学生との質疑応答 (2013年8月24日−25日)
質問 微分積分学の教科書p13の9の問題でコーシーの収束条件の証明問題があ り、解説の前半部分の必要条件は理解できたのですが、後半の十分条件がよ く分からないので教えていただけますか?。僕は以下のように解釈したので すがいかがですか?
(A.1)のようにa(1)からa(N-1)も不等式ではさむこと ができて、それぞれの上限の最大値、下限の最小値が数列a(n)の上限、下限 となるので、有界である。Sn={a(n),a(n+1),・・・}と置くと、S1はa1か ら数列anの全てを含み、S2は全体からa1を抜いたもの、・・・、Snは全体か らa(1)からa(n-1)までを抜いたもので、nがN以上のときa(n)-a(N)が-εから εの間にあるので、nが1からN-1まではこの条件を満たす必要は無いので、 ばらばらに点在していても構わない。よってS1はばらばらに点在していると ころも含むので下限と上限の差が一番大きいのに対しSnのnが大きくなるの につれて、下限と上限の差が小さくなっていく。あとは任意のn,m>=Nでa(n) とa(m)の差の絶対値がε未満で、それはSnの上限と下限の差の絶対値がε以 下(上限と下限がεに対応するとき等号は成立する)を意味する。
回答 授業内容に関わる事柄について個人指導はいたしかねますが、あなたの質問と私 の回答を授業のウェブページに掲載して良いのでしたら、お答えしますが、どう しますか?
質問 分かりました。ウェブページに掲載お願いします。
回答 では、まず、あなたの質問の文章についてコメントします。あなたの文章は、言葉の使い方があいまいです。これでは意思疎通ができませんので、まず文章を直 してください。
質問 これで大丈夫でしょうか?
a(n)は有界であるのでSn={a(n),a(n+1),・・・},Snの上限、下限をBn,Anと置くと、nがN以上のときa(n)-a(N)が-εからεの間にある。任意の正数εに対してNが存在し、n,m>=Nでa(n)とa(m)の差の絶対値がε未満なのでm=Nとして、a(N)-ε<=An<=a(n)<=Bn<=a(N)+εなので0<Bn-An<=2εである。従ってnが無限大に発散した時のAnとBnの極限値は一致する。
回答 だいぶよくなりました。このように、用語の定義に照らし合わせて、意味が正確に伝わるように述べようと努力すると、自然と問題が解決することも多いと思い ます。この調子でもうひとがん張りしてみましょう。
質問
数列{a(n)}は有界であるのでSn={a(n),a(n+1),・・・},Snの上限、下限をBn,Anと置くと、nがN以上のときa(n)-a(N)が-εからεの間にある。任意の正数εに対してNが存在し、n,m>=Nでa(n)とa(m)の差の絶対値がε未満なのでm=Nとして、a(N)-ε<=An<=a(n)<=Bn<=a(N)+εなので0<Bn-An<=2εである。従ってnを限りなく大きくしていった時のAnとBnの極限値は一致する。
回答 あなたの質問文に書いてあって,教科書の解答に書かれていない内容は,教科書 の解答の 「(A.1) より |Bn-An|<=ε (n>=N).」 であると思われます。それ以外の箇所は理解できましたか?
質問 他の箇所は理解できました。
回答 君の疑問点の部分は、教科書の解答の考え方とは違いますが、次のよ うに説明することもできます。ただし R は直線すなわち実数全体の集合を表し ます。
補題 直線 R の空でない部分集合 X は有界であるとし,その下限を A , 上限を B とする。また d を実数とする。 このとき,任意の a,b ∈ X に対して |a−b|<d となるならば, |A−B|≦ d である。
証明 ε>0 とする。下限の性質から a <A+ε/2 となる元 a∈X が存在し,
上限の性質から B−ε/2 < b となる元 b∈X が存在する。
そのような a, b を選ぶと,
|A−B|=B−A<(b+ε/2)−(a−ε/2)=b−a+ε≦|a−b|+ε<d+ε
である。
以上により,任意の ε> 0 に対して |A−B|<d+ε が成立するので,
|A−B|≦d である。実際,|A−B|>d だったとし,ε=|A−B|−d とおく。
このとき,ε> 0 となるから
|A−B|<d+ε=d+|A−B|−d =|A−B|
となって矛盾である。よって,背理法により|A−B|≦d である。
質問 僕が先ほど送った「a(N)-ε<=An<=a(n)<=Bn<=a(N)+εなので0<Bn-An<=2εである」という説明は正しくないということでしょうか?
