応用解析セミナー

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開催情報 木曜日 16:00~17:30 数理科学研究科棟(駒場) 002号室
担当者 石毛 和弘

2013年12月12日(木)

16:00-17:30   数理科学研究科棟(駒場) 002号室
安田 勇輝 氏 (東京大学大学院理学系研究科(地球惑星科学専攻))
くりこみ群の方法による大気重力波の自発的放射メカニズムの解明 (JAPANESE)
[ 講演概要 ]
大気の運動は速いモード (重力波) と遅いモード (地衡流運動) に分けることができる。元の支配方程式系から、遅いモードの相互作用のみを取り出した方程式系をバランスモデルとよぶ。バランスモデルは、重力波を一切含まず、位相空間内の遅い多様体上の運動を記述する。バランスモデルによって大気の大規模運動は良く記述できる。しかし、近年、初期状態が遅い多様体上にあるにも関わらず、後の時間発展と共に重力波が放射され、解の軌道が遅い多様体上から離れることが分かってきた。この現象を重力波の自発的放射とよぶ。

本研究は逓減摂動法の一種であるくりこみ群の方法を用いて、自発的放射を記述する方程式系を導出した。遅いモードと重力波 (速いモード) が効率的に相互作用するためには、時間スケールの一致が必要である。そこで、ドップラー効果を取り込むことで、速いモードが遅い時間スケールを持つことを可能にした。一方で、ドップラー効果とは別に、遅いモード同士の相互作用により、遅い時間スケールを持つ速いモードも励起される。これら二種類の速いモードを別に考えるため、合計三つのモードを導入した。すなわち、遅いモード、「ドップラー効果」により遅い時間スケールを持つ速いモード、「非線形効果」により遅い時間スケールを持つ速いモードである。その上で、くりこみ群の方法を適用し、系の時間発展を記述するくりこみ群方程式系を導出した。くりこみ群方程式系は、遅いモードに従属した成分との準共鳴により、重力波が自発的に放射されることを明らかにする。

気象庁非静力学モデルによる元の支配方程式系の数値積分により、導出したくりこみ群方程式系の妥当性を確認した。さらに、くりこみ群方程式系を用いて、自発的放射の物理的解釈を行った。重力波の放射メカニズムは、山岳波的メカニズムと速度変化メカニズムの二つに分けられ、どちらが主要になるかは、大規模な流れ場の形状によって決定される。また、数値モデルのデータを解析したところ、重力波の振幅は系の無次元パラメータの約 3 乗に比例することがわかった。この結果は、理論的な見積りと整合的であり、実際の解の軌道が遅い多様体からどの程度離れるかの指標を与える。