論文リスト

arXiv に出した順。コメント・質問・疑義、なんでも歓迎。

[1] Tingley's problem through the facial structure of operator algebras.
J. Math. Anal. Appl. 466 (2018), no. 2, 1281--1298. doi:10.1016/j.jmaa.2018.06.050, arXiv:1712.09192.
修士論文。Tingley 問題とは「Banach 空間がふたつ与えられたとき、その単位球面のあいだの等長全単射は、もとの Banach 空間全体のあいだの実線型写像に拡張するか」というもの。主定理の一つは、双方の Banach 空間が von Neumann 環の predual の場合に関する Tingley 問題の肯定的な解決である。問題は M2 の夏ごろに MathSciNet で知った。
※問題6.1は[2]で肯定的・より強い形で解決。
[2] (with N. Ozawa) Mankiewicz's theorem and the Mazur--Ulam property for C*-algebras.
Studia Math. 250 (2020), 265--281, doi:10.4064/sm180727-14-11, arXiv:1804.10674.
[1] について RIMS で講演したところ、なんだかんだあって結果的に共著となった。自分の研究に興味を持ってくれる人がいることはなんとありがたいことか。一方の Banach 空間が単位的 C* 環の場合に Tingley 問題を肯定的に解決した。自分がぼーっとしている間に共著者が色々と進めてくださった。感謝。
[3] Isometries between projection lattices of von Neumann algebras.
J. Funct. Anal. 276 (2019), no. 11, 3511--3528. doi:10.1016/j.jfa.2018.10.011, arXiv:1805.04660.
主定理では、ふたつの von Neumann 環の射影束のあいだの等長全単射を Jordan *-同型を用いて特徴づけた。修士論文を書いているとき、この問題が解けるかどうか気になっていたものの、無理だろうとあきらめていた。しかし2017年末に B(H) の場合に解決されたことを知り、考えてみたら似たような方法でできた。
[4] Order Isomorphisms of Operator Intervals in von Neumann Algebras.
Integral Equations Operator Theory 91 (2019), no. 2, Art. 11, 26 pp. doi:10.1007/s00020-019-2510-x, arXiv:1811.01647.
von Neumann 環の区間のあいだの(非線形な)順序同型を、Jordan *-同型と可測作用素を用いて特徴づけた。非可換L^p空間を考えるとき以外で可測作用素にこのような有効な活用法があるとは意外であり、気に入っている論文である。[3] までがすべて等距離写像の話で、そろそろ別のことをしたいと思っていたら丁度いい問題があってよかった。
[5] On 2-local nonlinear surjective isometries on normed spaces and C*-algebras.
Proc. Amer. Math. Soc. 148 (2020), No. 6, 2477--2485. doi:10.1090/proc/14949, arXiv:1907.02172.
保存問題の人々のあいだではポピュラーな局所(等距離)写像について考えてみたが、わからないことばかり増えてしまい、自分の手には余るので公開した。
[6] (with P. Šemrl) Continuous coexistency preservers on effect algebras.
J. Phys. A 54 (2021), no. 1, 015303. doi:10.1088/1751-8121/abcb44, arXiv:1911.09490.
2019年5月のスロベニア滞在中にこのトピックに興味あるかと聞かれ、(あまり深く考えず)「ある」と言ったら次の日には自分の名前の入った論文が用意されていて仰天。しかし実はそれは彼のアイデアをまとめただけのもので、そこから紆余曲折を経て完成に至った。主結果に物理学的意味がどれだけあるか自分にはよくわからないが、証明は初歩的かつ巧妙な感じがして数学的には面白いかもしれない。
[7] (with P. Šemrl) Loewner's theorem for maps on operator domains.
Canad. J. Math. 75 (2023), no. 3, 912--944. doi:10.4153/S0008414X22000219, arXiv:2006.04488.
もともと有限次元の場合の順序埋め込みについて考えていて、6節の定理を中心に単著論文としてほぼ仕上げていたが、その原稿を後の共著者に見せたことで話が膨れ上がった。自分が双正則写像といった高尚な数学に関わる論文を書くとは、一年前は想像もしていなかったことである。
[8] Lattice isomorphisms between projection lattices of von Neumann algebras.
Forum Math. Sigma 8 (2020), e49. doi:10.1017/fms.2020.53, arXiv:2006.08959.
かつて von Neumann がきっと興味を抱いていたであろう、一般の von Neumann 環の射影束の同型について考察した。そのような同型を、局所可測作用素環の環同型(加法的かつ乗法的全単射、線形と限らない)により特徴づけた。[4] に続き可測作用素がまた役に立った。[7] と並んできちんと意味がある結果を導けたと思う。これほど基本的な研究トピックが作用素環論において手つかずであったことは、極めて不思議である。
