授業内容
理科U・V類用の数学1のシラバスを下に転載します。
代数・幾何とともに数学の柱をなす解析学の考え方や方法について学ぶ.
自然界の現象を定量的に記述しようとすると,ほとんどの場合に微分や積分を用いた方程式が現れる.微分や積分に代表される種々の操作を研究するのが17世紀末のニュートンやライプニッツによって創始された解析学であり,あらゆる科学技術の基礎となっている.物理学や天文学といった決定論的分野において解析学が基本的役割を果たすことはあらためて言うまでもなく,生物集団の消長(人口学・疫学・集団遺伝学),経済活動(株式市況・通貨相場変動)といった,一見非常に複雑かつ不確実で数学になじまないと見える現象でさえ,適正なモデル化により解析学の強力な手法が適用できるのである.
解析学の第一の特徴は,極限をとるという無限操作を駆使することにある.一般的にいって無限操作はかなり微妙な事柄であって,取り扱いを誤ると収束するはずの関数が発散するなどの問題を生じる.このような困難に対処するため19世紀に開発された技法が,“ε-δ論法”と呼ばれるもので,要は関数値(出力データ)の誤差をε未満に押さえるためには,変数(入力データ)の誤差範囲δがどの程度許されるか,という議論である.日常的な問題では微妙な事態の生じることが比較的少ないとはいえ,
ε-δ論法による処理が必要とされる状況もしばしば起こる.言い換えると,解析学は定量的諸科学において必須の道具であるとともに,厳密な取り扱いには一定の注意が必要な学問である.
数学Iでは1変数関数と多変数関数どちらも取り扱うが,時間的制約から1変数関数の解説に重点を置く.多変数関数についてのより詳しい解説は,3学期総合科目「数理科学I」「数理科学III」で行なう.
理科II・III類に対する数学Iの講義内容は概略以下の通りである.解析学は高校数学IIIの微分・積分の発展として位置づけられる.受講者全員が高校数学IIIをマスターしているとは限らないため,講義は高校の復習から始める.目安として1〜4を夏学期,5〜7を冬学期で学ぶが,実際の進行や順序は担当教員により異なることがある.
- 初等関数:指数関数・対数関数・三角関数など高校で学んだ初等関数について復習する.また微分や不定積分の直感的定義を確認し,これらの関数の微分や原始関数を求める.
- 実数の連続性と極限:実数列の極限は,高校においては直感的にとらえられていた.ここでは実数の連続性を説明し,それに基づいて収束や極限の概念をより正確に,より意識的に把握する.このような正確な把握から,「連続関数に関する中間値の定理」や「連続関数は有限閉区間で最大値・最小値をもつこと」などの性質が自然に導かれることを考察する.
- 1変数関数の微分:2で導入した概念に基づいて1変数関数の微分の定義を再考し,その基本的性質を論じる.合成関数の微分,極大・極小,平均値の定理,テーラーの定理,テーラー展開(関数のベキ級数による表示)を学ぶ.接線などの幾何学的概念や,速度や加速度といった物理量との関連にも触れる.
- 2変数関数の微分:2変数関数の偏微分と合成関数の微分則,およびその応用を学ぶ.特に全微分の定義とその可能性,偏微分の順序交換,2変数関数のテーラー展開,曲面とその接平面,2変数関数の極大・極小問題について考える.
- 1変数関数の積分:密度分布から全体量を求める区分求積法として定積分を導入し,その基本的な性質を学ぶ.定積分の積分区間の端点を
動かすことによって不定積分を再定義し,不定積分が原始関数になっていること(微積分学の基本定理)を確認する.不定積分の応用として,変数分離型など簡単な微分方程式とその適用例に触れる.積分の実際の計算法(部分積分・置換積分)や具体的な計算例(指数関数・対数関数・三角関数・有理関数)も重要である. - 重積分:2変数関数に対する重積分を区分求積法によって定義する.重積分を1変数の積分の繰り返しによる累次積分として表示し,面積・体積・重心などの計算を行なう.また重積分における変数変換公式(極座標による表示など)とその応用を論じる.
- 広義積分:無限区間における積分や区間の端で発散する関数の積分が広義積分であり,実際の応用上非常に重要である.広義積分の収束や発散について論じ,具体例(ガウスの正規分布関数など)を計算する.