拠点リーダーから
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拠点リーダー 川又雄二郎
グ ローバルCOE事業「数学新展開の研究教育拠点」がスタートしました。この事業は、数学新展開という言葉をキーワードに21世紀COE事業「科学技術への 数学新展開拠点」の後継として、2倍以上に規模を拡大した形で今年から5年間の予定で実施されます。21世紀COEの経験を生かして、そこで得られた数々 の成果をさらに大きなものへと発展させていきたいと思います。
目標は、数学の先端研究における国際級センターの地位を確立し、広い意味での数理科学の人材供給基地になることです。大学院の充実と研究の国際化を通し て、先端研究現場で人材を育成するというのがコンセプトです。「数学イノベーション」とも呼ばれる数学の応用範囲の広がりとともに、コア数学のなかへの新 展開も目指します。
「数学はひとつ」といわれます。本学数学教室の卒業生である小平邦彦先生(フィールズ賞受賞者)は代数・幾何・解析の各分野を広くカバーした深い研究業 績を上げられました。われわれは小平先生という素晴らしい手本を持っているのです。また、伊藤清先生(ガウス賞受賞者)も同時期の卒業生であるということ は、純粋数学(またはコア数学)と応用数学(または産業数学)は一体のものであるということを示しています。純粋数学で業績をあげた人が応用数学に守備範 囲を広げることができるのも、数学はひとつだからです。
多数の外国人ビジターが集う世界に開かれた研究科を目指します。スローガンは「東大に行 けば誰かに会える」です。国内外から優秀な人材を特任教員として招聘するほか、多くの短期ビジターを国際研究集会や共同研究に招きます。国際的人材が行き かい、高いレベルで刺激しあうという拠点を目指します。特に優秀な若手研究者には、小平先生にちなんだ「小平フェロー」の称号を与え奨励します。
博士課程大学院生の大部分をRAに採用し、経済的に自立して研究に専念できるようにします。RAにはTAとして短時間の教育活動を義務付け、将来教育職に 就いた場合のキャリアにも配慮します。若手の特任教員には、研究に支障のない範囲でさらに重要な教育活動を担ってもらいます。
GCOEの選考の過程では、数学分野以外の多くの指導的な方々に出会うことができました。世の中には「数学をやって何の役に立つのか」と問う人もあります が、数学に親しみを感じる心ある人たちも多いことを発見し、数学の重要性を再認識させられました。このプログラムは、多額の国費を頂いて、数学の次世代を 担う国際級の人材の育成を目指すものです。その期待にこたえるためには、さまざまな面でとびぬけたレベルの成果が要求されています。若手の研究者たちに は、良い意味でのノーブレス・オブリージュを自覚し、数学の研鑽に励むと共に、人間的にも素晴らしい人に育ってほしいと願っています。
2008年8月4日 川又雄二郎