※予想5.1, 5.2 はII_1型の場合はこれで、II_∞型の場合は [11] で解決。
[9] (with G.P. Gehér) The structure of maps on the space of all quantum pure states that preserve a fixed quantum angle.
Int. Math. Res. Not. IMRN 2022, no. 16, 12003--12029. doi:10.1093/imrn/rnab040, arXiv:2102.05780.
高校生みたく、sin とか cos とかを頑張って計算したら論文になった。複素 Hilbert 空間の射影空間における、距離が定めるあるグラフ構造についての同型写像を考える、みたいな内容。一般に「部分空間を3つ以上同時に考えるのはとても難しい」とされているが、それを身にしみて感じた。こういう類の、前提知識をほとんど必要としない研究が自分の性に合っていると思う。
[10] On regular *-algebras of bounded linear operators: A new approach towards a theory of noncommutative Boolean algebras.
東北数学雑誌 75 (2023), no. 3, 423--463. doi:10.2748/tmj.20220316, arXiv:2107.05806.
自分は自分自身が解析学の研究者であると信じているのだが、極限をとったり小さいεやδを考えたりすることがあまり多くない。そこを逆手にとって、解析っぽい側面をほとんど排除した、新しい(というよりむしろすごく古い?)作用素環の研究をしてみた。Kadison の問題が解きたくて始めた研究だったのに、解けなくて、いつのまにか束論(『非可換』なブール代数)の論文ができあがってしまった。かつて作用素環の隣接分野として盛んに研究されていた連続幾何や量子論理が深く関係している、らしい?
[11] Ring isomorphisms of type II_∞ locally measurable operator algebras.
Bull. Lond. Math. Soc. 55 (2023), no. 5, 2525--2538. doi:10.1112/blms.12880, arXiv:2206.00875.
[8] に書いた自分の予想を自分で解決。自分で解くのはあまり健全じゃないと思いつつ、他の研究がなかなかうまくいかないのでしょうがなく書いた。非有界作用素がでてくる点がやや厄介だが、予想がII_1の場合に正しいならII_∞でも正しいことは至極当たり前である。
[12] (with P. Šemrl) Nonexpansive and noncontractive mappings on the set of quantum pure states.
Accepted for publication in Proc. Roy. Soc. Edinburgh Sect. A, doi:10.1017/prm.2024.133, arXiv:2305.05123.
複素 Hilbert 空間の射影空間に対し、その等距離写像を(反)ユニタリ作用素を使って特徴づけるのが Wigner の定理である。この論文は、Wigner の定理の設定をいじってみる、というこれまでもたびたび行ってきた研究の一環として書いた。今回は等距離写像のかわりに非拡大写像や非縮小写像を考えてみた。非拡大写像を考えると「行列の成分ごとに絶対値をとる」という謎写像が自然に現れることがわかった。物理的な意味があったりするのだろうか。
[13] On the distance from a matrix to nilpotents.
Linear Algebra Appl. 679 (2023), 99--103. doi:10.1016/j.laa.2023.09.011, arXiv:2307.04463.
短い。n×n のベキ零行列全体とゼロでない直交射影行列全体のあいだの距離を求めよ、という学部生向けのクイズみたいな問題が未解決だと知ったので、解いてみた。問題を知ってから少なくとも2年半は解けず苦い思いをしたのだが、ちょっと考え方を変えたらあっさりできてしまった。結果的に私のいろいろな理想(みじかいこと、かんたんなこと、有名じゃないけど歴史ある問題を解決できたこと、これまでと少し違う方向性の研究ができたこと...)が叶い、とても嬉しい。すぐ載った。
[14] On the Scottish Book Problem 155 by Mazur and Sternbach.
Accepted for publication in C.R. Math. Acad. Sci. Paris. arXiv:2308.03339.
最短記録。河東先生の還暦記念集会のときに某氏にウザ絡みをしてたところ、表題の問題の正しい解釈がわかり、2日考えてみたら概ね解けた。Baire の範疇定理がカギである。学生時代は Baire の定理を自分で使うのは難しそうだと思っていたが、慣れれば案外自然に使えるものだ。Baire の定理を使うために仮定した可分性は外せるのかよくわからない。
[15] On the shape of correlation matrices for unitaries.
Accepted for publication in Math. Scand., arXiv:2308.03345.
短い。「直交射影行列やユニタリ行列 n 個のあつまりは、Hilbert--Schmidt 距離についてどのような距離空間をなしえるか?」みたいな問題がテーマ。この問題は理研時代にかなり頑張って考えたのだが、思うような結果は得られなかった。諦めのしるしにわかったことを公開してみたら、主結果2つのうちの1つは既知だとわかり、内容が半減してしまった。
[16] (with S. Oi) Multiplicatively spectrum-preserving maps on C*-algebras.
Preprint, arXiv:2404.04563.

