数学 II
水1限,2011冬,東京大学教養学部(文系,1年生),524教室

TA: 粕谷直彦・田中雄一郎

  1. 10月12日
    0. ガイダンス
    • 諸外国における同年代を意識せよ。
      (参考資料:シカゴ大学での(日本でいうところの文系クラスの)線型代数の試験問題)
    • (経済学等で使われている)数学をブラックボックスとして鵜呑みにせずに、芯から理解するための知力を鍛える。
    • この数学IIでは、シラバスより少し多めの内容を学ぶ予定である。しかし、公式等の知識ではなく、将来に役に立つための思考力と吸収力を鍛えることを重視する。
    • 将来に役立つ力を身につけるためには、「わからない」ということに正面から向き合おう。もやもやとしてわからないことを大事にし、それを捨てずに心の中に育てる。
    • わからないことを鵜呑みにして「記憶」してしまうと思考が止まってしまう。「なぜ」を突き詰めて、わからないことを自分の中で大事に育てるということ。
    • 少ない概念で難しい問題を解く(小中高での数学) ⇒ 新しい概念を理解して、論証を積み上げ、芯となるものを理解する(大学の数学)
    • この講義を通じて数学を好きになってほしい。

    • 冬になって寒くなっても講義に遅刻せずに頑張りましょう。
    • 毎回、解答つきの演習問題を配布する予定です。
    1. 行列の定義
    •  行列の表記法(大きなサイズの行列にも適用できる抽象的な記法と視覚的な理解)
    [ 演習解答 ]
  2. 10月19日
    • 行列に対する様々な操作
      一般的な設定で問題を考える際には、 原理を見抜くことと基本的操作に習熟することが重要。 最初に、基本的操作(行列の演算)に慣れよう。
      • 転置
      • スカラー倍
      • 積(人工的に思えるが,実は自然なものを反映している)
    • 行列の積の3通りの理解法
       抽象的な公式による理解、図による理解、例による理解
    • 入力と出力 と行列の積
      例:食品分析表
      例:ある生物のn年後の個体数
    • 行列の積を用いることによって既知の問題の理解を深める他の例
       例1.連立方程式の行列表示 (来週の講義)
           ポイント:パラメータを動かした時の解の存在・非存在を系統的に理解する
       例2.数列を表す漸化式の行列表示 (演習問題)
    • 行列の積に関する結合法則(演習問題)
    [ 演習解答 ]
  3. 10月26日
    • 鶴亀算、連立一次方程式、手法と到達目標
    • 目標:連立一次方程式を解を求めることではなく 解の構造の理解を目標とする。
    • 解の構造とは?
    • 考え方:解、あるいは 解の構造が同じでも、 方程式のみかけが異なることがある。 これを徹底して公理化する。
      Step 1. 連立一次方程式の行列表示
          係数行列と拡大係数行列
      Step 2. 解を不変にする式変形 → 行に関する基本変形
      行列の行に関する3つの基本変形 (方程式の解の構造を保つ操作)
        (A) ある行に他の行の定数倍を加える
        (B) ある行を(0でない)定数倍する
        (C) 2つの行を入れ換える
      Step 3. 行列の標準化(次回)
    • 来週は確認テストを行う(範囲:講義の内容、演習問題1,2回 奇数番号、演習問題3回問1,3,5)
    [ 演習解答 ]
  4. 11月2日
    • 確認テスト
      問1:6点満点,平均5.5点
      問2:4点満点,平均3.4点
      問3:5点満点,平均3.6点
      問4:5点満点,平均2.6点
      全体:20点満点,平均13点  
    • 行列の積に関する結合法則(補足)
      *準備 1 二重和の記号の意味
      *準備 2 行列の積の定義の復習
      *行列の積に関する結合法則の論証
    [ 確認テスト解答 ]
  5. 11月9日
    • 復習 連立一次方程式の解の構造を調べたい
         解を不変にする式変形 → 行に関する基本変形
    • 今日の目標: 行基本変形に関する標準形
         ルールが違えば標準形も異なる。
    • 定理: 行基本変形に関する標準形
    • 補題 (変形のユニット): 特定の行列成分に注目した行基本変形
    • 補題を繰り返して実行して定理の証明法を行う (掃き出し法 と呼ばれる証明法をアルゴリズムで説明)
    [ 演習解答 ]
  6. 11月16日
    • 行列の標準化
      掃き出し方のアルゴリズム と 各ステップの意味の検討
      行列の階数(ランク)の定義
      • 行列Aに対し標準化のアルゴリズムが第r段階で終了したとき, rをAのランク(階数)と呼び,rank Aと表記する.
      • Aがm行n列なら,rank Aはm及びnを超えない.
      • Aに縦ベクトルを付け加えてえられる行列のランクとAのランクが 一致するのはいつか? 異なるのはいつか? (標準形で理解する)
      ※関連:super computer K(京)
      • 最速を数値化するベンチマークと連立一次方程式
      • super computerの得意なこと、不得手なこと
      • 用途→天気予報,素材開発etc
    • 連立一次方程式への応用
      • 拡大係数行列に対し行基本変形を施しても, 方程式の見かけは変わるが解は変わらない. →行列を標準化し,方程式を簡単にする.
      • 次の不等式は行列の標準化の理論から直ちにわかる (係数行列のランク)≦(拡大係数行列のランク)
      • 上の不等式で等号の成り立つ時に限り, 方程式の解が存在する.(次回に詳しく扱う)
    [ 演習解答 ]
  7. 11月30日
    • 連立一次方程式の解の構造(解の存在,一意性)
      定理:
      (1) 解が存在するための必要十分条件は
         (係数行列のランク) = (拡大係数行列のランク)
      言い換えれば、解が存在しないということは次の条件と同値
         (係数行列のランク) < (拡大係数行列のランク)
      (2) 解が一意的に存在するための必要十分条件は
         (係数行列のランク) = (拡大係数行列のランク) = (未知数の個数)
      (3) (係数行列のランク) = (拡大係数行列のランク) < (未知数の個数)のとき
         解は無数に存在する。
      このとき,n-(係数行列のランク)を解の自由度と呼ぶ.

