離散数理モデリングセミナー

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担当者 時弘哲治, ウィロックス ラルフ

2016年11月19日(土)

14:00-17:00   数理科学研究科棟(駒場) 056号室
長谷川貴之 氏 (富山高専) 14:00-15:15
数学で時間知覚を扱うことにより「時間とは何か?」という数千年来の未解決問題に攻めかかる (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
時間の感覚器官を持っていないにもかかわらず,多くの生物は時間知覚を持っている.しかも原初的な知覚の一つとしてである.その時間知覚を,「ピーク法」という動物実験で得たデータを分析した.時間知覚研究は歴史的に浅い.John Gibbon (1934~2001) は正規分布を使って,確率論的説明を試みた.その後,Peter Richard Killeen とJ. Gregor Fetterman はガンマ密度関数を使って説明を試みた(1988).また,Armand Machado はガンマ密度関数の正係数の線形和を使って説明を試みた(1997).そこで講演者は,Machado の理論でコンピュータ・シミュレーションしているうち,負係数も許容してガンマ密度関数の線形和を使うことにより,ピアソンの積率相関係数・赤池情報量規準ともにGibbon の理論に遜色なく,しかも様々な心理要因を定量評価することができるものを探り当てた([文献1]).モデル中に神経の抑制機能を取り入れ,負係数の説明とした.具体的には,レバー押しの反応を表す時間t の関数R(t) を, と適切な実数係数を使って,とおき,ピーク法のデータに当てはめた.「スカラー特性(scalar property)」と呼ばれている動物の計時行動に見られる特性を,心理学でいう「移調」として説明できた.また,スカラー特性からの微妙なズレを定量的に見ることにより,実験での時間範囲では単一の時計が発動されていたということも示すことができた.

[文献1] Takayuki Hasegawa & Shogo Sakata, A model ofmultisecond timing behavior under peak-interval pro-cedures, Journal of Computational Neuroscience, 38-2,301-313 (2015)
藤嶋浩史 氏 (キャノン) 15:45-17:00
AKNS 形式における線形散乱問題の区分的近似解法とその応用 (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
ソリトン方程式に対しては一定の条件下で逆散乱法によって厳密解を構成できるが,代数的な方法によって具体的な解を連鎖的に生成できるのは,ピュアソリトンと呼ばれる理想的な初期波形の場合に限られる.一方,物理現象を記述する偏微分方程式の立場から実験状況を鑑みると,「任意の初期波形に対して十分時間がたった後の漸近的情報」を抽出することが重要である.だが,このような無限時間経過後の情報を直接発展方程式の数値積分によって得ることは困難なことが多い.本セミナーでは実験で観測される量として最も重要な「最終的に生成されるソリトン数」に着目し,シュワルツ級の任意一次元パルスに対して,近似的に所望の量を与える枠組みを二つ与える.
非ピュアソリトンは低振幅の輻射を放出しながら最終的にソリトンの形になっていくことが知られており,初期状態として複数の非ピュアソリトンを考えた場合はそれぞれのパルスから出る輻射成分が相互に干渉を起こす.このような相互干渉は比較的短時間のダイナミクスであるが,そのことが系の漸近的状態に決定的な影響を与えることがわかった.なお,本セミナーでは例示的にKdVやNLSEが属すクラスであるAKNS形式を用いるが,その他の形式にもこれらの方法は拡張可能である.