原武史『滝山コミューン 一九七四』(講談社文庫)を読んだ.

1970年代前半の東京西部の小学校でソ連型の集団主義的な教育が行われていた実態を, その当時自ら体験した著者が最近になって描いたものである. 著者はその頃このような教育に大きな違和感を持って苦しんだが,有名私立中学に進学することによってその世界から脱出する. 親本は2007年の出版で,講談社ノンフィクション賞を受賞するなど高い評判を呼んだ本であるようだ. ネットで検索すれば,メディアの書評,一般の人の感想などが大量にヒットする. その小学校での教育の実態を生々しく描いた部分が評価されているのだろうが,私がこの本に関心を持ったのはそのせいではない. その小学校で著者の友人であった子供たちの様子が次々と出てくるのだが,その中の最も重要な一人が,当時私のよく知っていた人物だからである. (私自身はこの小学校に通っていたわけではない.)

実際,この本の中で,その人物の現在の連絡先を著者に教えたということで,私の名前が一度だけ言及されている. (講談社文庫に自分の名前が出てくるとは思わなかったので驚いた.) 確かにこの著者から数年前にこの問い合わせを受けて答えたのだが,あれは何のためだったんだろうか,と時々思っていた. 著者が私と同じ年齢で,多くの本を書いている有名な人だということは認識していたが,親本が出た際には気付かなかったところ,今年文庫版が出たのを生協で見て,これがあの時の問い合わせに関係した本だと思って買って読んだのである. 私のその友人は本書では仮名で出てくるので,読み始めたときは最初気付かなかったが,読み進めていくうちにすぐにこれが彼のことだと分かった. 本書を読んで思い出したこと,考えたことはたくさんあるがここには書かない. ただ,自分が小学生の時に経験したことについて,36年後にこのような形で活字で読むことになるとは大きな驚きであった.

2010年12月20日 河東泰之

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