      復習:ランクの定義
         行基本変形の標準形
         行と列の基本変形に関する標準形
      例1 未知数1つ 方程式1つの場合
      例2 未知数3つ 方程式1つの場合
      例3 未知数3つ 方程式2つの場合
          空間図形による自由度の解釈

    • 斉次方程式
      定義:
      連立一次方程式の右辺が零ベクトルであるとき, その方程式を(一次の)斉次方程式と呼ぶ.
      斉次方程式に零ベクトル以外の解が存在するための必要十分条件は
         (係数行列のランク) < (未知数の個数)
    • 固有値と固有ベクトル
      • 正方行列Aに対し,
           A u = λ u
        が成り立つとき、0でないベクトルuを固有ベクトル,λを固有値という. (入力uと出力Auが比例しているとみなすことができる)
      • 数λがn次正方行列Aの固有値であるための必要十分条件は
           rank (A-λ I_n) < n
    [ 演習解答 ]
  8. 12月7日
    • 定理 非退化正方行列Aの5つの特徴づけ
         (i) 斉次連立一次方程式 A x = 0 に x = 0 でない解が存在する
         (ii) 行基本変形によって A を単位行列 I_n に変えることができる
         (iii) rank A = n
         (iv) det (A) ≠ 0 (行列式については後述する予定)
         (v) 逆行列が存在する
    • 固有値と固有ベクトル
      • 固有値と固有ベクトルの定義
      • 固有値に関する定理:
        数λがn次正方行列$A$の固有値であるための必要十分条件は rank (λ I_{n} - A) < n となることである。
      • 固有値と固有ベクトルの計算例
      • 注意: n 次正方行列の固有値は n 次方程式の解として得られる 固有ベクトルがわかれば、固有ベクトルは連立一次方程式を解くことで得られる
    • 逆行列、ランク、行列式
      • 右逆行列と左逆行列の一致の定理:
        n 次正方行列 A について行列 X,Y が AX = YA = I_n を満たすなら、X=Y である。また、このような X(Y) は唯一つしかない。
      • 逆行列の定義
    • 写像
      • 写像の定義
        写像の特別な例としての線形写像と行列演算

