東京大学大学院数理科学研究科、修士課程進学者用パンフレット
「平成24年度・研究分野と教官の紹介」原稿(拡大版)

氏名 : 河澄響矢
分野名 : 位相幾何、複素幾何・複素解析
キーワード : リーマン面、ゴールドマン・トゥラエフ・リー双代数、写像類群、タイヒミュラー空間

現在の研究概要:

リーマン面の位相幾何学を、(i) ゴールドマン・トゥラエフ・リー双代数、(ii) トレリ群のジョンソン・フィルトレーションに関する随伴リー代数および (iii) コンツェヴィチの形式的シンプレクティック幾何という3種類の無限次元リー代数を用いて研究している。これらの対象は、自由群の(一般化された)マグナス 展開というものによって関係づけられている。久野雄介氏(津田塾大・学芸)との共同研究で、曲面が境界をもつ場合、境界に端点をもつ路のホモトピー類を基 底とする自由ベクトル空間が、ゴールドマン・トゥラエフ・リー双代数に関して対合的双加群であることを発見した。このことはリーマン面の写像類群の構造解 明に幾つかの応用をもっている。他方、曲面に複素構造をいれると標準的に調和的マグナス展開とよばれるマグナス展開が一つ定まる。これはタイヒミュラー空 間上のある平坦接続を定義していると見ることが出来る。そのモノドロミーがジョンソン準同型というもので、森田・マンフォード類の「もと」である。 この接続を詳しく調べることが研究課題の一つである(が、難しい)。たとえば、この平坦接続を用いると新しい実数値タイヒミュラー・モジュラー函数を構成 することができる。調和的マグナス展開に限らず、マグナス展開と曲面の幾何構造(複素構造、ファット・グラフなど)および他の数学的対象(結合多面体な ど)との関係を見いだすことに強い興味を持っている。


学生への要望:

大まかな勉強も大事ですが、その気になれば厳密な教科書が暗で書けるぐらい習熟している道具を持っていることが大切だと思います。 数学的に最低限の意思疎通を行うために、

0)環上の加群(射影加群、平坦加群など)を含む広い意味での線型代数
1)基本群(被覆空間との関係、ファン・カンペンの定理など)
2)特異(コ)ホモロジー(ポアンカレ・レフシェッツ双対定理を含む)

だけは4月の修士課程進学までに必ずマスターしてきて下さい。 これらについては完全に習熟していることを前提にセミナーをはじめます。また、博士課程進学を考えている人はリー代数または群の (Lyndon-)Hochschild-Serre スペクトル系列を修士課程の早い時期に習得してください。
リーマン面に関連する研究は、現在、そこそこ活発に行われていると思いますが、決して、多くの人が同じようなことやって生きて行ける分野ではありません。 指導教員とのおつき合いでリーマン面の周辺を勉強することになるかもしれませんが、研究者を志し生き残りたいのであれば、新しい研究の視点を自分で発見す るとか、自発的に別の分野にずれていくとかすることが不可欠です。それには、分野の枠を超えて、 講演、講義、学術雑誌、セミナーなどを積極的に活用しなければなりません。


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