回答 そこだけ見ると間違ってはいませんが、上限下限の性質をどう使ったのかが書い ていないなど、疑問点の説明としては、ちょっと説明不足です。
質問 ε-N論法では2εで上から押さえてもεで上から押さえている場合と同じだと思うのですがどちらを使っても構わないのですか?
回答 学習の途上では、定義に基づいて正確に議論できるかどうかがポイントでもある ので、大学一年生の夏学期では、暗黙のうちに ε で押さえることが求められて いると言えます。冬学期になり、学習が進んで、ε でも 2ε でも、どちらで押さ えても良いと言うことがいつでも簡単に示せるのであれば、そこの議論は省略し て 2ε で押さえる証明でも良いでしょう。
回答 詳しい解答を書いてみました。
任意のε> 0 に対して,自然数 N が存在して,m≧N,n≧N ならば |a(m)−a(n)
|< εとなると仮定する。
 : :
特にε=1 の場合を考えると,仮定から自然数 M であって,m,n≧M ならば|a(m)
−a(n)|< 1 となるものが存在する。そのような M を一つ選び,n≧M となる各
n に対して
S(n)={a(n),a(n+1),・・・,}とおく。 特にm=M の場合を考えると,n≧M ならば|a(M)−a(n)|< 1 すなわち a(M)−1 <a(n)<a(M)+1 となるので,集合 S(M) は有界である。(このことから,数列{a(n)}自体が有 界であることが分かりますが,これは以下の議論では使いません。)
A(M) ≦ A(M+1) ≦ ・・・ ≦ B(M+1)≦B(M)数列{A(n)}は上に有界で単調非減少なので,ある実数に収束する。また,数列 {B(M)}は下に有界で単調非増加なので,ある実数に収束する。それらの値を A, B とする。
a(N)−ε/ 3 <a(n)<a(N)+ε/ 3となる。従って,a(N)−ε/ 3 は集合 S(N) の下界であり,a(N)+ε/ 3 は集合 S( N) の上界である。よって,下限と上限の定義から
a(N)−ε/ 3 ≦ A(N) ,B(N) ≦ a(N)+ε/ 3が成立する。従って,
|A(N)−B(N)|≦ε/3+ε/3<εとなり,よって n≧N のとき
|A(n)−B(n)|≦|A(N)−B(N)|<εとなる。
質問 補題の証明について、仮定では任意の a,b ∈ X に対して |a−b|<d となっ ていますが、証明ではa <A+ε/2、B−ε/2 < bを満たすようなa,b∈Xに対して| a−b|<d となっていて違うと思います。そこのところを教えていただけますか?
回答 補題では、a,b ∈ X でありさえすれば,それらが何であっても必ず |a−b|<dとなることを仮定しています。証明では,a <A+ε/2、B−ε/2 < b を満たすような a,b ∈ X が存在することを用います。そのような a,b を選ぶと,選び方から特に a,b ∈ X となります。そのように選んだのです。従って,補題の仮定から |a−b|<d が成立します。
質問 包含関係を勘違いしていました。任意の a,b ∈ X に対して |a−b|<d なら ばある特別な a,b ∈ X に対しても |a−b|<d が成り立つけれども、もちろん ある特別な a,b ∈ X に対して |a−b|<dであったとしても任意の a,b ∈ X に対して | a−b|<d が成り立つとは言えないということで合っていますか?
回答 そのとおりです。