[1--3,5,9,12--15] は作用素(環)や Banach 空間の距離構造に関係する研究。[4,7,8,10,11] は順序構造。[1,3,4,8,11,15] は von Neumann 環論に近い。[1,2,5,14] は Banach 空間論。[2,5,16] は一般の C*環が出てくる。

[3,8--13,15] では直交射影作用素がメインキャストとして登場する。[6,7,9,12,13,15] は有限次元の場合だけ考えてもある程度の新規性があるはず。


その他

[i] Preserver problems and isometries of operator algebras, RIMS Kôkyûroku No.2125, 11--27.
日本語で書いた研究紹介。[1] から [4] の主定理をざっくりまとめた。
[ii] ウェブ空間のバナッハ空間への埋め込みについて, 数理科学実践研究レター LMSR 2020-6.
リーディング大学院プログラムの一環として、企業の課題に取り組んだ。自分の土俵に持ち込んだが、数学的に新しいことはしていない。
[iii] Loewner's theorem for maps on operator domains, 令和2年度作用素論・作用素環論研究集会 講演アブストラクト、pdf.
[7] のまとめ。日本の人に読んでほしくて日本語で書いた。
[iv] On the geometry of projections of von Neumann algebras(邦題:von Neumann 環の射影束の幾何構造についてpdf.
博士論文。[3] と [8] に基づく。
[v] Lattice isomorphisms between projection lattices of von Neumann algebras, 第61回実函数論・函数解析学合同シンポジウム講演集原稿、 pdf.
機会をいただいたので、[8] と [11] についてまとめた。関数解析は多少知っているが作用素環は知らない、という人が読めるように工夫したつもり。
[vi] 被覆定理, 日本評論社『数学セミナー』2023年9月号 特集「あの頃に出会った定理」
飲み会で編集部の方と交わした会話内容をきっかけに依頼をいただいたようである。その話を書いてみたが、これでよかったのだろうか。
[vii] On the distance from a matrix to nilpotents, 令和5年度作用素論・作用素環論研究集会 講演アブストラクト、pdf.
[13] の内容をもっと丁寧に書きなおしてみた。誰か興味を持ってくれるかな。

森迪也のホームページに戻る。