講演要旨 牛島 照夫 氏(電気通信大学 電気通信学部)

 波動方程式を時間方向は調和なものとして変数分離して得られる空間方向の偏微分問題をこの講演では帰着波動問題(Reduced Wave Problem)と呼ぶ。二次元外部帰着波動問題の数値解法の確立を目指して、表題の課題を近年研究して来た。基本解近似解法による円の外部帰着波動問題に対する誤差評価を得ることが出来、数値計算の実際を検討することが出来た。このことを主題として関連事項を含めて報告する。
 解の公式が解析学の世界では十分明晰に得られていても、その式を実際に数値計算によって精密に計算するのには実質的な困難が有ることが多い。解の表示式は無限の操作を含んでいる場合が殆んどである。この無限の操作を有限で打ち切ることから来る真の解との食い違いの処理は、打ち切り誤差にかかわることであり、計算数学の基本課題である。  現実に数値を得るためには、有限の桁数の演算を使用する。このことから来る真の解との食い違いの処理は丸め誤差にかかわることであり、計算機環境の充実と数学ソフトウェアの整備にともない、巧みな取り扱い方が着実に進展している。
 この講演で取り扱う問題は、上述したような解析表示可能・数値計算困難問題の一例である。大きな波数に対しては、計算桁数が十分でないと、理論的に保証される収束状況が、丸め誤差が支配的になって、数値実験的には観測出来なくなる。充実した多倍長計算環境で実験することによって次第に収束状況を確認することが出来、文明の利器を用いる幸を味わえる。共同研究者の千葉文浩氏の尽力でこの経験をすることが出来た。このようなお話をさせていただきたいと思っている。     リーマン幾何学で一般に現れる偏微分方程式系は共形幾何学的不変性を有する変分問題のオイラー・ラグランジュ方程式となっていることが多い(たとえば調和曲面、ヤング・ミルズ方程式、山辺方程式など)。
これらは不思議と共形幾何学のモデル空間である球面での問題解決が重要なステップになっているように見える。共形幾何学と球面を結びつける E.Cartan による共形接続空間のフレームワークでこの事情の説明を試み、ひとつの問題を提起したい。」