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\centerline{2004年度解析学VII・関数解析学期末テスト・解答解説}
\rightline{2004年9月14日}
\rightline{河東泰之(かわひがしやすゆき)}
\rightline{数理科学研究科棟323号室(電話 5465-7078)}
\rightline{e-mail yasuyuki\@ms.u-tokyo.ac.jp}
\rightline{{\tt https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/\~{}yasuyuki/}}
\bigskip

配点は各問25点の150点満点です.
最高点は 146点(1人),平均点は63.8点,その得点の
分布は次のとおりです.

$$\vbox{\offinterlineskip
\def\vsp{height 2pt &\omit &&\omit &&\omit &&\omit
&& \omit &&\omit &&\omit
&\cr}
\def\t{\noalign{\hrule}}
\def\h{\hfil}

\halign{& \vrule # & \strut \;\;\hfil # \; \cr
\t\vsp
& 0--49 (点) && 50--59 && 60--69
&& 70--79  && 80--89 && 90--99 && 100-- & \cr
\vsp\t
& 14  (人) && 2 && 3 && 3 && 3 && 2  && 7 & \cr
\vsp\t
}}$$

成績は,80点以上をA, 65〜79点をB, 50〜64点をC, 49点以下を
D としました.(ボーダーラインの答案は1枚ずつ確認した上で
この成績に決めました.)

各問の簡単な解答と解説は次のとおりです.

\bigskip [1]
$X$ を有限次元なので,ノルムはどれでも同値です.そこで
基底 $\{e_1,\dots,e_n\}$ を取って $x\in X$ に対し,
$x=\sum_{j=1}^n c_j e_j$ と書いた上で
$\|x\|=\sum_{j=1}^n |c_j|$ であるとしてかまいません.
このとき,$K=\max_{j=1}^n \|T e_j\|$ とおけば
$\|Tx\|\le K\|x\|$ となるので $T$ は有界です.

\bigskip [2] $x=\{x_n\}_{n=1}^\infty\in \ell^1$ であれば,
十分大きい $n$ では常に $|x_n| < 1$ なのでそこでは
$|x_n|^p < |x_n|$ となり,このことより
$\sum_{n=1}^\infty |x_n|^p < \infty$ がわかります.
$\ell^1$ が和とスカラー倍で閉じていることは明らかです.

次に $x=\{x_n\}_{n=1}^\infty\in \ell^p$ に対し,
$k+1$ 番目以降を $0$ に置き換えた数列を $x^{(k)}$ とおくと
これは明らかに $\ell^1$ に入っており,また,
$\ell^p$ において,$k\to\infty$ のとき,
$x^{(k)}\to x$ です.したがって,もし,
$\ell^1$ は $\ell^p$ の閉部分空間であるとすると
$\ell^1=\ell^p$ ということになりますが,
$a_n=1/n$ という数列 $a=\{a_n\}_{n=1}^\infty$ については
$a\in \ell^p$, $a\notin \ell^1$ なのでこれは矛盾です.
したがって,$\ell^1$ は $\ell^p$ の閉部分空間ではありません.

\bigskip [3] $f_n$ が,$L^p([0,2\pi])$ において $0$ に
弱収束していることを示します.

まず $1/p+1/q=1$ となる $q$ を選びます.($p=1$ のときは $q=\infty$.)
$L^p([0,2\pi])^*$ の任意の元 $\phi$ に対して,
$g\in L^q([0,2\pi])$ が存在して,任意の$f\in L^p([0,2\pi])$ に対して
$\phi(f)=\int_0^{2\pi} f(x)g(x)\;dx$ となります.今,$[0,2\pi]$
の測度が有限なことより,$L^q([0,2\pi]) \subset L^1([0,2\pi])$
となるので $g$ に対して Riemann-Lebesgue の定理が使えて,
$n\to\infty$ のとき $\int_0^{2\pi} e^{inx} g(x)\;dx\to 0$ と
なります.これは,$f_n$ が $0$ に
弱収束していることを意味します.

