\magnification=\magstep1
\documentstyle{amsppt}

\nopagenumbers

\centerline{1998年度全学ゼミナールの講義内容}
\medskip
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟310号室 (電話 5465-7024)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\medskip

この講義は,教養課程の1, 2年生を対象にした自由選択のコースです.
毎週月曜日の16:20〜17:50に,数理科学研究棟の122号室で行います.
講義内容はNon-standard Analysis(超準解析)と呼ばれる理論です.

無限大$\times 0$はいくつだろうか.あるいは,無限大$-$無限大では?

こういうことを考えて見たことのある人は多いと思います.また,高校で
極限を習った時,何かごまかされているように思った人も少なくないこと
でしょう.たとえば,微分を計算する時に,「$h$は0でないから」と言って
分子と分母を$h$で割っておいて,あとから$h=0$としているように
見えます.またそもそも「限りなく近づく」とはどういうことでしょうか.
高校の教科書をよく見ると,行列や三角関数の話などはかなり厳密に書いてある
のに,微分積分になると「$\cdots$であることが知られている」と言って
逃げているようなところがかなりあることにも気づきます.

数学は論理に依存する学問ですから,このような「ごまかし」の上に
理論を築いていいはずがありません.このような極限に関連した理論
を厳密に扱う一つの方法が,1年生の
数学IAの講義で扱う$\varepsilon$-$\delta$論法です.しかしこれとは
別に,もっと直接的に,無限大,無限小,
極限などを厳密に扱う理論として,Non-standard Analysis(超準解析)
というものが
20世紀後半に成立しています.この理論のもとでは,無限大や無限小が
普通の実数と同じような数学的実体として捉えられます.
このゼミではこの理論について初歩から講義
します.この講義に対する
準備としては,数学IAの最初で教えるような厳密な実数論や,
$\varepsilon$-$\delta$論法
を理解していることと,抽象数学での論理的方法に対する「慣れ」を期待します.
したがって,普通の基準で言えば主に2年生(の数学的に優秀な人)
を対象にしていますが,
普通でない1年生は歓迎します.将来,数学またはそれに密接に関連した
理論科学の研究者になりたいという人を想定して講義します.

私の専門は無限次元行列の集まりのようなものを研究する,
作用素環論と言うものですが,この理論で1983年に
Fields賞を取ったAlain Connes
の理論では,Non-standard Analysisのアイディア,テクニックが重要な
役割を果たしています.直接その理論をここで講義することはできませんが,
そういうことにつながることをやって行きたいと思います.

参考文献は,齋藤正彦「超積と超準解析」(東京図書)ですが,別に
この本を持っている必要はありません.

\bye