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\define\R{\bold R}
\define\Q{\bold Q}
\define\Z{\bold Z}
\define\e{\varepsilon}
\def\lan{\langle}
\def\ran{\rangle}

\centerline{2008年度数学I期末テスト解説}
\medskip
\rightline{2008年9月5日}
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室(電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

配点は順に,25, 30, 30, 30, 30点の145点満点です.
平均点は65.3点,最高点は100点(10人)でした.
この点数(100点で頭打ち)が赤で答案の
上に書いてあります.ただし演習の成績がよかった人で,
期末試験が悪かった場合は,プラスアルファがついています.
これはすべて,50点に少し足りないものを50点にしたケースです.
たとえば,$45+5$ とは,もともと期末試験は45点だったが,
このプラスアルファで5点ついて50点になったと言う意味です.
返却する答案はコピーがとってあります.
この点数の分布は次のとおりです.

$$\vbox{\offinterlineskip
\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit
&& \omit &&\omit &&\omit
&\cr}
\def\t{\noalign{\hrule}}
\def\h{\hfil}

\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
\t\vsp
& 0--49 (点) && 50--59 && 60--69
&& 70--79  && 80--89 && 90--99 && 100 & \cr
\vsp\t
& 15  (人) && 33 && 8 && 14 && 16 && 8  && 10 & \cr
\vsp\t
}}$$

演習の成績は7/14に説明したものでは他の先生に比べ甘すぎることが
わかりましたので,たいへんすみませんが,次のように変更します.
演習6回のうち一番悪い1回分を
除いた平均点を $x$ とします.(欠席の回は0点とします.)
$0.8x+21$ を四捨五入し,さらに100点を超えた場合は100点で頭打ち
にしたものを成績とします.ただしこれによってぎりぎり50点を割る人で
きちんと出席していた2人は50点とします.
これによって,平均点は73.4点,最高点は
100点(1人),不可なのは半分以上欠席の一人だけとなります.
こちらの点数が青で答案の
上に書いてあります.こちらについても期末試験成績に
よるプラスアルファを検討しましたが,当てはまる人は
いませんでした.この点数の分布は次のとおりです.

$$\vbox{\offinterlineskip
\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit
&& \omit &&\omit &&\omit
&\cr}
\def\t{\noalign{\hrule}}
\def\h{\hfil}

\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
\t\vsp
& 0--49 (点) && 50--59 && 60--69
&& 70--79  && 80--89 && 90--99 && 100 & \cr
\vsp\t
& 1 (人) && 9 && 26 && 33 && 30 && 5 && 1 & \cr
\vsp\t
}}$$

以下,各問の解説です.

\bigskip
[1] 答えは次のとおりです.
「ある $\varepsilon > 0$が存在して,どのような $\delta > 0$ に対しても
実数 $x,y$ で,$|x-y| < \delta$ だが $|f(x)-f(y)|\ge\varepsilon$ となる
ものが存在する.」

できはよくありませんでした.授業でも言ったとおり,これがきちんとできないと
数学の論理は何もわかりません.間違えた人は必ず,よく復習してください.

「どのような $\delta > 0$ に対しても・・・であるような
$\varepsilon > 0$が存在する」というのは,$\delta$
ごとに一つずつの $\varepsilon$ があるのか,すべての$\delta$
に共通の $\varepsilon$ があるのかよくわからないので認められません.

「ある $\varepsilon \le 0\cdots$」になっている人が何人かいましたが,
後ろについている $>0$ は $\varepsilon$ の条件なのでこは否定に
変わりません.

\bigskip
[2] $e^x$ の Taylor 展開に,$x=1/4$ を代入します.$x=1/4$ として,
ある $0<\theta<1$ に対し,
$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6}+e^{\theta x}\frac{x^4}{24}$$
となります.最初の4項の和はすぐ計算できて,
$1.28385416666\cdots$ ($6$が無限に続く)です.
最後の項は正で,その値は $2^{10}>1000$
と $e^{\theta x}<2$ によって,
$e^{\theta x}/6000<1/3000$ で上から抑えられます.よって,
$e^{1/4}$ は,$1.2838$ 以上,$1.2842$ 以下ということになり,
四捨五入した答えは $1.284$ です.(正しい値は,
$1.284025\cdots$ です.)

\bigskip
[3] 似た式を探すと,
$(1+x)^{1/2}$ の $x=0$ のまわりでの Taylor 展開は
$1+\dsize\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n-1}(2n-3)!!}{2^n n!}x^n$
となっています.(ただし,$(-1)!!=1$ とします.) これと問題の
式を比べると,偶数次の係数は合っていますが,奇数次の係数が
問題では0となっていて食い違っています.奇数次の係数を
消すには,$(1-x)^{1/2}$ と足して $2$ で割ればいいので,
$(\sqrt{1+x}+\sqrt{1-x})/2$ が答えの一つです.
(他にも無限に答えはありますが,「自然」なものはこれだけです.)

これは一人しかできていませんでした.

\bigskip
[4] $\dfrac{e^{s^2+t^2-3s-3t}}{s^2+t^2+2s+2t+3}$ を $s$ で
偏微分して,$(s,t)=(0,0)$ としたときの値を $a$ とおきます.
式の形が対称なので,同じものを $t$ で
偏微分して,$(s,t)=(0,0)$ としたときの値も $a$ です.
すると,Jacobian を計算するために必要な $2\times2$-行列
は,$\left(\matrix
1+a & a\\
-a & 1-a
\endmatrix\right)$ の形になります.この行列式を求めると
答えは $1$ です.実際は $a=-11/9$ で,すべての人がこの値を
求めていて,間違っている人も何人かいましたが,
これを計算する必要はありません.

\bigskip
[5] 1回微分すると授業でやったとおり,
$$ u'(t)\frac{\partial}{\partial x}f(u(t),v(t))+
v'(t)\frac{\partial}{\partial y}f(u(t),v(t))$$
です.これをもう1回微分すると,積の微分と,この公式を
もう一度使って,答えは
$$
\align
&u''(t)\frac{\partial}{\partial x}f(u(t),v(t))+
 v''(t)\frac{\partial}{\partial y}f(u(t),v(t))+
 (u'(t))^2\frac{\partial^2}{\partial x^2}f(u(t),v(t))\\
+& 2u'(t)v'(t)\frac{\partial^2}{\partial x\partial y}f(u(t),v(t))+
 (v'(t))^2\frac{\partial^2}{\partial y^2}f(u(t),v(t))\endalign$$
となります.

右辺のうち2項足りない人がたくさんいました.
一般論がわかりにくければ,
具体的に簡単な多項式を代入して考えてみることもできます.
たとえば,$f(x,y)=x^2y$, $u(t)=t^2$, $v(t)=2t^2$ などです.
\bye