            仕組み(からくり)
        入力 ―――――> 出力

      m行n列の行列Aは、n個の入力からm個の出力を与える、写像(線形写像)を定める。

      問: 仕組みと出力から入力を求めることは可能か?
      問: 入力と出力から仕組みを求めることは可能か?

    [ 演習解答 ]
  9. 12月14日
    • 「長さ、面積、体積」と「内積、外積、行列式」
      • 2次元平面,3次元空間の内積
      • ピタゴラスの定理、余弦定理の3種類(幾何、ベクトル、座標)の記法とその高次元化
      • ベクトルの内積
      • 直交条件 と 平面の方程式 法線ベクトル
      • 平行四辺形の面積の公式 (座標によらない公式)
      • 平行四辺形の面積の公式 (座標による表示式(2次元・3次元))
      • 3次元ベクトル空間の外積の定義
      • 外積の基本的性質とその幾何的な意味
        (1)2つのベクトルの外積は、元の2つのベクトルのそれぞれと直交する。
        (2)2つのベクトルの外積の長さは、元の2つのベクトルで張られる平行四辺形の面積に等しい。
    [ 演習解答 ]
  10. 12月21日
    • 定理2(内積と外積の関係式)の証明

      (axb,c)式は3次正方行列(a b c)の行列式と一致する.

      (関孝和の斜乗之法「解伏題之法」関孝和(1683))
      (同じ公式はSarrusの公式(フランス, 19世紀)とも呼ばれる)

      ※行列式の一般論は来年扱う

      =定理1と2を
      A:図形の立場
      B:3次正方行列の立場
      から理解しよう=

      A 3次元ベクトルの外積を座標を用いないで、図形的に特徴付ける

    • 右手系と左手系   
    • 外積ベクトルの特徴付け
      abの外積ベクトルは,
      1. aにもbにも直交し,
      2. 長さがabとで張られる平行四辺形の面積に等しく,
      3. 向きはa,b,a×bが右手系を成すような向きである
      という3つの性質で完全に決定される.
    • 外積の物理学への応用
        電磁誘導に関するフレミングの左手の法則と右手の法則

      B 外積の基本的性質と逆行列

    • (準備)2つのベクトルの内積は,転置を用いることで行列の積として表せる.
    • 定理2を用いると,3次の正方行列の逆行列が求まる.
      定理:A=(a b c)に対し,
         x=(axb, c)が零でなければ
      Aには逆行列A^{-1}が存在し、次の形で与えられる。

      A^{-1}= 1/x (b×c c×a a×b)の転置行列

      が成り立つ.

    • お知らせ
      1月11日(水)に確認テストを行います。 みなさんが、将来、ふとしたときに、底力として役立つような数学の思考や数理 の基礎力を育てることが目的ですので、成績を競うようなパズル的な問題は出さ ない予定です。この講義の中の大事なことを掴み、理解し、あるいは理解に到達 しないまでも、自分の心の中で育てる過程(第1回のガイダンス参照)を大切に したいと思います。 確認テストは、講義の内容と演習問題を出題範囲としますが、本試験よりも ずっと簡単なものになります。
      いままでの講義の中で、すぐにはわからなかったが後で考えると理解が深まった こと、新鮮に感じたことなども、さらに自分の頭の中で整理しておかれると良い と思います。また、演習問題は特に基本的な問題を見ておかれると良いでしょう。
  11. 1月11日 第2回確認テスト
    問2から問7まででは、40点が満点で、30点以上の得点(正答率75%以上)の 方は全体の41%の人数でした。
    問2や問7などの基本的な概念の定義が書けていなかった方が意外に多く見られまし た。今回できなかった方は、略解を参考にして、答えの書き方を学ばれると良いと思 います。
    以下、各問ごとの平均点です。

