターンを形成するだう。こうした構造形成はプレート境界部の力学特性を決めているだろう。
第2の話題はプレート境界における破壊の確率共鳴というテーマである、最近の研究ではプレート境界において発生する中小規模の地震はrepeating earthquakesまたはsimilar earthquakesとも呼ばれ、同一場所で繰り返しおこるせん断クラックである。そのサイズは0.01‐1km程度である。一方、巨大地震はこれに比べて大きく100kmx10km以上の破壊面をもつ。しかしこの巨大さにもかかわらず、やはり同一箇所が繰り返し破壊し、これをアスペリティと呼んでいる。一方、こうしたアスペリティの周囲は非アスペリティとよばれ、ゆっくりと滑っていて、流体を保持した岩石が分布し、低密度となっている。問題は大小の規模の破壊がどのような関係にあるのかという古典的なテーマである。プレート境界面上のいろいろな大きさのアスペリティが互いに重ならないであり続けているのか、もしくは互いに重なっているのかは重大である。観測的には巨大地震の破壊面は他の小さい破壊面と重なっている。つまり、境界面では、中小の多数のアスペリティが確率的に活動していて、巨大破壊の時にはそれらのアスペリティが一斉に動き出すということであろう。今回の話題提供ではこうした現象を確率共鳴として考えてみよう。