\bigskip [4] Fourier 変換は,$H$ から $\ell^2({\bold Z})$ への
ユニタリ作用素を与えるので,これによって$\ell^2({\bold Z})$ の上の
話にすることができます.すると,Riemann-Lebesgue の定理より,
$f\in H$ に対し$g*g*g*f$を対応させる作用素が compact であること
がわかります.よって,$T$ は Fredholm 作用素であることがわかり,
その index は $0$ です.

\bigskip [5] 
$\{T_g f \mid f \in L^\infty({\bold R})\}$ の $L^2({\bold R})$ に
おける閉包を $K$ とおきます.

単射性は,$\{x\mid g(x)=0\}$ が測度 $0$ であることと同値であること
が簡単にわかります.これが十分条件であることをまず示します.
$g$ を 測度有限の可測集合 $A$ 上に制限して考えると,
$A_k = \{ x \in A \mid |g(x)| > 1/k\}$ とおいたとき,
$\bigcup_k A_k = A$であるとしてかまいません.(測度 $0$ の
集合は無視できるので.) このとき,
$\chi_{A_k}/g \in L^\infty$ だから,
$\chi_{A_k} \in K$ で,$\chi_{A}\in K$ となります.$\chi_{A}$ たち
の線形結合は $L^2({\bold R})$ で稠密なので,これから
$L^2({\bold R})=K$ がわかります. 

逆に,$A=\{x\mid g(x)=0\}$ としてこれが測度 $0$ でなかったとすると,
$L^2(A)$ の元はすべて,$K$ の元と直交しているので
$K$ は稠密にはなりえません.

(2) 全射になったとすると,(1)より単射でもあり,また
連続でもあるので,開写像定理から逆も連続になります.
つまり,定数 $K$ が存在して,$\|f\|_\infty \leq K \|fg\|_2$ と
なりますが,$f$ として,$\chi_{(0,1/n)}$ をとれば矛盾します.
したがって,全射になることはありません.

\bigskip [6]
(1) $\Leftrightarrow$ (2) $\Rightarrow$ (3), (4)だが,ほかの向きは
成り立たない,というのが答えです.

(1) $\Rightarrow$ (2): $\sup_n \|F_n\|_\infty=M$ とおくと,
任意の $\varepsilon > 0$ と $f\in L^2({\bold R})$ に対し,
$g\in K$, $\|f-g\|_2 < \varepsilon$ を取れば,
$N$ があって,$n > N$ のとき,$\|F_n g\|_2 < \varepsilon$
となります.このとき,$n > N$ ならば
$\|F_n f\|_2=\|F_n (f-g)\|_2+\|F_n g\|_2 < (M+1) \varepsilon$
なので結論が出ます.

(2) $\Rightarrow$ (1): $f\mapsto F_n f$ を,
$L^2({\bold R})$ から $L^2({\bold R})$ への線形写像の族と思うと,
一様有界性原理が使えて,この写像のノルムたちが一様に有界となります.
これはつまり,$\sup_n \|F_n\|_\infty < \infty$ ということです.

(2) $\Rightarrow$ (3): 自明.

(2) $\Rightarrow$ (4): Cauchy-Schwarz の不等式より明らか.

(3) から他の条件が出ないこと: $K$ として compact 台の連続関数
全体を取れば,これは確かに $L^2({\bold R})$ の稠密な部分空間です.
$F_n=n\chi_{(n, n+1)}\in L^\infty({\bold R})$ とおくと,(3) が
成り立っていますが,(1), (2), (4) のいずれも成り立ちません.
(もし,(4) が成り立っていれば一様有界性原理を2回使うことにより
$\sup_n \|F_n\|_\infty < \infty$ が成り立つはずです.)

(4) から他の条件が出ないこと: 
$F_n(x)=e^{inx}$ とおけば,Riemann-Lebesgue の定理より (4) が
成り立っています.しかしこのとき,$f\in L^2({\bold R})$ に
ついて $\|F_n f\|_2 = \|f\|_2$ なので (1), (2), (3) のいずれも成り立ち
ません.

\bye