和達 三樹 氏(東京理科大学理学部物理学科)
『ソリトン物理はおもしろい スピノル型ボース・アインシュタイン凝縮体におけるソリトン』

内容:
アインシュタインは、ボースから送られてきたプランク公式の再導出に関する論文をドイツ語訳しているうちに、量子統計の一般化とそのことから生じる奇妙な現象を発見した。まず、化学ポテンシャルを導入し、原子・分子系を取り扱えるように拡張した(1924年、ボース・アインシュタイン統計)。そして、ボース・アインシュタイン統計に従う量子粒子系において、自由粒子であっても、ある温度以下では“特定の量子状態を巨視的な数の粒子が占める現象”が起きることを予言した(1925年、ボース・アインシュタイン凝縮)。
明快な形でボース・アインシュタイン凝縮の存在が確立されたのは、つい最近である。1995年、アメリカの3グループは、アルカリ金属の気体を100nK程度に超冷却してボース・アインシュタイン凝縮を観測することに成功した。2001年のノーベル物理学賞は、その業績に対して与えられた。その後、多くの実験的・理論的発展があり、最も活発な研究が進んでいる分野のひとつになっている。
講演においては、内部自由度をもつ凝縮体の動的性質を記述する方程式(3成分Gross-Pitaevskii方程式)を用いて、多成分系での1次元非線形波動の伝播を議論する。我々は、密度に由来する非線形項とスピンに由来する非線形項が、同じ大きさの結合定数を持つとき、系が可積分になることを見出した。従来の多成分可積分系とは異なる、新しい可積分である。逆散乱法を適用して、Nソリトン解を求めることができる。ソリトンの分類、ソリトンの衝突について述べる。1成分ソリトン系の振る舞いは良く知られているが、多成分でのソリトンの興味深い諸性質が明らかになった。可積分系の数理と物理は、まだまだ大変面白い。