    問2: (行基本変形の定義と連立方程式における役割):正答率 40 % (平均点2.0点/満 点5点)
    問3: (ランクが0,1,2,...の行列の例示):正答率 92% (平均点4.6点/満点5点)
    問4(ランク1の行列):正答率 70 % (平均点5.6点/満点8点)
    問5(パラメータつきの連立方程式の解構造):正答率 59 % (平均点5.9点/満点10点)
    問6(固有値・固有ベクトルの定義):正答率 34 % (平均点1.7点/満点5点)
    問7(内積・外積・面積):正答率 80 % (平均点5.7点/満点7点)

    問2から問7の正答率 63.5% (平均点25.4点/満点40点)
    [ 問題解答 ]

  12. 1月18日
    ○行列式
    • n次正方行列に対して,行列式とよばれる数が定義される.
      ポイント:
      行列式は,数であるという点において行列よりも扱いが容易であり, なおかつ行列の様々な性質を反映している.
    • 置換群(対称群)
      ≪n個の文字の置換全体のなす集合(置換群,もしくは対称群という) を5つの観点から理解しよう≫
      1. 順列・置換
        数1〜nを並び替えてできる,n個の文字列の全体(全部でn!通り)と見る.
      2. 記号による表示
        左から何番目かという情報を記載する.
      3. 写像による表示
        置換の左からi番目の文字に対して、σ(i)という文字が対応していると考える.
      4. 配置
        1〜nの置換σに対し,σ(j)=iのときn次正方行列のi行j列の部分を塗る.
      5. ひも表示
        1〜nの数を上下に書き並べ, 上の数と下の数を1つずつ結ぶ(見た目はあみだくじに似ている).
        〈ひものルール〉
           ひもは下から上にいかない.
           2つのひもは接しない.
           3つ以上のひもは1点で交わらない.
           始点、終点にはそれぞれ一本のひも
      【置換の符号の定義】
      ひも表示において交点の個数が
        偶数のときsgnσ=+1
        奇数のときsgnσ=−1
      と定める.
      【定理】 1つの置換を与えるひもの交点の偶奇は,ひもの取り方によらない.
    • ひも表示を用いた行列式の定義を3次正方行列および2次正方行列で理解する
      [ 問題解答 ]
  13. 1月26日(木)
    行列式の基本的性質

    定理0 det(I_n)=1 (I_nは単位行列)

    定理1 det (AB) = det(A) det (B)
        (行列の積の行列式=行列式の掛け算)

    定理2 行列の行を入れ替えると,行列式は -1 倍になる.

    定理 正方行列 A に逆行列が存在するための必要十分条件は,det A ≠ 0

     必要条件であることは定理0と定理1からわかる。
     十分条件であることは行列の余因子展開からわかる。

    余因子行列の定義

    余因子展開,Laplace の展開公式

    これらの性質はひもの符号 sgn の性質に帰着される。
    (先週: 置換 sigma をひもで表して,その交点数が m のときsigma の符号は (-1)^m となる.)

    ●今学期のまとめ
      行列の積
      連立一次方程式の考え方---解の構造(解そのもの、解の存在や自由度)を変えない
        方程式の変形を徹底的に考える ⇒ 行列の行基本変形 ⇒ ランクの概念
    (行)基本変形に関する標準形の理論
      掃き出し法
      線形写像、固有値、固有ベクトル
      空間図形と線形代数:外積と平行六面体の体積
      置換と符号
      行列式のその諸性質
    [ 問題解答 ]

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© Toshiyuki Kobayashi