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\centerline{2002年度全学自由研究ゼミナール「超準解析」の講義内容}
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\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室 (電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

この講義は,教養課程の1, 2年生を対象にした自由選択のコースです.
毎週水曜日の16:20〜17:50に,数理科学研究棟126号室で行います.
講義内容は Non-standard Analysis (超準解析)と呼ばれる理論です.

$1=0.999\cdots$や,$1/\infty=0$で本当にいいのだろうか? あるいは,
$\infty\times0$は?

こういうことを考えて見たことのある人は多いと思います.また,高校で
極限を習った時,何かごまかされているように思った人も少なくないこと
でしょう.たとえば,微分を計算する時に,「$h$は0でないから」と言って
分子と分母を$h$で割っておいて,あとから$h=0$としているように
見えます.またそもそも「限りなく近づく」とはどういうことでしょうか.
高校の教科書をよく見ると,行列や三角関数の話などはかなり厳密に書いてある
のに,微分積分になると「$\cdots$であることが知られている」と言って
逃げているようなところがかなりあることにも気づきます.

数学は論理に依存する学問ですから,このような「ごまかし」の上に
理論を築いていいはずがありません.このような極限に関連した理論
を厳密に扱う一つの方法が,1年生の
数学IAで扱う $\varepsilon$-$\delta$ 論法です.しかしこれとは
別に,もっと直接的に,無限大,無限小,
極限などを厳密に扱う理論として,Non-standard Analysis (超準解析)
というものが20世紀後半に成立していて,この理論のもとでは,無限大や無限小を
普通の実数と同じような数学的実体としてとらえることができ,四則演算も
自由に行えます.この講義ではこの理論について初歩から講義します.
この講義に対する予備知識としては,数学IAの最初で教えるような厳密な
実数論や,$\varepsilon$-$\delta$ 論法
を理解していることと,抽象数学での論理的方法に対する「慣れ」を期待します.
したがって,普通の基準で言えば主に2年生(の数学的に優秀な人)
を対象にしていますが,普通でない1年生は歓迎です.
同じ内容の講義を1998年度にも行いましたが,そのときは出席者の
半分以上は1年生でした.将来,数学またはそれに密接に関連した
理論科学の研究者になりたいという人を想定して講義します.

私の専門は無限次元行列の集まりのようなものを研究する,
作用素環論と言うものですが,この理論で1983年に
Fields 賞を取った Alain Connes
の理論では,Non-standard Analysis のアイディア,テクニックが重要な
役割を果たしています.直接その理論をここで講義することはできませんが,
そういうことにつながることをやって行きたいと思います.

参考文献は,齋藤正彦「超積と超準解析」(東京図書),
デービス「超準解析」(培風館)ですが,残念ながらいずれも出版社在庫切れ
です.両方とも教養の図書館にありますが,
別にこれらの本を持っている必要はまったくありません.
また,数理科学研究棟の図書館にも英語(やフランス語)の Non-standard
Analysis の本はいろいろあります.(教養の学生証でここの数理の図書館
に入れます.)

なお,私の学会出張(アメリカ,ドイツ,ルーマニア)のため,この授業は
6月12日でおしまいです.(6/19, 6/26, 7/3の3回が休講になります.)

\bye